冒険者
最近暖かかったり寒かったりして体調がよろしくありません。お陰で今日は寝坊して講習会に遅刻しました()
第六十一部、第三章第七話『冒険者』です。どうぞ!
で、だ。次は俺の番だがリルに全て任せることになる。それで俺が合格でいいのだろうか。まあいいか。
「では、始めよう」
「ああ」
二人の性格の問題だろうか。ものすごく淡白な会話で終わってしまった。そして、戦闘が始まる。
リルはもちろん本気を出さない。鈍らを振るって何とかするしかないのだ。俺の体である上に魔法も高いレベルの剣術も使うわけにもいかないだろう。
そうなると出来ることはカレラと大差なくなるだろう。だったらキーレに負けることは必須だろう。合格できないなんてことはないだろうがな。
さて、戦況はと言うと2人が剣を交え始めたところだ。しかしキーレの大剣は易々とリルの鈍らを弾く。まあ、そりゃそうだろう。調べてみるとキーレの大剣はミスリル合金で出来た魔剣だった。
攻撃力、耐久力共にリルの剣の五倍以上だ。まともに打ち合ってかてるわけがない。だからって上級剣術や属性剣術を使ってしまったら変に目立つ。
悪魔を倒せたのは運が良かったから、ということにしてしまいたいからそれは不都合と言える。
そんなことを考えていると、キーレが急に剣を下ろした。リルは不思議そうにしながらも同じように剣を下ろす。
それを見たキーレは満足そうに頷いてから口を開く。
「なかなかの腕だな。カレラ様と共にいるものというだけはある。よし、合格だ」
どうやら気に入られたらしい。合格をもらったリルは不満そうだが大人しく引き下がった。数回剣を交えただけで相手の実力がわかってしまうのだろう。キーレはカレラの他にも実力者がいて嬉しかったのだろう。楽しげに笑っている。
「では、次だな」
俺の番はあっさりと終わってしまったが、まだあと二人残っている。それを見届けるとしよう。
次はかなの番だ。
「どうして君みたいに小さい子が冒険者になろうとするのかはわからないが、評価は厳しめでいくから覚悟しているといい」
「――」
「話すことはない、か。じゃあ始めるとしよう」
違う。その子は会話が出来ないだけだ。言葉が理解できないだけだ。まあそんなことはどうでもいいが。
そして、試験が始まった。
「じょ、嬢ちゃん、つ、強いな……」
「――」
「それでもなにも語らず、か。なに、力の秘密を聞き出すつもりはない。安心してくれ」
だから違う。そいつ喋れないだけ。
ちなみに、試験内容自体はかなりの接戦となっていた。
かなが俊敏に立ち回ることで撹乱し、終始ペースを掴んでいた。まあ、人間と比べたら身体能力はかなの方が圧倒的に上だからな。強いとはいえ人間であるキーレにかなの相手をしろというのは無理があるというもの。
むしろ頑張ってくれた方だろう。
「では、最後はお嬢ちゃんだな。まあ、不本意だが本気でやらせて貰うから覚悟をおぉ!?」
キーレの体が宙を舞う。そして、そのまま地面に叩きつけられた。
「ほい、終わりかの」
「は? ……は?」
地面から顔をあげたキーレは呆けた表情でいつのまにかキーレに接近していたかなを見上げる。
「い、今のは? お嬢ちゃんが?」
そんなキーレの問いにルナは首肯で答えた。
こうして俺たちは冒険者になったのだった。
「では、これからの活躍に期待しています」
そんなこんなで冒険者カードという冒険者の証明書のようなものをもらって一旦帰ることにした。諸々の手続きはギルドがやっておいてくれるらしい。明日からは冒険者として活動できるそうだ。
今日は宿を見つけて泊まるとしよう、ということになった。早速宿をとって、俺たちは部屋に入った。もちろん二部屋分とったぞ。俺とかな、ルナとカレラの部屋割りだ。……結局かなとは同じ部屋なんですね。
それぞれの部屋に入ったのち、リルは俺の体から抜け出した。体の操作権を取り戻した俺はかなと並んでベットに腰を下ろす。
(さて、これからどうするか。何か考えはあるか?)
(うーん、まあ、適当に依頼をこなせばいいんじゃないか? 俺たちは教官の評価が高かったおかげでⅮ級からスタートだろ? モンスター討伐のクエストを受けることもできるはずだ)
(でも、弱そう)
(それは仕方ないな。かな嬢が満足できるような魔獣などこの近くにいるはずもない)
(そっか。残念)
(はは……でもかな、武闘会に出れば強い人と戦えるかもしれないぞ?)
(それは楽しみ)
と言っても人間基準の強いだからどうかわからんがな。
俺たちは今三人で同時に念話をつなげている。リルが魔術・精神の練度を上げたおかげで可能になったフリートークフィールドである。あ、魔法の名前じゃないからな?
