絶封
更新がいつもより遅くなってしまいました。すみません! 卒業式を終え、休みとなったことで集中して書き続けていたら時間を忘れてしまっていて更新が遅れたのは内緒です!
4200PV突破ありがとうございます! これからも頑張ります!
第四十一部、第二章第十話『絶封』です。どうぞ!
「いざ、尋常に」
体全体をリルに動かされ、声帯さえも乗っ取られたからだろうか。俺は今、会話をしていた。
「もちろん、妾も全力でぶつからせてもらうかの」
そう、ルナの言葉が、理解できたのだ。リルの権利を共有することによって、疑似的に意思疎通を発動することが可能になっている。そのことに感動しつつも、戦闘中ということもあり、意識を正面に戻す。
喋っているのは俺ではなくリルで、口調や声音もリルのものだ。俺の意思で喋ることはできず、まともなコミュニケーションを図ろうとしても無理だろう。
念話でリルにこう話してくれ、ということはできても、主導権はあちら側にあるし、手間がかかる。結局、俺の体が喋っているだけで俺は喋っていないのと同義なのである。
まあ、今はそんなことはどうでもいい。
しばらくにらみ合っていたリルとルナが、動き出す。視点は大きく揺れるが、その中心にとらえられているのはルナだ。本当に俺の体か? と疑いたくなるほど俊敏な動きで縦横無尽に駆けまわり、リーチの長いロングソードで確実にダメージを与えていく。
ルナの反撃もロングソードで受け流し、威力を抑えている。多少飛ばされたくらいでは動じることもなく受け身を取り、再びぶつかり合う。爪と剣で数度切り合い、また距離を取る。お互いに牽制の意味を込めてルナは魔術・月光、リルは司水者を発動するが、どちらもうまく躱した。
緊張感が高まる中、詠唱もなくリルが魔術・氷を発動する。というか、発動したのは俺だし、使っているのも俺の体だ。だが体を操っているのはリルなので、リルが使ったとルナも思っているだろう。思ってる、よな? 多分、声と佇まい、動きで俺ではないと理解できるはずだし。
いや、そんなことはどうでもいいな。
俺の背後から数十本の氷の矢がルナに向かう。さすがに学んだのかそれに合わせて防御魔法を発動するルナ。しかし、リルは氷の矢がムーンライト・ベールに触れた瞬間、司水者を発動した。魔力が支配下に置かれ、ムーンライト・ベールも水に変わる。一応それも想定の範囲内だったのか、ルナは綺麗に躱した。
だがそれに合わせてリルは詰める。跳ねた体に剣を叩き込む。ルナはそれを腕で受ける、かと思われたその瞬間、影がルナの足に絡みつく。
完全にリルの攻撃に気を取られたからか全く反応できず、影が伸びて出来た黒い帯のようなものに足を取られるルナ。その帯は、リルのスキル影縛によるもの。影を操り、相手を捉える強力なスキルだ。
そして、リルはここから怒涛の攻撃を見せる。
魔力を放ち司水者を発動してそれらを水に変換する。そしてその後その水をドーム状にして空中で身動き取れないルナを囲む。そしてその中心で、闇空間門を発動する。
この技には、とある名前がついていた。一度捕まったら絶対に放さない。深い闇ですべてを飲み込む。
「《暗黒海洋・絶封》」
万物を暗闇に突き落とす絶対の牢獄、暗黒海洋・絶封。影縛にとらわれた時点で確実に決まるコンボで、初見ではどうやったって避けられない凶悪な技。対面最強、そう言ってしまえるほどの高等テクニック。闇空間門に捕らわれたものは、その空間内で絶望のどん底に叩きつけられる。耐えるにはものすごい精神力と、魔法耐性が必要で、例え耐えられたとしても心労がとてつもないらしい。
