理解しあって
どうも、シファニーです。学校新年度が始まりましたが、頑張っていきます。
第二百部、第六章第三十九話『理解しあって』です。どうぞ!
そう呟いたその直後、黒江が何かに思い至ったかのように身を乗り出して言ってきた。
「ちょ、ちょっと待って! もしかして、その戦争に勇者って参加してなかった!?」
「ちょ、近っ、いや、いたと思うけど!?」
「や、やばいよそれ……ちなみに、勇者はどうなったの?」
俺の言葉を聞いて少しばかり落ち着きを取り戻した、と言うよりは逆に混乱しているのだろうか。俺から距離を取った黒江がまくし立てるように言ってくる。
「……俺の仲間が倒した」
「うっそ……たぶん、私にはほとんど面識がなかったんだけど、最近行方不明になっている勇者の誰かじゃないかな。実は、ここ最近リセリアルでは勇者が行方不明になることが多くって、噂だと国に軍事利用されてるんじゃないか、って話だったんだけど」
「確かサキュラにはオレアスからの軍事支援は確認されてたな。サキュラから、ってのは聞いてなかったが、全然あり得ると思う。いや、と言うかそれを聞いて納得できたかもしれない」
実はリルに聞いた話だが、サキュラとの戦争中で確認された三人の勇者。サキュラの出身だったとしたらあまりに味方に容赦なさ過ぎた、と。一人は味方が巻き込まれるのも気にせず暴れていたし、魔法使いの女に関しては味方を操って壁にしていたという。最も力があったという男も、仲間が犠牲になることが前提の動きを取っていた、と。
作戦だ、と割り切れば納得しきれないことはないようなことだが、どうしたって疑問は残っている、とリルは言っていた。だけど、もしサキュラから派遣された勇者なら、そして、その勇者が正義の味方でなかったのなら――
「勇者、って言うのはあくまで種族の名前だ。だから必ずしも命を大切にするとは限らないし、例え目的のために誰かを殺すことも厭わないこともあり得る、か」
「……司、もしかしてその勇者」
俺の呟きに、ソルも気付いたのだろう。真剣な表情で言ってきた。
「ああ、その通りだろうよ、ソル。きっと邪神教に所属、もしくは加担しているサキュラからの勇者だったんだと思う」
「そんな……でも、そうだよね。勇者って言うのはあくまで肩書。実際に慈善行為を行う人とは限らないし、力がある分、悪いことをしちゃう人もいるんだってのは分かってた」
そう言いつつもどこか暗い表情を浮かべて俯く黒江に、俺はかける言葉を見失っていた。ただ、自分自身すらも納得させるように言う。
「操られていたか、脅されていたか。報酬目当てで真の目的を知らされていなかったか。色々と理由はあるんだろうな。ただ、サキュラと亜人国との戦争で、サキュラ側についた時点で俺にとっては敵対組織なんだ。今までだって迷惑かけられたし、これからもちょっかいかけてくるなら俺たちは邪神教徒、そして、そこにいるかもしれない勇者たちと戦うことになる」
「……うん、仕方のないことだと思う。お兄ちゃんはこっちに来てから私とは立場が違っちゃってるしね。もしかしたら、こうして会えてることも奇跡的なことなのかもしれないんだもん。その、人間と亜人は仲が良くないからね。仕方ないことだよ」
「黒……」
どこか割り切ったかのような、自己暗示のような言葉を発した黒江。
よくよく考えてみたら、俺は亜人側で黒江は人間側。それにお互い無駄に力があるせいで表面上だけでも敵対関係と言えるような立ち位置にある。もちろん黒江と戦うつもりはないし、戦いに巻き込むつもりもないが、黒江からしてみれば複雑な感情だろう。
そこに共感しきれない俺は、やっぱりもう人間じゃないのかもしれない。
「お兄ちゃん、応援は出来ないし、手助けも出来ない。けど、納得だけは、出来るから。して、上げられるから。せめて、一般市民には手を出さないで欲しい」
「……ああ、分かってるさ。俺だって、無益な人殺しはしない。絶対にだ」
「うん」
黒江は相変わらず優しい奴だ。いや、優しいとは言い切れないか。
兄である俺を優先するあまり、自分の同族が兄に殺されることを、最低限是としてしまっているのだから。それは黒江の優しさであって、俺の甘えなんだろうな。妹を割り切りきれない、そして、リリアを、自分自身の立場を捨てられない、俺の甘え。
ああ、本当にめんどくさいもんだよ、命ってのは。
「ま、何であろうと敵は倒す。それでいいじゃない。敵を倒す、と言う行為に善も悪もないわ。お互いに命を賭けた戦いをしているんだから」
「それも、そうだよね。うん、そうだよ。だから、大丈夫」
「……だな。俺が倒すのは、俺の敵。それだけだ」
割り切れない心があるのは、冷徹者が必ずしも万能ではないからだろうか。それとも、俺の冷徹者に反抗する意思の強さゆえなのか。分からない。でも、戦場で掛けられていない命を奪うことだけは、許せないと思えた。してはいけないと、思った。
「ねえ、司」
「ん? どうした?」
そう決意を決めていたところ、司が服の裾を引いて来た。見上げる瞳は、月明りを受けて輝いていた。
「ん、大丈夫。かながいるから。司は、辛い思い、しなくていいんだよ?」
「そうか。ありがとうな」
「ん」
軽く頭を撫でてやると、かなは気持ちよさそうに瞳を閉じた。
無理をするなと言われたのは、それなりに記憶に新しい。今俺は、無理をしていたのかもしれない。かなはきっと、それを感じているんだ。無理をしないで生きる、なんてできないと思う。でも、無理のし過ぎがよくないのも、本当の事だ。
ああ、本当に。俺はずっと、甘えっぱなしだ。
ついに二百! 五十万文字を優に超える量を書き、ここまで続けてきた私を褒めたいですね。
そう言えば最近『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』を視聴しました! 続までですね。比企谷八幡の人間性や、雪ノ下雪乃の繊細さ。その他にも個性豊かな登場人物がいて、身の回りの人間関係について、改めて考えさせられましたね。え? 私ですか? 正真正銘のボッチです。同じ部活の仲間? 無所属ですが。
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