ルナ
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第三十九部、第二章第八話『ルナ』です。どうぞ!
しかして俺の剣は、その腕によって防がれる。かなりの力を籠めて振るったつもりだったが、俺ではそこまでの威力は発揮できない。
しっかりと剣の刀身をその手で押さえられ、じりじり後退する羽目になる。情けない。
剣ごと押しのけられ、数メートル吹き飛ばされる。剣を杖代わりにして態勢を整え、数歩後退する。かなも拳に籠めた魔力が暴発したのか、その場で大きく爆発が起こり、大きく後ろに飛んだ。それでも、ムーンライト・ベールには傷一つ付いていない。化け物が。
流石に爆発音には気を引かれたのか、ルナが一瞬俺たちのほうから目を離してかなに振り替える。しかしかなは吹き飛んだ衝撃でかなり遠くにいるので、警戒するほどではないと判断したのだろう。再びこちらを向く。だが、そこで目を見開く。恐らく、リルの姿が見当たらないからだろう。
リルは現在、影潜伏を発動中であり、目で捉えることはおろか、気配を探ることすらもできない。闇空間門と違い、出入り口が必要なく、影が続く限りいくらでも移動ができる。初見の相手に見破られることはまずないだろう。
リルの思考は理解しているので、俺はかなと共にルナの隙を作るために尽力する。
かなが一瞬にしてルナの背後まで詰め、それに合わせて俺も踏み込む。今度は逃さない。
「―――、―――――――」
偏差攻撃による疑似二対一状況を作るコンボ。先に放たれた真空斬を追い越して、俺はルナに剣を振るう。その刃は見切られ、左腕で受けられる。さらには真空斬もルナに襲い掛かるのだが、それすらも読まれたのか半身逸らされ躱される。
かなの拳、に見せかけた爪による斬撃は、ルナが発動したムーンライト・ベールに大きく切り傷をつけるが、切断には至らない。どうやら力を吸収する能力が高いらしい。そのため魔拳では無傷だったのだろう。しかし斬撃となれば話は別だ。薄ければ薄いほど切断されやすい。そう判断しての攻撃だったのだろうが、それでも破壊しきれない。しかし自身の魔法の欠点に気づかれたことが癪に障ったのかルナが眉を顰める。そして、俺とかなを同時に押し放し、後ろに大きく飛んで俺たちから距離を取りつつ魔法を発動した。
「―――――――――――――」
ルナの両手から実体を持つ輝く網状の物が放たれる。まともに触れるとやばそうなので、俺とかなはそれぞれの方向に散開して躱す。その輝く網状の物が触れた地面は、触れたそばから蒸発していき、そのまま沈んでいった。魔法で防いでもよかったかなと思ったが、無理をする必要はない。このような危険な魔法は避けるに限るな。
俺とかなは再び距離を詰めるために、ルナを両脇から挟むように大きく回り、ほぼ同じタイミングで急カーブし、ルナに向かう。両脇からの挟み撃ち、だがルナは俺たちの位置をちらと見ただけでタイミングを見切り、かなの方に一歩踏み込みタイミングをずらすことでかなの拳を掴み、俺の方に投げてくる。
咄嗟に受け身をとるがかなの体に押されて後退。そのまま追撃を食らいそうになったのでクリスタル・プリズムでルナの蹴りを防ぐ。
防ぎ切れるだなんて到底考えていないので、かなの体を起こして再び散開する。かなもあの程度で戦闘不能になるほどやわではない。案の定クリスタル・プリズムを破壊したルナが攻め立ててくるが、剣術を駆使して受け流す。しかし技量では完全にあちらが上。剣術でカバーしているとはいえ押し負ける。
斬撃を躱して懐に潜り込んできたルナに対してかなの蹴りが炸裂する。高速飛翔を使うことで駆ける音をたてないようにしていたようだ。それでもまるで見ているかのように右腕で蹴りを受け、少し体が浮いたが態勢を崩すことなく着地する。それでも俺の間合いの内側からは退かせた。
