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王国戦士団

 昨日はお休みしてしまってすみません。実はあるバンドのライブに行ってました。楽しかったです。……それだけです。

 第七十九部、第三章第二十七話『王国戦士団』です。どうぞ!

 武闘会最終日。本当の強者が集まる試合ということもあって、最終日の観客の数は初日の倍近く居た。あれで満員だと思っていたが、自由席である上に、一人一席、と決まっているわけでもないらしい。無理やりにでも入ったのか、至る所がきつきつの状態だ。その分歓声も大きく、会場は大いに盛り上がっていた。

 昼になる頃にはすでにトップ8まで絞られ、今まさに準々決勝が始まろうとしていた。強者同士の戦いっていうのは長引くものだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。力が拮抗する上に、自己流の戦闘経験豊富で相手を倒す方法、というものを確立できている者が多いため、どちらかが小さな隙をさらすだけでその試合は終わっていく。


 ルナとかな、カレラもそれぞれ刹那のうちに試合を終わらせた。ルナとかなに関しては、隙がなかったとしても倒せそうだけどな。

 そして準々決勝第一試合、ルナと大剣使いの男との試合だ。予定ではルナはここで負けることになっているが、どうやって負けるつもりか。


 すでに舞台の上で対峙している二人の表情にはかなり差があった。ルナは相変わらずの無表情に近しい顔、対する男は怯えにも近しい表情をしている。恐らく、これまでのルナの試合を見てきたのだろう。それなら怯えてしまうのも仕方がない。ルナとの対戦相手の中にもそこそこ強いやつらはいたが、そいつらはすべて一瞬のうちに倒されている。未知数な子供、そんな風に思えるのだろうな。


 まあ安心しな、多分勝てるはずだから。


「試合、開始だあぁ!」


 司会の声が会場に響き、試合の開始が宣言される。大剣の男が大きく踏み込み、全速力で距離を詰める。全力を出せるうちに、賭けでもいいから一撃入れよう、と考えたのだろう。

 そんな攻撃の対象となっているルナは、小さくあくびをしている。いくら何でも気を抜きすぎだろ……。ルナが間合いに入ったのだろう、大剣の男が剣を振るう。その刃は正確にルナの首元をとらえており、このまま一閃させれば殺される、とだれでも思うだろう。ルナのこれまでの試合を見てきたであろう観客たちでも、思わずといった感じで悲鳴を上げている。

 ルナは動く様子もなく、その場に佇んでいる。それを見た大剣の男は戸惑ったのか、少しばかり剣を振る速度が落ちたように見えた。そして刃がルナの首元に触れるかと思われた瞬間、男の動きが止まった。いや、止められた。

 剣に力を込めている様子だが、動かないのだ。理由は簡単だ。いつの間にか剣の刃に添えられていたルナの人差し指で止められているだけなのだから。


 驚愕に目を見開く男、つまらなそうにあくびをするルナ。しばらく見つめ合ったのち、先に口を開いたのはルナだ。


「ふむ、妾に傷をつけるとは、やるかの。この勝負、そなたの勝ちでいいかの」


 そういうルナの人差し指には、小さな切り傷ができていた。そこから、少量の血も出ている。


「……え?」


 何を言われたのか、理解ができなかったのだろう。男は呆けた顔をする。

 ルナは男の剣から指を放し、悠然と舞台から降りた。司会も理解が追いつかないのか、しばらくの間会場を静寂が包む。それでもルナが控室に戻るころには再起動したらしく、ルナが棄権した、という扱いで大剣の男の勝利が決まった。

 何とも理解しがたい負け方であった。


「ルナ女史、もう少し良い方法があったのでは?」

「今まで圧倒的強者であったのに、負けた演技などしても無意味。であったら、相手を称賛する、という形で棄権するのが最適解かと思ったかの」

「……そうか」


 どうやらルナなりに考えがあったらしいが、その考えは色々と割り切りすぎではないだろうか。対戦相手は納得していない様子だが、驚きに静まり返った闘技場の舞台を後にした。


