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陽弧の氷

 どうもシファニーです。中間テスト、ってやつが始まりました。何ですかね、それ。私は知りません。


 第二百三十四部、第七章第二十五話『陽弧の氷』です。どうぞ!

「ああ、そうそう。それはいいとしてあんた、それってどういうこと?」


 そう言ってナイフ片手にソルが指差したのは俺の顔。もっと言うのなら俺の瞳なのだろう。かなが凍った、と言った瞳のこと。


「この目のことか? 俺もまだ確認してないんだが、凍ってるってやつか?」

「そうよ、それよ。……理由があるんでしょうけど、こうも簡単に破られる約束だったとは思わなかったわよ」

「……悪い」


 ぶっきらぼうに、それでいて攻めるように言うソルの言葉に、俺は顔を下げてしまった。申し訳なさの一言じゃ、何とも言い表せない感情のような気がした。ただ、何だろう。涙も言葉も、続くことはなかった。


「いいのよ、別に。あんたがそれで変わるとも、思ってないから。心配してるのは、あんたが罪を感じていないか、ってことだけよ」

「……感じてない。ああ、感じてない」

「そ、それならいいわ」


 別段、何か特別な言葉を欲していたわけでも、予想していたわけでもない。それでも、その素っ気ない言葉が寂しいようで嬉しかった。


 約束一つ守れなくても、あいつは俺のことを嫌ってくれはしなかった。それがどうしようもなく嬉しいような気がして、それでも高ぶりきれない感情があった。どこか、心の脈動すらも凍ってしまったような感覚に捕らわれて。


「……かなちゃん、ちょっとそいつ貸してくれる?」

「ん? ヤダ」

「……ご飯食べてて。面倒見ててあげるから」

「分かった」

「おい」


 別にソルに俺が貸し出されたことに文句を言いたいのではなく、ご飯って言葉で意見を変えたかなが大丈夫なのか疑問に思えてならなかったために漏らした言葉だが、誰にも拾われることはなかった。


 そして、ご飯に釣られたかなが投げ捨てた俺を、落ちる前に拾い上げたのはソルだった。これまた、お姫様抱っこで。


「別に、したくてしてるんじゃないわよ」


 僅かに視線を逸らしながら言うソルの顔に、ときめきではなく情けなさを覚えた俺は、やはり情けないのだろう。女の子に抱き抱えられている俺は、どうしようもない奴なのではないだろうか。


「ほら、行くわよ」


 そう言ってソルは、俺は王城の客室の一つへと俺を運び込んだ。唯一の救いは、その過程で誰ともすれ違わなかったことだろう。もし誰かに見られていたら俺はリリアの部下として顔向け出来なくなっていただろう。


「よし、良いわね。あ、しばらくはここにいてもらうからね。抵抗は無意味よ」

「いや、俺今から何されるんだよ」


 ベッドに降ろされた俺にソルが気軽に言った。そして、ベッドの隣にあった席に腰掛け、足を組み、頬杖を突く。その瞳が捉えたのは、一心に見つめたのは俺の目。凍ったと言われた、この目だ。


「メンタルケア、って言ったかしら。あんたには必要よ、絶対に」

「……良く分からないけど、それで?」

「あんた、何があったのか言ってみて。とりあえず、サキュラであったこと全部」

「お、おう……」


 俺は言われたままに口を開き、かなとサキュラに向かってからのしばらくのことを語った。一応、覚えている限りのことを一つも漏らさず。こんなことに何の意味があるんだと思いつつ言い終えれば、ソルは諭すような表情で前屈みになって口を開く。


「なるほどね。まあ、大体のことは分かったわ。まずはお疲れ。そしておめでとう。後でネルに報告してあげなさい」

「それは、そのつもりだけど」

「そして、よくやったわ」

「……え?」

「サキュラ。この国からしてみれば敵国だけど、罪無き命を救ってくれたことに対する感謝よ。原初の七魔獣の本来の存在意義は世界の調和を保つこと。生き残るための戦争なら食物連鎖の延長線上のものだけど、邪神教みたいな自己満集団の殺しは、簡単に言えば倫理に反するのよ。だから、感謝するわ」


 そう口にしたソルの微笑みは、魅惑的で美しかった。


「あんたにはね、ずっと感謝してばかりな気がするの。それだけの力を持っていながらも、たくさんの仲間とともに居ながらも、その力を理不尽に振るうところは、見たことがない。きっと、今までも一度もなかったんでしょうね。だから、あなたがそうなってしまったことが残念で仕方ない。だからこそ、今こうしているわ」

「……」

「分からなくてもいいのよ。これはね、一度そうなったからこそ、分かることだから」


 先程からソルがそうなった、と形容するそれが何を指すのか、いまいちわからなかった。零酷停王も、凍った瞳も。そうなったから分かるというソルは、どちらも持っていないはずだが。


「意味不明、って顔してるわね。当然よ。痕跡は、残っていないもの」


 微笑んで、目を見開いたソルの瞳が、段々とその赤色を失っていく。中央から広がっていく淡い空色のブルーは、数瞬ごとに色濃くなってゆき、深い青色になる。そして形作る、雪の結晶にも似た、凍った瞳を。


 ふふっ。そう声に出して笑った後で瞬きをしたソルの瞳は、一瞬で情熱を取り戻す。


「千年前、眠る前にこうなって、千年かけて元通りにしたの。それくらいしつこいのよ、この傷跡」

「……汚れみたいに言うなよ」

「汚れよ、こんなもの。凍り付いて中々解けない、カビみたいなものよ」


 その笑顔に偽りはない。

 ただ、流石の俺でも見逃さない。その笑顔に、陰りはあった。

 物語を読むことに慣れ、アニメなんかでもよりよく物語を楽しめるようになった今、仮面ライダーを見るのが楽しいです()次はプリキュアの予定ですけど、ニチアサって面白いですねと思う今日この頃。


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