らしいというのは俺も実物は知らないからであり、おぞましすぎて口にするのも躊躇われるからとリルからも聞けていない。しんさんに聞いてみたくはあるが、あのリルですら言うのを控えるのだからよっぽどなのだろうと思い、聞いていない。
そして、もし一定時間以上闇空間門で精神をやられなかった場合、勝手に闇空間門が開いて捕らえた相手が出てくる。そこからさらに攻撃を畳みかけることもできるので、かなり強力な技となっている。
もし精神をやられてしまっていた場合、中身の抜けた状態で現世に投げ出され、そのまま土に還るだろう。闇空間で精神をやられようがやられまいがどちらにしても、待っているのは死。
そのはずだったのだが。
暗黒海洋・絶封が発動してから数秒後、球状の水から光が漏れる。その輝きは銀色で、まるで月光のようだ。いや、まさしく月光なのだろう。その光がはじけると同時、流れるような銀髪の少女が飛び出してきた。その顔を苦しそうにゆがませて。
「な、なんなのだ、あれは……二度と体験したくないかの」
ルナにすらこんなふうに言わせるとか、本当に何があるんだよ。
しかし、流石はルナといったところか。魔術・月光を使用したのであろうが、簡単に闇空間を抜け出すとは。
そして、そんなルナを見たリルは、小さくため息を吐いてこう言った。
「はぁ……さすがに、もうやめにせんか? 我はこれ以上の戦闘は無意味だと思うのだが?」
「そなた、まだ隠している力があるのではないかの? それをそのままにして、妾から逃れようというのかの?」
「それを使ったら最後、どちらかが本当に死にかねん。殺し合いが目的ではないのだろう?」
「……それもそうかの……。わかった、もう手を引くとしようかの。呼び止めて悪かったの」
え……え? いや、そんな、あっさりと? というか、殺し合いが目的でないって……。
そこで俺は思い出した。ルナが最初に言ったことを。
『そう固くなるでない。妾はただ、少しばかり手合わせがしたいだけ。何も殺し合いをしようというわけではない。安心せい』
そう言えば、そうだった。俺は何を勘違いしていたんだ……。戦闘があまりにも規格外だったので勝手に本気の殺し合いなのだと思っていた。これは……恥ずかしい。
いや、レベルが高すぎて俺は本気を出さねばならなかっただろうがな。本気を出しても勝ち目はなかったのだろうし、俺がやったことは間違いではない。それに、ルナは俺たちの真の実力を知りたいようだし、そういう意味でも俺は何も間違っていない。ああ、間違っていないんだ。
「それにしても、その奇怪な姿はどうにかならぬのかの? 見ていて気味が悪いかの」
「そうは言うがな、これが全力を出すのに適した姿なのだ」
「まあ、ならば仕方ないかの。して、そなたらはこれからどうするのかの?」
そして、あたかも旧友かのように話し出す二人。先ほどまでの激闘が嘘のようだ。
いや、そんなことよりも気味が悪い奇怪な姿というのが気になる。もしかして、リルと体を共有することで何か変化があったのか?
「我らは現在人間の国に行く途中だ。どうだろうか、貴女も共に来るというのは。我らは四代目ハイエルフ女王の使いでな。協力してくれれば報酬は保証するが?」
(お、おい! 何勝手に勧誘してるんだよ!)
(これでいいのだ。ルナ女史の力は強大だ。必ず此度の仕事の役になってくれるだろう。それに、この森の中で広大なテリトリーを保有する彼女を仲間内に招いておけば、後々リリア嬢の役に立つ。それでも嫌だと言うか?)
