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雪山の魔獣

 戦闘会を書くのが難しいことを今回のお話で改めて痛感しました。

 今後も頑張ります。

 第六十四部、第三章第十話『雪山の魔獣』

「さて、出発するとするか」

「はい、わかりました」


 翌朝、リルたちは日の出と同時に出発する。

 昨日から引き続き空は雲に覆われおり、天気的には心配が残る。まあ、ここにいる奴らなら雪崩が起きても大丈夫な気はするが……。それとこれとは別である。


 グリフォンが生息しているのはここよりもう少し上だと思われるため、まだ登山は続く。しばらく上った後、頂上が目前に迫ったあたりで俺の気配察知に反応があった。

 ここまで雪が邪魔してよくわからなかったがここまでくれば大丈夫だ。そのことをリルに知らせると、軽くうなずいて後ろの三人に向き直る。


「まあ、気づいているものは気づているだろうが、すぐそこにグリフォンがいる。推測通り山頂付近を寝床にしているようだ。これ以上上はさらに急斜面になるうえに足場が狭い。出来ればおびき寄せたいところだが、任せていいんだったな、ルナ女史」

「任せるかの」


 ルナは小さくうなずくと両手を空に向かって掲げた。何をするのか、と思っているとルナの手元に大きく光がともる。魔術・月光かと思ったが少し違う。俺には分からなかったのでしんさんに聞いてみると、魔力を発光させているとのことだった。

 そんなこともできるのか、と感心すると同時に魔力を直接光に変える方法について後で聞いてみようと思った。


 その光はどんどんと大きくなり、やがて山頂を丸ごと覆うほどに膨らんだ。そうしてしばらくすると、大きな咆哮と共に何かが山頂から飛び上がった。


「あの光には錯乱作用がある故、本能的にこちらに攻撃を仕掛けてくるはずかの。そこを迎え撃つのは、カレラ嬢の仕事かの」

「はい、分かっています」


 飛び上がったグリフォンは空中を大きく旋回した後、こちらに急降下してきた。ルナの言う通り、何が何だか分からずに攻撃している感じだ。


 グリフォンは俺の想像していた通り鷹の頭と羽がライオンにくっついた感じだった。全長は三メートルを超え、羽を限界まで広げたら五メートルを超えるだろう。そんなグリフォンが勢いよくこちらに迫ってくる光景はかなり迫力があったが、カレラは物怖じ消せず俺たちの前に出て、槍を取り出した。


「では、行きます!」


 勢いよく叫んだカレラは槍の間合いに入ってきたグリフォンの羽根を的確に貫く。真っすぐ突き進んできたグリフォンの体当たりは軽く躱され、体勢が崩れたグリフォンは地面に墜落する。

 しかしすぐさま起き上がり、逞しい獅子の体を使ってカレラに掴みかかる。体が大きいうえに空中よりも勝手が利くので避けるのは難しいとも思えたが、カレラは難なく躱して見せる。

 一歩二歩と相手の間合いをずらして隙を作り、自分の間合いの先端で敵を攻撃する。そんな定石ともいえる攻撃方法を、ただひたすら忠実にグリフォンに対して繰り返す。

 グリフォンのダメージは時間とともに蓄積されていき、最初に比べてかなり動きが鈍ってきた。そしてさらに判断力が鈍ったのか、大きく腕を振り上げて大振りの攻撃を仕掛ける。その攻撃を軽くかわし、カレラはグリフォンの首を的確に突き刺した。


「はぁ……はぁ……や、やりました!」


 凍えるような寒さ、膝丈まで積もっている雪、空気の薄い山頂付近、慣れない山肌。そんな状況下でグリフォンを相手に圧倒してのけたカレラの戦闘は、とても綺麗で賞賛に値するものだった。


「ああ、よくやってくれた。綺麗な身のこなし、洗礼された槍捌き、優れた判断力。このような悪環境の中であれだけ動け、あまつさえグリフォンを討伐してのけるその実力、確かなものだと我も評価しよう」

「右に同じ、かの。お疲れ様かの、カレラ嬢」

「あ、ありがとうございます!」


 肩で息をしつつも、本当にうれしそうに笑ってリルたちにお礼を言うカレラ。きっと、褒められたことも、自分が強敵に勝てたことも、とっても嬉しいのだろう。

 自分の実力が認められる、というのはそれだけ嬉しいことなのだ。俺だってその気持ちはわかるし、出来れば直接褒めてあげたいが、俺は喋ることが出来ないので諦めることにする。