俺とかなは距離を置くようにバックステップを踏む。
やはり、気配察知が厄介だ。俺のそれより熟練度が高いからか、まるで見ているかのような精度で対処してくる。そのうえ体の使い方がうまい。人型が全力なのか狼型が全力なのかはわからないが、少なくとも人型の技量は俺やかなを圧倒的に上回っている。
真っ向勝負で勝てる相手ではない。だからこそ、リルがいる。
「――――――――――――」
アイシクル・アローの攻撃力を削いだ代わりに追跡能力を持つ魔法。氷の矢が十数本俺の左側に漂う。かながルナに詰めるのを確認してその反対方向から矢を放つ。俺も矢と同じ方面から時間差を付けてルナに向けて駆ける。
ルナはムーンライト・ベールを展開、かなの攻撃に備える。完全に挟まれる形はやはり好ましくないのか銀月で無効化できるアイシクル・トラッキングが向かってくる方向に体を動かす。そして――
アイシクル・トラッキングがその追跡能力でルナの方に矢先を変えた時、それらの矢が水に変化する。ルナは咄嗟に跳ねて回避を試みるが全てを躱しきることはかなわず二本の矢を右足に受ける。そして空中に投げ出された無防備な体に――
「――――――――」
――俺の振るった剣が炸裂する。
属性剣術・氷を発動した俺の剣は通常の数倍の威力を誇る。よって、ルナの尋常ではない防御力をもってしても無傷とはいかない。ルナが顔を守るために突き出した左腕から、ゴキッ、と骨の砕ける音がした。その衝撃で魔法の維持ができなくなったのかムーンライト・ベールが消え去り、かなの魔拳が発動した拳を、もろに背中で受ける。
そのまま吹っ飛び、木々をなぎ倒しながら数百メートル進んだところで、地面に衝突し大きく砂埃を上げる。しかし生命力を見るとまだ残り10000を切っていなかった。あれだけの猛攻を仕掛けても半分も生命力を減らせていない上に、相手には自然治癒と治癒魔法がある。
それでもあれだけのダメージを与えたのはすごいことだろう。
(ナイスだ、リル)
(なに、我の役目を全うしたまで。相手はまだやる気があるようだし、気を引き締めろ)
(わかっているよ)
俺とかなが攻めるタイミングで陰から飛び出し、俺の発動した魔法を司水者で水に変換してルナにダメージを与えたリルは、木の上から静かに下りてくる。見上げれば数十メートル上に枝があるが、あそこから降りたのに音の一つもたたないというのはどういうことだろうか。身のこなしのレベルが違いすぎるのだろうか。
(そなたら、ただものではないかの? ここまでの連携を、妾相手に成し遂げるとは、大したものかの)
脳に、ルナの声が響く。リルの言う通り、まだまだこれから、といったところだろうか。
(さあ、楽しませてもらうかの?)
砂埃を勢いよくかき分けてすでに傷が完治した様子のルナが突撃してくる。
「っ!?―――――」
咄嗟にカウンターを発動した、が、ルナは俺の目の前で急に方向転換をしたかと思うと、かなに向かってその腕を振るう。
「――――――」
ルナの攻撃に合わせて精霊完全支配を発動し、防御力を高めるかな。切り札としてとっておけと言ったのだが、今のままではまともに防げるとは思えなかったのだろう。やむを得ない形で発動することになったようだ。
しかし、その甲斐もあってかルナの魔爪をまともに受けても大したダメージはないようだ。だが体は大きく飛ばされ、一本の大木に穴をあけ、その奥の大木に背中を打ち付ける。いつものかなならば側面に両足をつけるのだが、受け身が追いつかなかったらしい。そのまま地面に落ちてしまう。
(かな!?)
(よそ見をしている暇が、あるのかの?)
