終わらぬ結意
どうもシファニーです。もう二月ですか、早いですね。私は今月もひたすら執筆の予定です。
第二百九十八部、第九章第十一話『終わらぬ結意』です。どうぞ!
「森に食われて死にやがれ」
二代目が狂気を呟いた直後、足元の木々がうねり始める。その背を伸ばし、身をくねらせながら迫って来る木々は意志を持った触手の様だった。
「権能をここまで使いこなしていましたか。二人とも、高度を上げますよ!」
「ああ、分かった!」
「うん、ついて行くよ!」
「待ちやがれ!」
口調が一変して荒々しくなった二代目は、慌てて高度を上げた俺たちへと迫って来る。感情に後押しされてか先程までよりずっと上がった速度は俺たちを簡単に捉えた。
「やば……っ!?」
すぐそこまで迫って来た二代目があまりに早く、反応が遅れた。既に魔法での攻撃など頭にはないらしく、その両手に込めた魔力を勢い良く叩きつけようと拳を握っているのが見えた。
躱すことは難しそうだ。無崩の幕を展開すれば死ぬことはないだろうけど、魔力総量が違い過ぎる。俺の魔力がすっからかんになりかねない。盾代わりの剣を出すには時間が足りない。
考えれば考えるほどどうしようもない状況に、後先考えることは止めて無崩の幕を張ろうとした直前、俺のすぐ横を動く影があった。
「リリア!?」
「邪魔するな死に損ない!」
両手を眼前に突き出して、その両手に魔力を籠めたリリアが俺の前に躍り出た。二代目の力に抗うように溢れ出るリリアの魔力が二代目の魔力とぶつかり合って眩い光が視界を覆った。オーロラのような輝きがリリアと二代目の間に走って、それが力になって壁になる。
その向こう側で何か叫んでいる様子の二代目の声は聞こえない。それなのに小さく苦しそうに呻いたリリアの声は、はっきりと聞こえた。
聞こえて、俺は遅れて反応した。
「リリア! 無茶だ止めろ!」
「いやッ! 私は止めない!」
止めようと思って叫んだ言葉がそれ以上の叫びで掻き消された。聞き慣れないリリアの怒号に驚いて思わず体を固めていると、リリアは優しく笑って振り返った。そしていつもの声音で言った。
「私だって司君を守りたいの。だって私は、司君の主様だから。司君は私の従者だから」
力が膨らむのを感じて、リリアは歯を食いしばる。そうやって一度遮られた言葉が続けば、リリアは再び笑顔を浮かべた。
「私の大好きな大切な人だから。私もちょっとくらい格好つけたいし、守ってあげたいんだ」
リリアの言葉にはっとした。
自分さえ、あの子さえって思っての行動は何も自分だけの物じゃないことに気付いた。そんな風に言って貰えることが嬉しい以上に苦しいことに気付いた。
自分の為に大切な人が体を張ることを嫌だって思う自分がいた。でもやっぱり嬉しいのも本当なんだ。だから胸が締め付けられて、どうするべきなんだろうって分からなくなる。ここで素直に頷くことが最善かって言われたらそんなわけがないのだから。
「……《我が力は氷》《万物に制止を齎す氷》《世界を覆いつくし》《深淵すらも凍えさせる氷なり》」
「司君?」
やるべきことなんて決まっている。簡単な話だ。
大切な人が殺されないように、目の前の敵を殺すだけ。そのためだったら何を使っても、何をしてもいい。どんな手段を、どんな犠牲を、そんなことを考える必要はない。自分に出来るすべてで、全力で戦うだけだ。
視界の半分が青白く染まった。左目に魔力が集まっていくことを自覚する。段々と冷めきって行く自我が何者かに取って代わられそうなことを意識した時、俺はそっと呟いた。
「リリアの本気には、俺の本気で応える」
視界の浸食が止まる。消えることも増えることもなく停滞した。半分の視界が染まりっぱなしなことに自虐を籠めた笑みを思わず漏らしながら続きを唱える。
《刻む針は動きを止め》《流れる時間は凍り付く》《時空すらも超越する氷結は》《絶望すらも与えない》」
それはずっと前、白竜を倒すときにリルが使った詠唱魔法を俺なりに組み替えた魔法。
「《我が下に下りし氷よ》《我の意思に従って》《森羅万象の時空を奪え》」
パーペ・チュアル。永結の詠唱魔法だ。
「《氷結を顕現せよ》《己が敵を終わらぬ床に送れ》《記憶となって砕け散れ》」
俺が右手を掲げたその時、俺を振り返っていたリリアが慌てて視線を正面へと戻す。何事かと思ってみればリリアに対抗する二代目が凄い形相でこちらを睨んでいた。その両手に込められた魔力は勢いを増し、質量を増す。
辛うじて対抗していたリリアは徐々に押される状況に苦しそうに目を瞑る。
「リリア! あとは司さんに任せてください!」
「でも!」
「彼なら必ず、やり遂げてくれます!」
「……うん! 任せたよ、司君!」
そう言ってリリアが最後の力を振り絞って魔力を放つ。それを反動にして一気に後退する。
「死ねッ、クソガキッ!」
一瞬にして数メートルを賭けた二代目のその手が届くその瞬間、世界は凍り付いた。
「《パーペ・チュアル》」
最近個人的に短編小説にチャレンジしていまして。既に何本か書いてみたし、この前一つ投稿してみました。で、この前新しい短編小説を書き始めて、途中で気付いたんです。あれ、このままだと十万文字超えるな、って。
そこまで行ったら短編って言えなくない? と言うかよく見たらこの前投稿した作品も五万文字か。多いな、と思ったわけです。短編小説ってどこからどこまでを言うんですかね? 調べてみれば解決しそうな疑問を自由スペース(後書き)に取り合えず呟いておきますね。
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