(わ、分かった。考えがあるのなら、まあいい)
そりゃ、そうだよな。リルのほうが何倍も賢いのだ。俺よりも確実に、堅実に、綿密に計画を立てているはずだ。道中の指揮もろとも、リルに丸投げするほうがいいであろう。
そして、誘われたルナはというと、小さく笑みを浮かべていた。
「いいのかの? 妾がついて行ってしまったら、人間どもに異国の民であると見抜かれるやもしれぬのではないかの? ちなみに、妾は行ってみたいかの」
ルナからしてみればついて行くだけでいいのだろうが、それでもルナがついてくることで発生するリスクを提示してくれている。なんと礼儀正しいのか。その常識人ぶりを最初に顔を合わせた時に発揮してほしかった。どうして出会って真っ先に戦闘にする必要があったんだと問い質したい。
「それに関しては問題ない。そもそも、あそこで寝ているかな嬢も獣人。簡単に人間の国に入れる立場ではない」
「そうかの? いや、そう言えば現在人類同士でいがみ合っているんだったかの。では、どう対策するのかの?」
「何も難しいことはない。マントでもかぶって、耳と尻尾を隠す。貴女に関しては擬態のスキルを駆使すれば耳と尻尾を収納することもできるのだろう?」
「出来るには出来るかの。しかし、よいのかの? 勘のいいものがいればすぐに見抜かれてしまうのではないかの?」
「人間には馬鹿しかいない。安心して大丈夫だ」
あの、俺人間なんですけど。
「そうかの? まあ、いざとなったら妾がそなたたちを欺いていたということにすれば事なきを得るかの。妾は構わぬかの」
「ありがたい。是非ともご一緒願おうか」
「もちろんいいかの。妾も人里に行くのは初めて故、何か仕出かすやもしれぬが、よいのかの?」
「そんなものは皆同じだ。我らは協力関係。そう考えれば、どうだっていいとは思わぬか?」
「それもそうかの。では、しばし待つかの。尾と耳をしまうかの」
どうやら話に区切りがついたようだ。で、俺の体がどうなってるのか教えてくれないか? どんなふうに奇怪なんだ? 自分では体を動かせないし見ることができないんだが。
そんなことを考えていると、目の前のルナの体が光りだす。特に耳と尻尾のあたりが強く光り、やがて光が消えた時、それらの部位はなくなっていた。
リルの言う通り、擬態の力を駆使すれば多少の見た目を変化させられるようだ。
「ふむ、かなり違和感がすごいかの。こんな小さく硬い耳で人は良く生きていけるかの」
ルナは自身の人間のものに似た耳を触りながらそう呟く。
「尾がないというのも、何とも不思議な感覚かの。何かが足りないむず痒さがあるかの」
「済まぬが、慣れてくれ」
「まあ良いかの。して、服装はこれでもよいかの?」
「和服、というものだったか? 現代でも使用する人間は珍しくもないので、さほど問題ではないだろう」
「わかったかの。では、妾は黒虎人のお嬢さんを起こしてくるかの。早くその姿をどうにかするかの」
「了解した」
ルナは自身の体を観察したのち、倒れているかなのもとに向かう。回復魔法でも使って起こしてくれるのだろう。
で、だ。
(リル、奇怪な姿って、今俺どんな姿しているんだ?)
(興味あるのか? 見せてやってもいいぞ)
(お、おう……お前にそう言われると見たくなくなるが、まあ、見せてくれ)
闇空間の中を聞くのは遠慮してしまったが、自分の姿を見るのは重要だ。しっかりと確認しておかねば。
リルが司水者を発動する。そして俺の目の前に膜のようなものを作り、楕円形に広げる。すると、その水に光が反射して鏡のようになっていった。これを鏡代わりにするのか。なるほど、賢いな。
そして、やがて鏡に明確に俺の姿が映し出された。その姿は、どう見たって人間ではなかった。
(こ、これは……奇怪だな。俺は嫌いではないが)
(見る者によっては恐ろしくも見えるであろうな)
今の俺の体は、体積の半分以上が液体でできていた。体のいたるところが水色になっており、顔も左目の周りが水色になり、瞳の色もサファイアのような青色になっている。液体部分は透けてはいないししっかりと実態はあるのだが、人肌とは色艶が違うためすぐに液体だとわかる。
恐らく、俺の中にある魔力を司水者で水に変えた結果なのだろうが、この見た目の変化はどうにかならないのだろうか。史上最高にダサい特撮ライダーだと言われても頷ける見た目であった。子どもが泣きだしそうだ。
髪もところどころ水色になっており、メッシュのようにも見えるが、元が俺なので全く格好良くない。高校デビューを失敗した痛いやつ、もしくは中二病真っ盛りの痛いやつにも見えるだろう。どちらにしたって痛いやつだ。
(これで敵と戦うのは……遠慮したいな)
(そうか?な らばもっと見た目を改変するか? 恐らく可能だぞ?)
(うーん、まあ、格好良くなるならそれでいいけど)
まあ、もっとも今はリルの闇空間に収納されているパーカーを着れば、下はジーンズなので目に見えての変化は顔の左半分だけになるのだから、ある程度はマシになるかもしれないが。
これからは常にパーカーを着て生活することにしようかな。
明日からも暇なので頑張って書き進めていきたいと思います! これからは一日に複数話更新することも考えなければならないかも知れません。
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