それは――大罪の今の物語
どうもシファニーです。毎度おなじみの挨拶と共に今日も更新です。
第二百三十八部、第七章第二十九話『それは――大罪の今の物語』です。どうぞ!
「なるほどな。それで、つい最近千年の眠りから目覚めた、と」
「そんなとこよ」
かれこれ、一時間くらい経っただろうか。ソルの聞かせる話は面白いとかそう言うわけでもないが、ずっと集中して聴いてしまった。どこか俺の状況に似ていた気もしたし、ソルがせっかく俺のために話してくれているから、ってこともある。
この、原初の七魔獣とか言う殿上の存在でありながら、七つの大罪の主犯って言う世紀の大罪人が、たかが異世界から来たこと以外何の変哲もない俺にこんなことを話してくれているんだ。真剣に聞かないと罰が当たるってもんだ。
それに、実際俺の気になる色んなことを教えてくれた。七つの大罪の内、ソルが行ったという大虐殺にも、ちゃんとした理由があったわけだ。と言っても、ソル自身が零酷停王に意識を乗っ取られていたから、と言うものだ。
外から見たら、ソルが攻撃しているようにしか見えなかったのだろう。そのことを、当時、ソルの力によって命を失った人々がどう見ていたのかは、分からない。まあ、悪魔みたいに見えたんじゃないかとは思うが、そんなことはどうでもいいな。
「というか、一番気になった零酷停王との戦いを聞けていないんだが」
「あの時の私は思考回路が焼けてて碌に何も考えてなかったからね。一つ言えるのは、世界樹の燃え広がりを止めて零酷停王を倒すってのを、ルナたちが帰ってくる前に両方終わらせた、ってことだけね。だから、まさかあそこで私が暴れただなんて、誰も知らないはずよ。……当時邪神教を名乗ってた連中を除いてね」
「そいつらがその時の生き残り、ってところかね」
「そうね。あの時確認したのはほんの数十人だったわ。世界樹の中で、どうにか私の存在から逃れようとしていたみたいね。実際、逃れられていたんだし」
聞くだけ聞けて、俺の中で色んなものが繋がった。今まで点と点だったものが線になる感覚ってのは、こういうものなのかもしれないな。少なくとも、始祖竜との戦いから今までソルにどんなことがあったのかは深く理解することが出来た。
「巻き込んでしまった亜人たちはどうだったか分からないけれど、生き残ったほうの亜人たちは私を崇めているみたいだったのよね。それでこっそり確認してみれば、邪神って私のことを呼んでたのよね」
それが、邪神教の始まり。
「私たちみたいな高位種族は、肉体の限界が来ると補給が必要で、永い眠りにつくことがある。それでも、ほんの少しの意識くらいなら活動し続けることが出来るし、スキルだって使える。気になってた私は、限られた意識の中で私を崇めていた連中のその後を観察していた。そして、数年も経たないうちに教団が出来た、ってわけ」
「それが今では人間が崇める宗教の一つになっているってことか」
「その集団が出来てからのことは、気にしてなかったから知らないけどね。でも、少なからずあの頃にも邪神教はあった。今のと完全に同じかはさておき、その礎になったのは確かね」
確かに、亜人や獣人との関係がどうかは分からないが、亜人と人間、獣人と人間との間は仲が悪いという。元獣人が立ち上げた邪神教を、そのまま受け継いでいるとことはないだろう。もしそれが千年前からの共通認識だったのなら、ではあるが。
「人間と亜人たちは前から仲が悪かったのか?」
「前って千年前の事? そうね、というよりソトがそうある様に創造したから、生まれた頃からあんな感じだったわよ」
「……なら、やっぱりなんかしらの訳とかがあるはずだな」
まあ、そんなことは考えても仕方がないだろう。それよりも――
「なんだか、話しているうちに心が軽くなった。ありがとな」
「……別に、あんたのためじゃないわよ。私と同類かもしれないあんたが、何人もの命を奪わないためにも教えておきたかっただけよ。……あの時の怒りの熱量、司みたいなただの人間じゃあ、内側から燃え尽きてしまうわよ」
「マジの熱なのか?」
「どうでしょうね。私はあの時、今までに感じなかったくらいの熱量を、心の底から浴びていたわ。私が発する熱の、何千、何万倍もの熱をね。あれは、明らかに世界を焦がしつくすほどの熱量だったわ。自分でも、よく暴走しなかったと感心できるくらいにね」
そう言って、ソルは自虐的に笑う。その笑みですら映えるのだから、こいつはずるい。
言っていることもやってることも殺戮者のそれだ。それでも、ソルなりの悩みがあって、ソルなりの苦しみがあって。ソルなりの意思があって。その力に振り回されて、起きてしまった悲劇。脚色のしようは、あるな。
こんな言葉で納得してしまっている俺には、既に零酷停王の影響が及んでいるのかもしれない。
「ふふっ、心配事があるなら言ってみなさい。私もね、ちょっと酷かもしれないけど、似た境遇の人に出会えて嬉しいのよ。別に、だからどうこうってわけじゃないんだけど。同類くらい、ちゃんと愛してあげたいって思うの」
「……愛す、って、そんな簡単に――」
言うなよ、と続けようとした言葉は、ソルが笑って遮った。
「言えるわよ、あんたに、司になら」
だって、とソルは続ける。
「あんたほど、この私のとんでもなく長い生の中で、私の心を滾らせた相手はいなかったもの」
何千万って命の頂点にすらなり得る存在が、たった一人、俺だけに明るい笑顔を向けてきた。
というわけでソルちゃん回でした。いかがでしたでしょうか。
ソルちゃんは金髪ロングの狐っ子。和装に包まれた情熱的な揺らいだ黄金の瞳を持った美少女です。感情の変動が激しく、それでいて直情的な素直な性格の持ち主で、えらく司を好いている最古の生物の一体です。
きっと、今後も話の主軸となって登場していくことでしょう。今後の活躍もお楽しみに!
ブックマーク登録、いいね、評価、感想等頂けると幸いです!