そして準々決勝第二試合。今度はかなの試合だ。ちなみに、俺とカレラが戦うこともない。見事に四ブロックに分かれていた。恐らく領主さんの裁量だが、おかげでカレラに好成績を残させつつ優勝、ということが叶いそうだ。順調にいけば、俺、もといリルとカレラが当たるのは決勝になるからな。

 で、試合に戻る。かなはゆっくりとした足並みで舞台に上る。どこか元気がなさそうに見えるのは、わざと負けねばならないからだろう。今までだって戦ったかどうかわからないような試合だったが、わざと負けるっていうのはいい気はしないんだろうな。

 そう考えると、確かにルナの判断は良かったのかもしれない。自分が負けた、というムードが流れることもなく、負けたことにできたのだから。


(ルナもいろいろ考えてるってことだな)

(そのようだな。にしても、あそこまで落胆するものか……?)

(かなは強くなりたいって気持ちが強いからな。どんな戦いであっても、本気を出さずに負ける、というのは心に来るんだろう。でも、俺達の言うことにしたがってくれそうなだけ、偉いと思ってやってくれ)

(それもそうだな。あとで慰めねばな)

(ああ)


 どうせこの試合もさっさと終わるだろうし、俺の準備を始めるか。


「先ほどの試合では将来有望な少女の驚きの敗退でしたが、まだ期待の星は残っている! 謎の猫耳付きの服を着た少女、かなだああああ!」

「「「おおおおおおおおおおおおぉ!!!」」」


 

 会場が一瞬にして熱狂を取り戻し、歓声が巻きおこる。かなに対する声援も後を絶たず、これでは対戦相手が可哀想だと思えてしまうほどだ。


 ……なんだか、かなはかなりの人気を誇るらしい。人の声を理解できないかなは、急に沸き上がった会場に首をひねっているが。

 そしてその対戦相手だが、あまり見ない弓使いの三十代くらいの女だった。真剣な表情で、どこか冷徹な雰囲気を漂わせている。人を見た眼だけで判断するのは良くないとは思うが、あまり話しかけたいとは思えないタイプだった。

 弓を背負った冒険者ならたまに見るが、実際に使っているところを見たことはない。この狭い舞台の上でのように戦うのか疑問だが、ここまで勝ち上がってきたところを見るに、相当な腕前なのだろう。

 スキルを見てみると弓術Ⅳ、思考加速Ⅱ、俊敏Ⅲ、遠視Ⅰ、暗視Ⅰと、有用そうなスキルがそろっていた。レベルは29、ステータスは冒険者ランクB級程度。キーレより数段劣るだろうか。

 それでも実力はあるのだろうな。貫禄というか、強者の雰囲気はある。実際がどうかは分からないが、デロイトよりはプレッシャーを感じる。それでも、負ける気は微塵もしないが。


「あの人、確か王国戦士団の斥候部隊の隊長ですよ」

「王国戦士団の、斥候部隊? そういわれても、どれくらいすごいのかわからん」

「あ、ああ、それはそうですよね。王国戦士団というのは、私が一応入隊している王国騎士団の傘下になる部隊ですね。その斥候部隊って言うと、戦士団にいくつかある部門の一つですね。他には歩兵隊や魔法師団、工作部隊などがあります」

「なるほどな。実力としては、どんなものだ?」

「戦士団自体は騎士団に入れなかった者たちの寄せ集めのようなものなので、私でも小隊なら十分相手どれるくらいですが、一部門の隊長ともなるとそれなりの実力があります。特に、あの方は斥候でありながらも判断力と弓の扱いに長ける、有能な戦士だと聞いています。面識はないですけどね」

「なるほどな」


 この国の隠れた強者、ってところだろうか。


「まあ、大したことはないと思いますけどね」

「だろうな」


 出会った当時はあれだけ謙遜していたカレラが、毒舌を吐くようになるだなんて、俺達はちょっとカレラに良くない教育をしてしまったのかもしれない。

 さて、もうそろそろ第三章が終わる気配がしてきましたね。ラストスパート頑張っていきます!

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