大切と言いたくて
どうもシファニーです。もうしばらくソルちゃん回は続きます。
第二百三十九部、第七章第三十話『大切と言いたくて』です。どうぞ!
「あんたが好きよ、司。普通の子たちが使うような恋愛的なものとは、少し違うかもしれないけど。例えるなら、家族みたい、かしら。ずっと、一緒に居たいって思えるの」
そう言ったソルの表情に迷いはなく、その一途なまでの眼差しに引き込まれる。
「だから……私みたいにならないで欲しい。伝えたかったのは、そう言うことよ」
「ああ、ありがとうな。俺も、ソルのことは好きだぞ。叶うのなら、ずっと一緒に居たいと思う」
「……そっ。だったらあんたが死ぬそん時まで、私が見守っていてあげるわよ」
素っ気なくそう言って、ソルはそっぽを向いた。しばらく目を合わせようとしないソルから、俺は視線を外せないでいた。こんなに暖かくて、心地の良い時間はいつぶりだっただろうか。
もちろん、かなといるときだって心休まるし、別に一人でいる時が心苦しいわけではない。ただ、俺は無理をしなくても言って思わせてくれた。俺の中に眠る何者かが暴れ出すかもしれないという悩みを、一人で抱えなくていいんだってわかった。
零酷停王のことは、後で他のみんなにも伝えておこう。いざってとき、俺のことを止めてもらわないと困るから。でも、それよりも前に俺もソルに伝えなきゃいけないことがたくさんある。感謝とか、謝罪とか。
そのはずだけど、それでも。
そんなことすら疎かにしていいとソルに思えてしまったのは、ソルがもう、俺の心のよりどころになってしまっているからなのだろうか。分からないが、約束を違えてしまった時のような申し訳なさとは違う虚無感は、疾うにどこかへ消えていた。
「何よ、ジロジロ見て」
「見ていたい気分なだけだよ。何だか、そんな気分なんだ」
「……ふんっ、その眼の氷を無くしてから言いなさい」
ジト目を向け、嘆息してからこちら、特に俺の目の方を指してきたソル。
それで思い出したが、確か俺の目が凍っているって話だったな。先程ソルが見せてくれたような、雪の結晶のような文様が浮かび上がっている、ということだろうか。
あれ? というかソルは消したって言ってたよな。なんでさっきは見えたんだろう。
「なあソル」
「どうしたの?」
「ソルの目の氷は無くなったんだよな。じゃあ、どうしてまだ残ってたんだ?」
「ああ、そのこと? これは跡にすぎないのよ。大きな傷は治っても傷跡が残るでしょう? それと一緒よ。本来の灰色の結晶は無くなっているのよ。ただ、私の瞳の炎を弱めると薄っすら見えるくらいには残っているの」
「なるほどな」
そりゃそうだ。聞いた限りだと零酷停王ってのは相当やばいらしいからな。それくらいの傷跡残していてもおかしくないだろう。
というわけで疑問は解消されたし、自分の瞳を確認すべく回復してきた魔力で手のひらサイズの氷の鏡を作り出し、覗き込む。
そこに映っているのは、相も変わらずぱっとしない俺の顔と、薄水色の光を放つ瞳。その瞳孔の当たりに、確かに雪の結晶のようなものが出来ていた。ソルとは若干形状が違うし、ソルは灰色と言っていたが、こちらは水色だ。所々違うところはあるが、確かに同じ現象と言えるだろう。
「へぇ、これが。何だか格好いい気もするな」
「どこがよ……そんなものは、早く無くしてしまうべきなのよ」
「ああ、だな。……って、どうやって?」
そう言えば、ソルは顕現した零酷停王を倒して消した、ってことでいいのだろうか。千年かけて、と言っていたし時間がかかる者なのだろうか。千年もかかるとなると、俺の一生の内には消えなそうだが。
「それは」
「それは?」
もし顕現した零酷停王を倒す必要があるのだとしたら、俺にはまだどうにもできない。初期状態すぎて取り除ける段階ではない、と言うことだ。ただ、もしスキルを消す、もしくは零酷停王が冷徹者から進化したように別の何かに進化させれば、或いは。
そんな考えを巡らせながらも、自信満々に人差し指を立てたソルの言葉を聞けばいいかと向き直る。ここに同じ経験をした先輩がいるのだ。先人の知恵には頼って然るべきである。
「それは、私にも分からないわ」
「おい!」
なんて思った俺が馬鹿だったらしい。
「私の場合、既に現れていた零酷停王を倒した時点でスキルそのものは消滅したわ。この目の跡は、その後千年の時を経て自然に消えて行った。要するに零酷停王を倒せばいいのだけれど、肝心のあいつが現れる条件が分からないのよね。私の場合は元から持っていたスキルじゃなくてあの時突然手に入れたスキルだったから、尚のことね」
「……つまり、この世で唯一かもしれない零酷停王を持つソルも、俺と状況が違ったってことか?」
「ええ」
「こりゃ……困ったな」
前例がないんじゃ、今すぐ答えを見つけることは難しそうだ。
「でも安心しなさい。解決策は一緒に考えてあげるし、零酷停王が現れたら私が倒してあげるから」
「それは頼もしいな。その時は頼むよ」
「ええ、任せなさい」
その後、俺たちはしばらく碌でもない話に花を咲かせた。
これが意外と面白いのだ。以前から感じていたが、ソルは俺にとって異世界の住人であるというのに不思議と同年代の友人と話すような気軽さでいられる。非常にラフな状態で会話が出来て、ストレスフリーなのだ。
まあ、普通の友達と違うのは、目の前の存在がとんでもない化け物ってことと、とんでもなく美形だってことくらいだろう。
台風、すごかったですね。皆さんのところはどうでしたか? と少し遅れたご挨拶。
自然災害って怖いですよね。でも、それに似たことを人ができることのほうがもっと怖いです。そんな話をして、今回の後書きとさせていただきます。今後もご期待を!
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