零酷停王
どうもシファニーです。二日間の休執日をいただきまして、更新です。ここ最近更新をさぼりがちで申し訳ないと思うと同時に、総合pが400に達していたことに感謝を。どれくらいからすごくて、今の自分が実際どのくらいの立ち位置なのかは分かりませんが、世の中大事なのは相対的評価だけじゃないと思うんです。
と言うわけで絶対評価で自己肯定感を上げて行こうと思います。
第二百三十二部、第七章第二十三部『零酷停王』です。どうぞ!
そいつが握りしめた首飾りから紫色の光が溢れだす。
それは大きく膨れ上がり、魔力に覆われる。やがて狭い通路の四方八方が魔法陣に覆われ、俺の足元も右も左も上も紫色に光り出す。
「な、何だこれ!?」
慌てて後ろに下がり、紫色の光の外へと逃げだす。司祭の腕は話してしまったが、それどころじゃなかった。尋常じゃない魔力が溢れ出し、そこに命が宿っていく。
「召喚魔法の類か!? でも、この数と魔力……悪魔か?」
オレアスでアリシアと戦っていた時に乗り込んできた邪神教徒が使って言う悪魔召喚だろうか。だとしたら、無数の悪魔がここに召喚されることになる。サキュラの王都の地表近くの、この場所に。
「ばか、やめろ!」
「もろとも邪神に命を捧げるがいい!」
気づいた時には時すでに遅し。百を超える魔法陣から、既に悪魔たちの体が見え始めている。咄嗟に伸ばした手に剣を生み出して、司祭に突き刺す。その旨を確かに貫通し、致命傷を与えた。そのはずだったが、司祭は口端に血を流しながらも気味悪く笑った。
「恨むなら、己が我らには向かったことを恨むがいい!」
最後まで耳障りな高温で叫んだ司祭は、そう言って力なく崩れ落ちる。
「こいつッ!」
こういうのを勝ち逃げと言うんだ。頭に血が上り、思わず死体をめった刺しにしそうになったが、抑える。踏み込んでしまったせいで、俺もすでに悪魔に囲まれる位置にいる。こちらに近づいてくるかなや勇者の気配を感知しながら、俺は短く息を吐く。
「覚えとけよ、邪神教」
その言葉の直後、狭い通路に無数の悪魔が顕現し、通路を進んで登っていく。本能的に、餌の多い場所でも目指したのだろうか。それとも、俺の気配に怯えたのだろうか。俺のことなど気にした素振りも見せずに、一直線に地表へと向かって行く。
「《アイシクルアロー》」
苦し紛れに放った一発の氷の矢は悪魔一匹貫き壁に刺さって勢いを失う。地団太を踏んで、恐らく悪魔の気配にかなが気付いたのだろう、こちらに向かってきた三人の方を向く。
「司、大丈夫?」
「……俺より上がダメだ。たった今、百を超える悪魔が王都に放たれた」
「ええ!? そ、それやばくない!?」
「やばいなんて話じゃないだろ。邪人ってやつらだったら一般冒険者や兵士でもどうにかなる。だが、悪魔ともなれば一体相手にするのでも精一杯のはずだ。どけ! 先に行く」
「ちょ、スーラ待って!」
狭い通路で俺を押しのけ、駆け上っていくスーラとそれを追うヘイルを見送りながら、握っていた剣を握り潰す。粉々になった氷が、足元に音を立てて落ちて行く。
「……司、大丈夫?」
「大丈夫だ」
かなの視線が向いているのは、俺の足元だ。上のことでも、俺の体を案じたわけでもない。
「かな、行くぞ。こっちも手伝ってもらったし、借りは返す。隙を見てここから逃げるぞ」
「……ん、分かった」
そして、かなは静かに転移を発動する。
上空に飛び出し、かなに抱かれて下を見下ろす。当たり前のようにお姫様抱っこされてるが、今は気にする余裕もない。王都中に散会した悪魔が次々と一般市民を襲って行くのが見える。湧いた怒りの行き場がなくて魔力が暴れる。歯を食いしばって、拳を握る。
「かな、ここは任せてくれ。一瞬で終わらせる」
「……ん。ウォーリアー、付いて来て」
空中に姿を現した守りの化身の咆哮の後、俺はかなに投げ捨てられた。かなも俺とは別の方向に急降下し、二体の上位精霊もそれに続く。
それを、仰向けに落ちながら見届けて、俺は目を閉じた。
妹の顔が浮かんだ。人懐っこくて、健気で、元気な奴だ。俺みたいなやつを、慕ってくれていた出来のいい妹だ。今までほとんどなかったあいつからの願いの一つ、少しでも多くの罪無き命を守る事。
躊躇っている暇はない。数百の悪魔が街に充満し、縦横無尽に殺戮してるんだ。一体ずつ片付けていたら、それこそ時間がかかりすぎて犠牲者が増える。
「《冷徹者》。出番だぞ」
突如、風を切る音が聞こえなくなり、全身に受けていた落下する感覚がなくなる。
功利主義、って言ったか、確か。冷徹者の名にふさわしい思想だと思うよ。
今になってようやく、ソルやかなの言っていたことの意味が分かった。人間を殺してはいけない、ってやつだ。約束だってしたし、俺もそんなことしないで済むならそれでよかった。でも、怒りに操られ、視界の狭くなった今の俺に、他の選択肢なんてなかった。
脳がはちきれるような頭痛と熱を感じた直後、俺の眼は見開かれる。遥か上空に浮かぶ、無数の魔法陣。世界の動きすら止める、その魔法の名を――
「氷影よ永遠に。《パーペ・チュアル》」
平坦な声音で呟かれた天災は、王都を守る外壁すらも覆いつくして膨張する。世界が隔離され、時間の狭間に取り残されていく。底冷えするような冷気の中で、動けるのは俺一人。合理性に支配された、冷徹者。いや、
《スキル:《冷徹者》の熟練度が一定に達しました。スキル:《冷徹者》が進化。《零酷停王》を獲得しました》
氷の世界の誕生の始まりは、氷の世界の崩壊の終わりと共にやって来た。
「《氷解》」
呟いた一言で、世界の永遠は崩れ去った。
時々突然強くなる司君ですが、今回のは司君の固有能力である《能力使い》と言うスキルの成長を後押しするものがあったからこそだと思っています。まあ、設定だなんだあれこれ言ってこじつけるのが小説家の仕事みたいなとこ――
何でもないです。
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