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トリックオアダイ

 どうもシファニーです!


 ハロウィン回最後です! 楽しんでもらえてるなら嬉しいです!


 第三百五十二部、外伝第四話『トリックオアダイ』です。どうぞ!

「ぐすっ……ぐすっ……あ、そういえば……今日のために、お菓子を用意したんでした」


 しばらくして復活したカレラは、思い出したように呟く。


「お、いいな。どんなお菓子だ?」

「えっと、この前攻略したダンジョンで手に入れた木の実を使ったものです。私の手作りにはなってしまいますが、みなさんで食べてください」

「おお! オシャレ!」


 カレラが、リルの背中に乗っていたバスケットから取り出したのはカップケーキだった。淡い桃色の生地の上に、イチゴに似た果実が乗っている。


「へえ、カレラって料理上手なんだな」

「いえ、これくらいなら。それに、この一年で修業したので」

「それもそうか。ずっと二人旅だもんな」

「我も、最初は調理はいらないと言っていたのだが、カレラが見る見るうちに腕を上げていくのでな。最近は特に腕を上げてきている。今ほど司殿に乗り移っていた頃の味覚があればと愁いだことはない」

「狼の味覚は良くないのか?」

「人体ほど繊細ではない。もとより生肉ばかり食っていたのでな」


 しかし、リルがここまで評価しているとは。改めて彼らを見てみると、嬉しそうに頬を緩ませている。きっと、リルのために頑張ったんだろうな。報われているようで何よりだ。


 ただ、ちょっと気になるのはこの果物。ダンジョンで取れたって……どういうことだ?


《ヒイロノイチゴ:一部のダンジョンに住まう熊型の魔獣、ベリーベアの肉体に生える桃色の果実で、非常に糖分濃度が高い。過去に伝説の食材として高値で取引された歴史がある》


 おお、流石しんさん物知りだ。最近声聞かないから心配してたよ。

 聞く限り生息の仕方が特殊なだけで普通に甘い果物っぽいな、じゃあ問題ないか。そんな風に考えながら、みんながカップケーキに手を伸ばすのを見守る。急がなくても一つぐらい余るだろ。


《追記》


 ん? まだあったのか?


《強い毒性があり、一口食べた者は幸福感を抱いたまま静かに死に至る。ベリーベアはヒイロノイチゴのこの特性を生かして狩りをする》


 果報は寝て待てってかふざけんな! 

 俺は、慌ててカップケーキの入った籠を取り上げた。


「ああー! お兄ちゃん何するの⁉」

「司君、そんなに焦らなくてもたくさんあるよ?」

「司、独り占め? 司でも許さない」

「い、いや、そうじゃなくて!」


 一人からは非難の目、一人からは温かい目、一人からは殺意に満ち満ちた目を向けられる中、俺は慌てて事の経緯を説明しようとする。が、黒江がその声を遮った。


「あ、分かった! つまり」


 こういう時の黒江は何も分かっていないと、俺はそう確信した。


「トリックオアトリート! お菓子をくれないと悪戯するぞ! ほら、みんなも!」

「そういえば、お菓子を貰うにはそう言わないといけないんだね。トリックオアトリートーっ!」

「とりっくおあとりーと。司、お菓子頂戴」


 違うそうじゃない。


「駄目だ! トリートで!」

「えー? もー、頑固だなー! それじゃあ、悪戯しちゃうぞ!」


 こういう時、妹のノリの良さを恨みたくなる。確かに、こういう時俺は一旦逆張りをするタイプの人間だ。そして、黒江はそんな俺に合わせて育って来たので、俺の受け答えがいつものノリだと捉えたに違いない。

 これからは真っ当に生きようと思う。


 しかし時すでに遅し。制止をかけるよりも早く動き出した黒江を見て、何をされるのかと警戒していると、思いっきり抱き着かれた。


「ほれほれー、エナジードレインしちゃうぞー!」


 甘ったるい声でそう言って、黒江は俺の胸元に頬擦りしてくる。エナジードレインってあれか。生命力吸収するやつ。悪魔が本当に使うのかは分からないが黒江なりになり切っているのだろう。