「っ!?」
気付いたときには背後に気配があった。先ほどまで目の前にいたというのに。
「――――――――――」
俺のすぐ後ろにかなりの範囲で魔法を発動する。効果範囲内のあらゆる摩擦をなくす魔術・氷の魔法である。それに足を取られたのか、気配察知に映るルナの態勢が一瞬崩れる。その隙に振り向き、俺の顔に向けて放たれたルナの拳を剣の側面で受ける。
属性付与をしていたというのに、それすらも貫通した拳はホワイトクリスタル・ロングソードに大きなひびを入れる。そして拳の勢いを殺しきれなかった俺の体は大きく後方に跳ぶ。奇策をとって重心をずらし、全力を出させないようにしたうえで剣で受けてもなお、これだけの威力。
何もできずに直撃していたかと考えると、肝が冷えるどころの話ではない。
背中から地面に打ち付けられたが、なんとか受け身をとって態勢を持ち直す。気配察知を発動すると、今度はリルと攻防を繰り広げていた。
流石は天災と呼ばれたリルだけはあり、弱体化した体でもルナにいいようにされるようなことはない。それでも攻撃に打って出るのは難しいらしく、防戦一方だ。時たま水を作り出して攻撃を仕掛けているがルナの方も慣れてしまったのかまともに受けることはない。
たまに掠っても勢いを失ってたいした威力のない状態のもので、受けてもいい攻撃と受けてはいけない攻撃の区別も付けている。適応力のレベルが違った。
物理攻撃を仕掛けても、魔法を仕掛けても、例えそれ以外であろうとも、すでにルナに対しては決定打と成りえない。三人同時に攻撃を仕掛けたからと言って、勝てるとは限らない。むしろ返り討ちに会う可能性の方が高いと来た。
リルを倒したばかりだというのに、どうしてこうも強敵ばかり現れるのだ。おかしいんじゃないか? というか、この森の中に強力な魔物が集まりすぎなのだ。天災と呼ばれるフェンリルとそれに匹敵するかそれ以上の月狼、そしてハイエルフの女王。どうせ他にも色々いるのだろう。さすが世界樹と呼ばれるだけはある。世界規模で最強と言えるような奴らが犇めく森だなんて、想像もしたくない。
まあ、今まさにその森にいるのだが。
「―――――――――――」
リルが魔法を発動した。魔術・空間Ⅵで使える魔法。その本質はテレポートのようなもので、実際、やっていることは変わらない。だが、魔術・空間Ⅲで使えるテレポートと違い、即効性と精密さに長けた魔法となっている。
前回リルにテレポートを使われたときのように、空中に投げ出される、なんてことはない。
使い分けるとしたら、ディメンション・ゲートが短距離用で、テレポートが長距離用といった感じだろうか。戦闘に用いようと考えるのならば、ディメンション・ゲートの方がはるかに優れている。
そのうえ、テレポートでは転移させる対象を一定範囲内の生物としているので相手ごと転移しかねないが、ディメンション・ゲートは闇空間門と同じように空中に穴を開いてそこに入ることで転移するため、滅多なことでは相手ごと転移することはない。
リルは空中に漂う白色の光に、ルナの攻撃を大きく躱しながら飛び込む。追撃を仕掛けようとしていたルナの腕は空を切り、勢いのままに前傾姿勢となる。
その背後に再び光が現れ、そこからリルが飛び出してくる。そして魔力が纏う牙でその背中に勢い良く噛みつく。魔牙を発動していたのだろう。まともに食らったルナは口から血を吐く。しかしすぐに冷静さを取り戻してリルを振り払い、距離をとって治癒魔法を発動させる――
「――――――――――、っ!?」
――なんてことを許すリルではなく、その魔力を利用して水を産み出し、傷口からさらに追撃を放つ。その水はルナの胸元を貫き、その小さな体をぐらつかせる。勢いに乗れたと思ったのか、リルはさらに追撃を仕掛けようと距離を詰める。魔爪と魔牙を発動して、準備万端といった感じでとびかかった時、膝をついていたルナの体がブレる。
刹那、リルの首元に光が走る。そして次の瞬間。首と体が分裂した……が、その体は黒い霧となって消えた。いつの間にか傷を回復させ、さらにはリルだと思われた狼の首を落としたルナが、驚きの表情を浮かべる。
先ほど消えたのはリルの影分身で生み出した分身体。魔力の使用量が多いが、気配では偽物とは分からない。その維持は影が続く範囲内でしか行えないが、この森は木々のおかげでほとんどが影で覆われているため、縦横無尽に動き回れる。そして本体はというと、ずっと俺の影に潜んでいた。
最初に俺の氷の矢を司水者で水に変え、攻撃した後に出てきたのは本物。だが、その後ルナがかなに攻撃している最中にリルは俺の影にもぐり、分身体を残したのだ。
スキルなども遜色なく使用できるため、ルナも気づかなかったらしい。
俺の影から現れた本物のリルの姿を見て、ルナはその驚きの表情を、楽し気な笑みに変えた。
(やはり、そなたらは面白いかの。ここまで張り合いのある相手は久方ぶりかの。もう少しだけ、妾に付き合ってもらおうかの?)
小さく尻尾を揺らす少女の笑みは、深く俺の脳内に刻まれた。恐怖の、対象として。
今回はできるだけ短く戦闘回を終わらせるように頑張ります!
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