名前はシグナルエリア。どっちでも気はするがな。魔法の名前は神様が決めていると、世界の書にも書かれているそうだ。しんさんがそう言っていた。
改めて自分の中で確認するが、この世界には本当に神が存在する。そして、その神によってこの世界は作られた。地形、法則、生命体。そのすべてが神の編み出したプログラムで、神の思い通りに動いているらしい。
と言っても自由意識はあるし、神から権利を与えられている。基本的生物権は神が生物に与えた権利である、という説明はその通りなのだ。
そして、この世界の神は二物以上をすぐに与える。リリアなんかはその筆頭格ではないだろうか。あれだけの権利を与えられるのはよっぽど神に愛されている証拠と言える。
そう、この世界における強さはどれくらい神に愛されているかで決まると言っても過言ではないのだ。
権利を与えるのは神の気まぐれ。ステータスやスキルによってなされる戦闘では奇跡など起こりえない。その戦闘が始まった瞬間に結果は定まるのだ。
もちろんミスだって起こりえる。だが、そのミスを含めた勝敗すらも、すべて織り込んで定まる勝敗。それがこの世界の戦闘だそうだ。
まあ、神でもない俺達には終わるまでその結果など分からないのだから、奇跡のように感じられてしまうこともまた仕方ないともいえる。いや、それこそを奇跡というのかもしれない。
結果の決まった戦闘すらも奇跡として記されるのだから、本当にこの世界の生物は可哀想だと思う。だが、それを俺にどうこうすることもできない。考えても仕方のないことだと言えるだろう。
それこそ、神に直接会ってみない限り、な。
(今後の方針としてはさっさと力を示して冒険者ギルド、ひいてはこの国からの信頼を得ることだな。そうすればきっと情報も集めやすい。そうだろう?)
(司殿の言う通りだな。出来る限り真の力を隠しつつ、多くの仕事をこなす。人間の範疇における最強の三歩ほど手前がちょうどいいだろうな)
(難しい塩梅だな……まあ、何とかなるか。それでいいな、かな)
(かなは司と一緒なら何でもいい)
かなははにかみながらそう伝えてきた。……あの、リルも聞いてるんですよ? かなさん、恥ずかしいです。
ほら! リルがニヤニヤしだした! こいつ、犬のくせに器用に表情変えやがって!
かなは天然だから困るのだ。そこが可愛いところでもあるが……。もうちょっと社会の常識を知ってもらったほうがいいかもしれない。……そう言えば俺も元引きこもりで常識なんてまともに守ってなかったか。
この世界の常識に関してはまだ全然把握してないし、それにかなはもともとただの野良猫なのだから常識を知らないのも仕方ないことか? ……まあ、なんだっていいか。
(じゃあ、今日はもう休もうぜ。もういい時間だろ?)
(そうだな)
カレラの家で昼飯をもらってからギルドに行ったのですでに日が暮れ始めている。
ちなみにそのご飯はカレラの手作りで、とても美味しいフレンチトーストだった。洒落たものはあんまり食べないが、あれを食べてしまったら毎日カレラに作ってもらいたくなる。毎日は無理でもたまに頼んでみるのもいいかもしれない。
晩御飯は部屋に運んでもらえることになっているので今日はもう部屋を出る必要はない。そう言えば、ルナとカレラはうまくやっているだろうか。特に問題はないだろうが、どうにも心配になるのはどうしてか。
そんなことを考えても自分から動くなんて面倒なので行動には移さない。基本的に怠惰な人間なのだ、俺は。
(へー、冒険者カードっていうのは便利だな。どういう仕組みなんだ?)
そんなこんなでベットに横になった俺は先ほどもらったばかりの冒険者カードを眺めていた。
そこに記載されている内容は冒険者としてのランク、氏名、クエスト達成率という欄だ。ランクの欄にはD、氏名の欄には司、討伐クエスト達成率は今は空欄となっていた。ちなみに司は漢字ではなくこの世界の文字だ。
クエスト達成率の欄は依頼を受ける際に受付の人に冒険者カードを提示することで使用できるようになり、受けたクエストをどの程度達成したかがわかる欄だそうだ。
不正を防ぐという意味でも、どれだけ魔獣を倒したかを確認する意味でもかなり便利だと思えた。
(それには魔獣が死んだ際に出るいわゆる魂のようなものを感知する刻印が施されているようだ。どの魂に反応するかを依頼開始時に指定することで指定された魔獣を倒すとカウンターが溜まっていく仕組みのようだ。ちなみに自分自身で直接倒さないとたまらないので団体での討伐の際は誰かが代表して冒険者カードを提示する、というシステムらしい)
(魔法の力ってすごいな)
改めて俺は神様が作ったと言われるこの世界の便利さを痛感するのだった。
本日転生したら剣でしたシリーズを購入しました! これで春休み中は暇することはないでしょう。
……きっと、本ばっかり読んでるから作品の質が上がらないんだろうなって思います。
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