「じゃあ、私もっー!」

「え、リリア、待っ――」

「ぎゅーっ!」


 効果音を口で言わないでください。

 黒江のやっていることを真面目に考えていた隙を突かれてリリアにも横から抱き着かれてしまった。その動作が無駄に早かった気がしたのは気のせいだろうか。洗練されて行っている気がする。

 先ほど感じたがやはり柔らかい。我が妹だって柔らかいには柔らかいのだが、ベクトルが違う。黒江は若々しい感じで、リリアは……クッションみたいな感じ。


 そして、またそんなくだらない思考をしていたせいで隙が生まれる。俺は、背後に気配を感じた。


「かなも」


 その瞬間、俺の脳内は急速に回転する。

 正面から黒江、側部からリリア、そして背後から抱き着かれた俺はどうなるのか。

 幸せだと思う。

 思考終了、もう何でもいいや。


 そしてここで予想外の出来事。

 勢いよく背中に飛びついてくると思ったかなは、俺の背後までゆっくりと歩み寄ると、腰に手を回して優しく抱き着いてきた。いつもの元気ではしゃいだ感じではなく、甘えるようなそのしぐさに俺のメンタルは解かされる。

 アリシア、ごめん。でもこれは浮気じゃないよ。みんな家族みたいなものだからね。家族からのハグって普通に嬉しいんだ。くれぐれも勘違いしないで欲しいけど、これは浮気じゃないよ。でも謝っておく、ごめんな。


 心の中で謝罪をしている隙を突いて、かなが勢い良く飛び跳ねた。


「「「あっ」」」


 俺、黒江、リリアの声が重なって、かなの着地と同時に響く。かなの手には、カップケーキ。

 

「かな、待っ――」

「あむっ」


 大きな口を開いてかなはカップケーキを食べた。それから黙々と租借し、また一口、また一口と、瞬く間に一個完食。幸せそうに目を細めた。

 とりあえず解毒魔法を! と思ったのもつかぬ間、俺は思い出す。


「……みんな状態異常耐性持ってるじゃん……」


 状態異常耐性とは、毒や麻痺と言った症状への耐性で、レベルによっては全くの無効となる。そして確認したところ、この中に状態異常耐性を持っていない、もしくはそのレベルが低いものなど一人もおらず……要するに、俺たちにとって毒は毒たりえなかった。

 俺の心配は何だったんだろうか。


「わあ、これすっごく美味しい!」

「本当ですか? 良かったです! リルさんも、ど、どうぞ!」

「果実か。まあ、たまにはよかろう」

「これ本当に美味しいね。ねえカレラさん、今度私もそのダンジョンに連れて行ってもらえない? 黒江ちゃんとリリ様も一緒に。それでお菓子を作ろう!」

「それはいいですね。私も庶務ばかりでは肩が凝ってしまいますから」

「うまうま。司、食べないの?」


 気付けば和気あいあいとしたおやつタイムが始まっていた。

 そんな中、かなが三つくらいカップケーキを抱えて頬張りながら、余った一つを俺に差し出した。

 小首を傾げてそう聞いてくる可愛らしい姿に、色々とどうでもよくなった。


「もちろん食べるぞ! ハロウィン最高ー!」

「おー! お兄ちゃん盛り上がってるね! 最高ー!」

「ふぁいふぉー」

「かな、食べながら喋るな」

「んっ……さいこー」


 賑やかな夜は、まだまだ続く。

 というわけでハロウィンイベント回でした。

 この作品のキャラクターは、私にとって初めて生み出した思い出深い子たちです。そんなこの子たちのことを急に書きたくなり、時期的にもちょうどよかったので投稿してみました! 大いに蛇足感ありますが、自分的には書いていて楽しかったのでOKですってことで!

 受験がひと段落し、これから大学の準備――受かっていれば――も始まりますが、その合間に小説は書き続けようと思います。それがこの作品になることはあまりないかとは思いますが、私の他の作品も応援してくれたら嬉しいです。

 私がもし著名なラノベ作家になれたらこの作品をリメイクして発売したいと割と本気で思っているので、あまり期待せず、しかし楽しみにしてもらえたら幸いです。というかして見せます。自腹だろうとする。


 そんなわけでは、これから先もどこかで出会えることを楽しみにしています。

 それでは!

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