最強の名は
私の済む地域では桜が綺麗な時期になりました。夜桜を鑑賞してきたんですけど、とっても綺麗でした。落ちはありません。
第百九十部、第六章第二十九話『最強の名は』です。どうぞ!
「ん? 司?」
それは、一瞬の出来事だった。その全容を把握するのに、私ですら一秒近く要してしまった。
目の前に現れた邪神、ヨグ・ソトースとやらが持つ固有権能《司空者:空間を自在に操る》によって構築、維持されていた神殿は変化を繰り返し私と司たちを分断した。しかし、どういうわけかその空間の制御が崩れ、合流を果たしたわけだ。
しかし空間は崩壊すると同時に再構成され、今度は私たちを関連に隔離、別時空に送り込むことで分断したのだろう。
辺り、どころか世界のどこを探しても司たちの気配は確認できない。別時間軸、もしくは転写世界。なんであろうと、同様の世界を作り出し、他人を隔離するなんて所業、今まで同じ原初の七魔獣だった青竜しか使えないものだと思っていた。
黒竜と揃って食らってやったけど、正直あいつのそれは大したことがなかった。私の魔術・空間で簡単に破壊できたし、そもそも世界を複製して隔離したところでもう片方の世界で私は普通に生きていられるのだ。使い方がなってなかった。
ただ、目の前のそいつはその類ではないらしい。
「本当ッ、忌々しいわね。ただでさえお気に入りの司が取られそうなのに、邪魔しないでくれる?」
額の血管が破裂するような錯覚、いや、実際破裂したんだろう。しかしすぐに再生し、何事もなかったのように綺麗な肌へと戻る。
目の前のこいつの空間操作はどう考えても馬鹿親のそれの完全劣化。しかしそれは完全なる世界の複製と隔離を意味した。要するに、私が操る魔法程度ではどうやったって干渉できない。
その上、何よりもイラつかせるのは私と司が完全に別世界に隔離されている、と言う点だ。この世界には司がいない。どこを探そうと、見つかることはない。ならばこそ、ここを抜け出さなければならないだろう。
しかし、方法が分からないのだ。目の前のこいつが制御しているのは分かる。だが、こいつを倒したとてこの空間が解除される保証はなく、こいつは別世界に生まれた複製体であるからどれだけの拷問を施そうとこの世界を解除することはあり得ないのだ。
それに、無駄に力を蓄えている。生まれたての下位神のようだが、人間の国一つ程度、余裕で滅ぼせるだろう。それこそ、あのリルって魔獣が本気で暴れたのと同程度の被害を生み出せそうだ。
付け足すならば、私とは相性が悪い。
種族:下位神・邪神
名前:ヨグ・ソトース:固有権能《司空者:空間を自在に操る》
レベル:68
生命力:20991/20991 攻撃力:29182 防御力:30955 魔力:19281/19281
状態:正常
スキル:魔術・闇Ⅹ、闇世界門、魔爪Ⅹ、自然治癒Ⅹ、魔力自動回復Ⅹ、物理攻撃耐性Ⅹ、魔法耐性Ⅹ、状態異常耐性Ⅹ、精神攻撃耐性Ⅹ、即死無効
権利:基本的生物権、自己防衛の権利、自己回復の権利、魔術使用の権利
称号:殺戮者、邪神
種族:魔獣・陽狐
名前:ソル:固有権能《陽光:陽光の下にいるとき、状態:天照神になる。生命力が半分を下回った時、妖光発動》
レベル:89
生命力:7909/7909 攻撃力:29018 防御力:18291 魔力:20918/20918
状態:天照神
スキル:金陽、魔力感知Ⅹ、気配察知、解析鑑定、魔牙Ⅹ、魔爪Ⅹ、魔術・精神Ⅹ、魔術・空間Ⅹ、魔術・陽光、思考加速Ⅹ、自然治癒Ⅹ、魔力自動回復Ⅹ、精神攻撃無効、状態異常無効、即死無効、擬態
権利:基本的生物権、魔術使用の権利、自己防衛の権利、自己回復の権利
称号:殺戮者、陽光の姫
そもそも私は近接戦闘を得意とする武闘派だ。私の肌に触れたありとあらゆる物質を融解することが可能なので相手に触れれば大体の戦闘は終了する。しかし、あいつはやけに体がでかい。巨神のそれと比較すれば大したことはない。半分くらいだろうか。それでも体積が多ければ大きいほど、そしてその回復力が高いほどに私の陽炎の通りは悪くなる。
そして邪神はその条件を満たしており、厄介だと言えるだろう。
「誰があなたを生み出し、あなたがどんな意思を持って行動をしているのかは分からない。けれど、もしも司に何かあった時、私はあなたを、この世界を、許せない」
自分でもわかる。今私は、怒っている。それこそ始祖竜を封じた時の様に。いや、あの時を優に超えるだけの怒りを、この身に宿していた。
その毛は逆立ち、金髪と黄金色の尾は炎の様に揺らめき、熱を放つ。もはや、触れずとも肉体は溶け落ちる。
「そこを退きなさい。新参者があまり調子に乗ると、決して終わらない地獄を見せるわよ?」
目を細め、威圧するようにそう言うと、邪神はその巨体で小さく肩を揺らし、笑いのような奇声を漏らした。それは悪魔の咆哮の様で、死神の囁きの様だ。息とし生けるものを死に誘うような耳障りな音色は、私の怒りを逆なでし、逆鱗よりも大切なそれを、大きく刺激した。
ソルの瞳が、色を失った。
纏う殺意が形を持ち、ソルの背を形どる様に肥大化する。邪神の背丈を優に超える淡い赤色の巨体は、やがて狐の形をとりその鋭い牙を剥き出しにする。赤く灯る瞳を鋭く邪神へと向け、咆哮を上げる。
天照神。それは太陽に宿る精霊。神の名を冠する最高位の精霊は、陽光の下でソルの礎となり、その力を増加させる。
薄暗い天井に覆われていたはずの空間を天光が貫く。燦燦と煌めく天照神によって空間は光に包まれる。
「《天照神は沈まない》《灼熱の威厳は潰えない》《その天光振りし神域に》《陽弧は語る》――」
抑揚のない声で告げられるは世界の終わり。決して潰えぬその熱を、そしてその温度を増し続ける太陽の。何億年も続いた歴史のすべてを一瞬に込める、崩壊の魔法。神すらも恐れる、星々の崩壊を招く力。
「――《世は、我の罪過なり》ッ」
音もなく、白い光が世界を覆う。最早熱さなど感じぬほどの極温が、星を包んだ。
「《崩壊の時》」
彼女は陽弧。太陽の精霊を宿す、いや、太陽そのものである彼女の力は無限大。星の一つや二つ、容易に破壊してしまえるのだ。だからこそ、彼女はこう呼ばれる――
七つの大罪、神に愛された狐、この世の始発点。宇宙の、創始者と。
魔術・陽光、最強にして最恐。空前絶後、不変の極地が今、示される。
「《ビック・バ――」
その言葉を言い終えると同時、その星は崩壊した。
隔離された、世界ごと。
これから少しずつ明かされていく世界の真髄をお楽しみに!
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