それは遥か昔の物語Ⅵ
どうもシファニーです。いよいよ今月も終わりですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は元気です。なので今日も更新です。
第二百三十六部、第七章第二十七話『それは遥か昔の物語Ⅶ』です。どうぞ!
轟音が鳴り響くと同時、巨大な炎の塊に押しつぶされて始祖竜が大地へと堕ちる。木々がなぎ倒され、しかし炎は辺りに広がることなく始祖竜の体だけを焼いた。
「はぁ……はぁ……今のうちに、ネルたちを!」
倒した、だなんて思っていない。こいつはこの程度で死ぬ相手じゃない。それが分かっているから逃げ続けてきたし、これからもそうするのだ。ひとまず動きは止めたし、ネルを呼んで急いでここを離れよう。
そう思った、直後。先程の爆発を凌駕するほどの轟音と共に、視界の端で巨大な影が浮かび上がった。私の飛翔速度など優に超える、圧倒的な速度でそいつが飛び上がったのだ。
「ったく、またタフになってる!」
でも好都合だ、このまま私を負って来てくれるのなら。
そう思って見上げれば、始祖竜はその巨体で太陽を遮って私の方を睨んでいた。真っすぐな殺意を感じて、思わず尻込みしそうになった。それでも、やるしかない。そう意気込んで、私は一気に加速する。
「圧倒的な熱量で、あんたなんて振り払ってやるわよ!」
爆発、爆発、爆発が繰り返す。背後で繰り返されるその爆発はどんどんと私を押し出して、加速させる。背後から迫ってくる大きな気配すらも掻き消してしまうそうな轟音は、私の背を大きく押してくれる。
「いっそのこと、このままユグドラシルまで!」
あの木を破壊すれば、あの始祖竜はここに留まる意味を失うはずだ。そうしたらまた私たちを負って大陸を渡るはず。そうなれば海を渡っている間のしばらくは世界中が安全になる。そんなことしか出来なくて、出来ることをやるしかない。そのためにも、あいつをこのままユグドラシルまで誘導する。
あいつに破壊させる、とまではいかなくても余波の少しでもユグドラシルにぶつけられれば、ルナの手間を省けるはずだ。
それはそうと、私の全力でももってしてもやはり始祖竜は振り切れないらしい。こうなると、結局どこかであいつの動きを封じる必要が出てくる。さっきのよりも強い一撃を、見舞ってやる必要がある。
それか、本当に一瞬の隙をついてネルに拾ってもらうか。どちらにしても、こんなところじゃ無理だ。一旦ユグドラシルを経由して、森の反対側まで行くか。
「見えてきた! ルナ、そこ退きなさい!」
遠くの方に、天まで聳える一本木が見えてくる。世界の中心ともいえる大木で、ユグドラシルと呼ばれる存在だ。世界樹、って言うのはユグドラシルを示した言葉なんだろうけど、今ではユグドラシルを中心とした森全体への呼称として使われている。
まあ実際、あのユグドラシルが失われようとも世界が崩れることはない。この森全体が精霊空間との繋ぎ役や、世界の循環を担っているからだ。あのユグドラシルは目立っているだけで、この森に、引いては世界に必要なものと言うわけではない。むしろ、今は世界のために崩れてもらうとしよう。
私が叫んだ声が聞こえたとは思わないが、遠くに感じるルナの気配はユグドラシルから大きく離れた。このまま、突っ込む。
「さあ、こっちに来なさい!」
一気に加速し、後ろの始祖竜も一直線に進んでくるのを確認して炎の噴射を上へと向けて、急降下する。大きな影は私を通り越し、目の前のユグドラシルへと激突する。すぐに起き上がってくると予想して、再び進みだす。
その通り際、ルナに一瞬声をかけられる。
「捕まってはいけないかの!」
あいつらしくない、不安気の混じった声のような気がして一瞬動きを止める。
そして、思わず笑みを漏らしてしまった。出来る限りの大声で返してやる。
「ええ、当然よ! ここは任せたわ!」
再び進みだした私の背後で、ユグドラシルが大きな音を立てて葉を散らす。そして粉々になった木々の粉塵の中から、始祖竜が姿を現した。やっぱり、自分から何かに突撃したくらいで動きが止まるあいつではない。
そしてユグドラシルもまた始祖竜がぶつかった程度では完全崩壊とはならない。かなりの大穴を開けられているというのに、健在だ。
「どっちも頑丈なことね! でも、そのくらい想定内よ!」
このまま始祖竜を引き付けて時間を稼いで、ネルとルナがやることを終わらせて迎えに来てくれたらこいつの動きを封じる。それだけでいい。このまま森の東の方まで向かおう。で、広がっている荒れ地の方へ誘導して叩きのめす。あれだけ広ければ、全力が出せるはずだ。
そう思って、ひたすらに進んだ。そして世界樹の東の端に出て、荒れ地が見えてきた。
「よし、ここなら!」
意気込んで、振り返る。勢いは残っているので、私は始祖竜の方を向きながら後ろに進んで相対していることになる。
「さあ、かかってきなさい! ここなら、思う存分――
言いかけて、固まった。事前の確認ではここらには集落はなく、まとまった集団はいないはずだった。ただ、念のため。念のために確認してみれば、そこには大勢の亜人らしき気配があった。ただ別に集落を築いているだとか、そう言うわけではないらしい。
荷物を抱えて、何かから逃げてきたかのような風貌で。ちょうど世界樹を抜けてきたらしい数千近くの集団が、始祖竜の足元に見えていた。
「ちょ、嘘ッ!?」
一つ一つの気配が小さく、魔力に満ち溢れた世界樹の中を通っていることに気付けなかった。だから、それが私の失態だって気づくのに時間は必要なかった。
「こ、こっちに来なさい!」
注意を引き付けようと、魔法を連発する。余波で巻き込んではいけないからと、あまり本気は出せなかったから。でも、それじゃダメだった。私の攻撃はすべて弾かれ、始祖竜は素知らぬふりだ。
そして、質を求めてこそいるが量だって欲している。そんな始祖竜は高度を降ろし、怯え、絶望に縛られた何千もの命の下へ、降り立った。
なんだかんだで一か月って長いですよね。毎日のように創作活動に没頭していると、この一か月の成果を見返した時、よく頑張ったと思えます。これからもそんな風に思える小説を書けるよう、来月も頑張ります!
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