「上出来、だな。これならば武闘会でも容易に負けることはないはずだ。それに、もし冒険者家業を続けるのだとしても申し分ない実力だと言えよう。我らの仲間にもふさわしい。やはり、カレラ嬢、君は我らと共にしばらく冒険者として働いてもらいたいな」

「妾も歓迎するかの」

「あ、ありがとうございます! 今後とも、よろしくお願いします!」


 大きく笑顔を浮かべながら頭を下げたカレラは、本当にうれしそうだった。


 そんなとき、突然雪が降り始めてきた。


「おや、ついに降ってきてしまったか。では、さっさと帰るとしよう」

「は、はい。そうしましょう」

「む? 疲れているのか? だったら休憩してからでもよいが」

「い、いえ……このままでは遭難してしまうかもしれませんし、早く帰りましょう。せっかく認めてもらえたのに、足を引っ張るわけにはいきません」

「……そうか。では、行くとしよう……やはり、どこかで覚えがある雰囲気だ」

「あの、何か言いました?」

「いや、何でもない」


 全く出番がなかったかなが後ろのほうで頬を膨らませる中、リルたちは帰路に着いた。今回ばかりはかなが可哀想だな。ただただ歩かされて終わり、という俺だったら絶対にお断りの冒険で終わってしまったのだから。


 そんなことを考えてしまったのが、今思えばフラグだったのかもしれない。


 気配察知に反応があった。


(リル、何かが上のほうからすごい速さで近づいてくるぞ!)

(わかっている!)「かな嬢!」


 リルの掛け声に小さくうなずいたかなは、その場で一歩踏み込み、宙に跳ぶ。さらに一歩二歩と空中を駆けると、その拳に魔力を籠める。


「《魔拳》」


 その拳を、今だ雲に覆われている空に向かって勢いよく突き出す、その瞬間。空を覆う雲を勢いよくかき分けて何かが降ってきた。いや、飛んできた。

 かなの全力の魔拳がその何かに直撃する。ドスッ、と鈍い音の後、かなが勢いよく落下する。が、空中で受け身を取り着地する。いや、何百メートルもある高さから落ちて無傷ってどういうことだよ。安心したけど。

 かなの攻撃を受け、さらにはかなを押し返すその何か。雲をかき分け姿を現したその何かは、白い肌の竜だった。


「白竜だ。雪山に住まうと言われている古の竜だが、まさか生きていた?」

「それはないかの。五千年ほど前に死んだと、確かに報告を受けているかの」

「では、どうして……いや? 待て。確かここに住み着いたグリフォンというのは――」

「キメラの一種、だったかの」


 白竜を見上げて呆然とするカレラの目を盗んで、リルとルナが何かを話している。

 俺は内容こそ聞いているがうまく理解できない。グリフォンがキメラの一種、ということ自体よくわからないが、それが何だというのか。


「つまり、白竜はそれを生贄に? いや、しかしグリフォンを倒したのはカレラ嬢だ。ではなぜ?」

「……確かグリフォンには子どもがいる、という噂があったかの」

「そうか! グリフォンの子供が生贄となって、白竜が復活したのか。……白竜が相手では、今の現状は分が悪いか」

「そう、かの。一旦引くことも視野に入れたほうがいいかもしれないかの。しかし……」

「ああ、かな嬢がやる気だ」


 結局話を理解することはできなかったが、まあグリフォンが生贄になってあの白竜とかいう白い古の竜が復活したってことだな?


 そして、リルの言う通りかなは既にやる気満々だった。いや殺る気、とでもいうのだろうか。目を輝かせて爪を長く伸ばし、毛を逆立たせ……。


(うおおおいかな!? 獣人ってばれるから!)

(そんなこと言っている場合じゃない。あいつを倒すのは今のリルじゃ難しそう。だからかながやる!)

(まっとうそうだから一概に否定できない!)


 誰だかなにこんな知識蓄えさせたの!


そんなわけで、予定になかった白竜討伐が始まってしまうのだった。

 ついに高校が始まってしまう。いやだ、そう思う限りであります()

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