脱出
本日二度目の更新です、どうもシファニーです。ゴールデンウィークも終わりと言うことで張り切って書き上げました。
第二百二十部、第七章第十一話『脱出』です。どうぞ!
「かな、油断するなよ」
「ん」
部屋の扉を開いて俺たちに剣を向けたそいつこの国の鎧だろうか。銀色の鎧を全身に身に纏っていてどこかやる気のなさそうな、気怠そうな立ち振る舞いをしている。しかし握られる剣に隙は無く、一介の兵士とは思えない。
それに、転移してから然程立っていない俺たちの居場所を一瞬で見抜いたと言うだけで実力者と言うことは確かだ。それに、あまりに動きが早かった。動いたことを確認したときには、もうここについていたのだから。
それだけではない。
「ま、待って……スーラ、早すぎでしょ……」
「お前の速さに合わせてたら逃げられるだろうが」
もう一人、こちらに向かってくるものがいた。こちらは兵士の装いではなく、マントを着込んだ魔術師の様な女だ。無駄に大きい杖を持っているし、魔術師の類であることは間違いないだろう。
この女、俺的に言えば剣士よりも油断ならなかった。俺の探知に、そして恐らくかなの探知にも引っかからなかったのだ。足音や声を聴いてようやく接近に気付いたくらいだった。そもそも、外から城内を確認したとき魔術師のような格好の者は見当たらなかった。
ただ、俺はその理由に心当たりがあった。あいつが来ているマント。以前オレアスの王城で邪神教徒が来ていた者に似ている。恐らく、気配を完全に消すなんて言う能力のものだったはず。
「で? あなたたちが侵入者ね。今の忙しい時期に盗みを働こうだなんて、私の休みを奪ったこと、後悔させてあげるわ!」
「ヘイル、お前は黙ってろ。こいつらは俺がやる」
「えー、独り占めはダメだよ?」
二人は部屋の唯一の扉の前で陣取り、そんな会話をしていた。まるで、俺たちの事なんて眼中にないかのように。
でも、これはチャンスだ。
(かな、後ろの壁を壊して外に行くぞ)
(ん、分かった。任せて)
(それじゃあ、1,2の3でいこう。1、2の)
視線を合わせることなく念話だけでやり取りを終わらせ、目の前の二人の動きを見逃さないようにしているのだが、二人は以前お気楽ムードだ。
「さて、どっちにしても捕まえないといけないしね。お二人さん、素直に捕まってくれれば、悪いようにはしないから――」
(3!)
脳内で数えた三に合わせてかなが拳で壁を割った。レンガ造りの壁は崩れ落ち、外から光が差し込んでくる。それに合わせて俺は壁に出来た壁に飛び込み、かなも続いて飛び出す。一瞬の出来事に二人が硬直しているのを確認してから再度転移を試みるが、やはり使用は出来ない。
(かな、路地に入るぞ。出来る限り一目の付かないところを行く)
(ん)
恐らく、あの魔術師の妨害なのだろう。転移できないので走るしかないが、予めある程度街の造りを確認しておいてよかったと思う。そうでなかったら騒ぎを起こして面倒なことになっていたかもしれない。
何とか住宅街まで入り込み、まだ追手がないことを確認する。まあ、俺たちの全力疾走についてこれる人間なんてそう相違ないし、当然っちゃ当然だが。
「危なかったな」
「ん。魔法、使えなかった」
「え? 転移魔法だけじゃなくて、全部か?」
「ん」
驚きだった。俺は魔法の発動を試さなかったから気付かなかったようだが、どうやらあの魔術師は転移を封じるだけでなくすべての魔法を封じる力を持っているらしい。惜しいのは、あのマントのせいか解析鑑定が機能しなかったことか。
「でも、あの魔術師の方は明らかに勇者だろうな。それに、邪神教で使われているマントを着ていた。きっと、邪神教から派遣されて来た勇者だろうな」
「ん、強そうだった。戦ってみたい」
「それは、最悪の場合だな。まあ、取り合えず目的は達成したんだし、国に帰ると――」
「見つけた」
帰るとするか、と言おうとして再び言葉を遮られた。先程同じ声に言葉を遮られたばかりなので相手が誰かは分かるのだが、驚いてしまうのは同じだった。そこそこ走ったんだぞ、俺たち。こんなすぐ追い付けるわけがない。
「転移は出来ないはずだ。それでもこんな遠くまで逃げられるってことは、身体強化系の能力か?」
再び剣を構えた男は、そのけだるげな眼差しとは相反してはっきりとした口調で問うてくる。答えてやる必要はないが……相手の情報があまりに足りない。相方の女は来ていないようだし、今のうちに喋っておくか。
「さて、どうかね。しかし、あんたも大概だな。かなり全力で逃げたと思うんだが、こうも簡単に追いつくなんてな」
「そうか? お褒めに預かり光栄だが、そんなことで逃がしてもらおうだなんて思うなよ? ただでさえ急に働かされてて忙しいんだ。俺の仕事を増やした罪、重いぞ?」
「へぇ、そうか。ま、捕まえたければ捕まえればいいさ。どうせ骨折り損で終わるけどな。かな」
「ん」
「……っち」
俺はかなに合図して背後に飛び、兵士と距離を置く。そのまま屋根に上がり、駆けて行く。
「確証があるわけじゃないけど、あいつも口ぶりからしてリセリアルからの派遣、ってことでいいのか? でも、勇者じゃなかったしな」
「でも、早かった。それに、強そう。騙してる?」
「……なるほど、その可能性もあったか」
解析鑑定を受けることを前提に、それに対して偽装することが可能なのだとしたらあいつの能力にも説明がつく。
だって、あいつの速度は俺が見たステータスとは明らかに見合わないし、纏う雰囲気が強者のそれだった。ステータスを偽装していたと視て間違いないだろうな。でも、そんなことが出来るやつがいるのか? ルナたちにもできないようなことだぞ。
「あっ、見つけた!」
「っ!? かな!」
考え事をしながら走るも、俺の思考は分割され、問題なく体を動かせる。突如視界に入り込んだ女を見て咄嗟に反応できたのもそのためだ。
「ふふっ、逃がさないわよ!」
女は間違いなく転移してきた。目の前に。ただ、なぜだろう。そこに魔力を感じなかったのは。
と言うわけで強敵登場です。分からないことが多い二人相手に、司君とかなちゃんはどんなふうに立ちまわるのか、お楽しみに!
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