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満月の微笑み

 どうもシファニーです。タイトル凝ってみたシファニーです。シファニクス、その愛称をシファニーです。シファニーばっか言ってたらフルネーム忘れそうになったシファニーです。


 第二百四十四部、第七章第三十五話『満月の笑み』です。どうぞ!

「妾は与えられた命であることを知りながら、与えられた役割を無碍にして日々を過ごしていた。そんな妾は、本来ならば神から見放されてもおかしくなかったかの。いや、ある意味見放されていたのかもしれないかの。数千年、放置されたままであったかの」


 他の干渉を受けることもなく、己もまた活動する気力もなく。数千年もの時を茫然とした時間の流れに従って生きてきただけに過ぎなかった。しかし、その怠慢がルナの弱さの言い訳と言うわけではないのだろう。


「ある日、妾は満月に出会った。それは、妾と瓜二つの、同位体だったかの。唯一違うところがあったとすれば、白髪であったということくらいかの……いや、妾よりも、圧倒的に強かったかの」


 晴れわたった星空の下、彼女は運命の出会いを果たした。それは、星空の瞬きよりも儚く、満月よりも光り輝くような出会い。


「そなたは……」

「ルナ。私はルナ。月の下に生まれた、月狼の子」

「……妾の名は――いや、名などなかったかの」

「そう」


 彼女の問いに答えた満月に、常闇は白を切る。


「あなたの姿、私と似てる。月狼?」

「……その通り、かの」

「なら、倒さないと」

「っ!?」


 満月は魔力を放ち、彼女は勢いよく飛び退る。

 満月の魔力が収まる頃、姿は変わり、人の身となっていた。透き通るような白髪をなびかせる幼き容姿。童顔の中に満ちた気品と覇気さえなければ、子どもにしか見えなかっただろう。


 それは圧倒的な力。月明りに照らされて咲く、一輪の月見草。


「人化けの術。あなたに出来る?」

「……舐めるでないかの」


 彼女もまた、人の姿となる。それは、満月と瓜二つの少女の姿。そこに、満月と新月が顔を合わせた。本来なら出会うことなどあり得ない、裏表の存在。


「あなたは、私の三十分の一の力しかない。勝てないよ?」

「端から、勝とうとだなんて思っていない、かの」


 苦苦しい表情を浮かべる彼女に、満月はその手を広げて翳す。


「抵抗、しないでよ」

「しないわけには、いかないかの」

「――《ムーンライト・パラドクス》」

「《ムーンライ

ト・パラドクス》」


 声が重なる。高すぎる平坦な声と、低く感情的な声のデュエットは、戦場にもたらされた因果のうねりにかき消される。世界が渦巻き、常闇に落ちる。歪みが広がり、深淵はもたらされる。

 

 発色した黒に包まれ、七色の瞬きの連続する。星空にも似たその輝きは、新たな世界を作り出す。


「月明りに照らされて、常闇は真の闇を映し出す。永遠なる闇に暗がりなどない。常夜の世界に、混沌は訪れない」

「……夜闇には、一筋の光も許さない」

「ううん。夜は、光に満ちている。だから、安心して。私は見てるよ」


 そう言って、拳に力を込めた。宿る月光が、彼女を覆った。


「《ムーンライト・エクソシズム》」

「ッ!? 《ムーンライト・ミラーコート》ッ!」


 襲い来る追放の波に、しかし彼女は対抗する。主を失った力の渦は、満月の頬を掠めて遥か彼方へ消えて行く。


「そう、あくまでも抵抗するんだね」

「……当然かの。死を望むものなど、例えそれが与えられた命だったとしても、あり得ないかの」

「そう。だったら――」


 言いかけて、満月は唐突に空を見上げた。まるで、何かに気付いたかのように。


「あなた、月がどうしてあるのか、知ってる?」

「……」

「一日と言う限られた時間で、永遠と言う無限の時間で、決して太陽と言う巨大な存在に敵うはずもない僅かな光を、どうして神は私たちの与えたんだろう。そう、考えたことはない?」

「……」

「私は一つ、ロマンティックな仮説を立てたの。ありきたりで、屈託のない平凡な話」


 それは、と続ける。


「月が、太陽よりも美しく見えるから。直視することが許される、絶世の美だから。私たちが、人の触れられる存在であるために。猛吹雪も、亜空間も。地獄や冥府、灼熱の太陽でさえも、命を容易に奪ってしまう。でも、私たち月は違う。太陽の顔を隠した夜道を明るく照らし、人々に道を示す存在。人々と向き合い、共に歩む存在。それが、私たちなんだって」


 だから、とさらに続ける。彼女は、言葉を見失っていた。


「明かりのないあなたと、明かりのある私。どちらが人のためになるのか、なんて考えるまでもない。それでも、一つだけ忘れてはいけないことがあった。月は、太陽があるから輝けるんだ、って。そして、輝く私がいるその裏で、輝けないあなたが、一人悲しんでいるんだって」


 放っていた覇気を解いて、一歩二歩と歩み寄る。彼女はそれに、少し怯えた。それでも、満月の浮かべた明るい笑みに、陰りの差していた顔は上を向けた。その輝きを、見つめることが出来た。


「だから、ごめん。神すらも裏切って、私はあなたを選ぶよ。だって――」


 無機質な表情は、僅かに歪んだ表情は。


 この星を守るために、日々その身を賭す世界の守護者、調停者は、泣いていた。


「輝けないはずのあなたが、本当の月だって分かったから。輝ける私は、あなたの一部だった」


 そして、消えて行った。薄く、白昼夢のような幻想の中で、白く輝いて塵となる。


「私は、あなたの力になるよ。神の使命だった、ううん、私の天命だったとはいえ、あなたを覆いつくそうとしたことを、許してほしい。私はあなたと一緒になって、今後を見て行きたいと思えた」

「……突然、何を――」


 言っている、そんな彼女の言葉は、満月がだんだんと欠けて行くのと同じように、やがて自然と消えていた。


「月狼、原初の七魔獣。あなたは、その中で、いいえ。世界の調停者の中で、最も弱く生まれた。始祖の化身、太陽の化身、地獄の化身、時空の化身、氷結の化身、冥府の化身。そのどれもが、あなたよりも強い。いいえ、私であっても、敵うことはない。そのことを、忘れないでいて」

「それは、どうして? 違う、なぜ、そのようなことを――」

「それだけ伝えられたら、あなたはもう生きて行けるはず。神の使命を投げ出した私は、すぐにでも消えてしまうかもしれないけれど、いつでも、あなたの中にいるから」


 白髪の少女は、彼女に抱きしめたまま手探りで彼女の腕を掴んで、自身の胸元に翳させる。


「さようなら、本当の私」

「待っ……っ!」


 引き留めるように強く握りしめた彼女の拳は、しかし塵となって消えて行く満月を僅かに掴んだだけだった。

 ルナ回です。ルナが登場した当時から書きたかった内容ですが、思い付きで書いた数話で矛盾が生じてないことを祈ります。把握しきってないことが合ったりなかったり……。一通り読み直したりはしているから、大丈夫、なはず? 心配な私です。


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