聖職者
今回は久しぶりに一週間以内の更新です。どうもシファニーです。
明日から三月ですが、高校一年生は気楽でいいですね。授業数が減って休みが増えるので、小説をかける時間も増えそうです。
第百八十三部、第六章第二十二話『聖職者』です。どうぞ!
街に帰るまでの道のりにかかった時間十分未満。少年が少し心配だった俺たちは早歩きで帰って来たのだが、想像以上に早くついてしまった。俺たちくらいの身体能力だと、当たり前だが前の世界での常識が簡単に崩れるよな。
そんなわけで街に着いた俺たちは適当に報酬を受け取った後、少年を探すことにした。
「でも、どうやって探すの?」
「ん? ああ。かな、分かるか?」
「ん、こっち」
かなに問うと、表情一つ動かさずに頷いて歩き出した。その歩みに迷いはなく、本当にわかっているようだ。
「え? どうしてわかるの?」
「かなは元々猫だろ? で、猫って気配に敏感だけど、こっちに来てからも変わらないらしくてな。一度会ったことがある相手なら、一キロくらい離れててもどこら辺にいるかわかるらしい。まあこれは、こっちに来て身体能力が強化されて、本能も多少残しているからこそできることみたいだけどな」
「ふーん、良く分からないけど、凄いってことだね」
俺たちがそんなことを言いながら背をついて歩いていると、かなは小さく頭を振り出した。どうやらご機嫌らしい。
「ん、この先。あの小さな家」
「おお、あれか……って」
「廃、墟?」
俺が思わず飲み込んだその言葉を、黒江も悪気はないであろうが零した。
崩れかけた石造りの家は、苔にまみれ、誰が住んでいるのは思えぬようなものであった。元が小さいのもそうだが、崩れかけているせいで住めるところがあるのかさえ微妙だ。
まあ、それでもかなが言うのなら間違えはないのだろう。恐る恐る家に近づいていくと、家の中に確かに人の気配があることが分かった。ベッドに横たわる大人と、そのそばにいる子ども。
中を覗き込んでみると、そこには少年の姿があった。どうやらすでに薬草を薬にして飲ませているようだ。
「あ、お兄ちゃんとお姉ちゃん。それに、ちっちゃなお姉ちゃん」
「む、かなは小さくない」
足音で俺たちに気づいたらしい少年は振り返って嬉しそうに駆け寄ってきた。
「みんなありがとう。おかげで薬が作れたよ」
「薬の作り方なんて知ってるんだな」
「うん、教会で教えてもらったんだ」
「協会?」
「うん!」
嬉しそうに言う少年に問うと、少し困り顔を浮かべながら教えてくれた。
「えっと……この街にあるんじゃないんだけど、聖職者さんの服着てて、この薬草を売ったり、これで薬を作る方法を教えてたんだけど、薬草は高くて買えなかったの」
「だから森まで探しに来たわけか……でも、薬草に高値を付けて売るとか、そいつら本当に聖職者かよ」
「ね。意地悪だよね」
どこか違和感を感じながらも少年に続きを促す。
「でも、お母さんが病気になってすぐに来たんだよ? 神のお告げがあった、って。この辺には他にも病気になった人がいて、その人たちを助けに来たんだって」
「なるほど?」
神のお告げとやらを信じるつもりはないが、わざわざ遠くから病人を助けに来るのならいい奴らってことなのだろうか。
「ん~、でもそれってなんか変じゃない? 本当に神のお告げなんだったらいいんだけどさ。もしその病気になった原因がその人たちにあったんなら、その人たちは高い薬草を売ってお金儲けできるんじゃない?」
違和感が拭えなかった俺にそう言ったのは黒江だ。
「まあ、確かに的を得てはいるが……考えすぎじゃないか?」
「うーん、別に根拠があるわけじゃないよ? ただそれはあり得るし、そうやってお金稼ぎをしている人は前にもいたし、前の世界じゃ良くあった話でしょ? まあ、他に理由があるとすれば――」
黒江はそこで一旦言葉を区切ると、少年のほうへと視線を向けた。
「あの子、魔力過剰反応症候群になりかけてるし」
「え?」
「え? 僕が?」
俺も驚いて少年のほうを見るが、少年も自覚はないようだし、特に変わっている場所があるわけでもない。何を根拠に、と思っているとかなが口を開く。
「なんだか、嫌な臭いがする」
「え? 特に何も臭わないと思うが……」
「ううん、変な魔力の臭い。かな、これ嫌い」
顔をしかめて言うかなは、その鼻を摘まみながら少年から距離をとる。
「それ。魔力過剰反応症候群の前兆。なんでも、邪悪な魔力、らしいよ。私も何人か同じような症状の人を見て来たし、教えてもらったからわかるの。きっと、この子がいたから。魔物とかが嫌う魔力をこの子が纏ってたから、あそこであんなに魔物たちに囲われたんだと思う。あった時は魔力がまだ薄かったから、私とかかなちゃんじゃわからなかったんだと思う」
どうやら黒江は今回の件に関する情報を俺より多く持っているらしい。ならば、今回は黒江に任せるのが正解であろう。
「この魔力が、その聖職者たちが意図的にばらまいてお金稼ぎをしようとしたものなんだとしたら。私はその人たちを、許せないかな」
黒江はまじめな顔でそう言うと、少年に歩み寄って右手を頭にのせてやる。そして静かに目を閉じると、その右手に光をまとう。
その光は少年にも伝わり、少年は光に包まれた。しばらくしてから黒江が手を離すと、少年も光から解放される。
少年は訳の分からぬように呆けるが、黒江は立ち上がると冷静な声で言った。
「これで、この子は大丈夫。普段は使わないようにしてるんだけど、今回は特別ね。それじゃあ、お母さんを大切にね」
黒江はそれだけ言うと、俺とかなの手を引いて家を後にした。
今月は本当に更新回数が少なくなってしまったので、三月からはもっと頑張りたいと思いますね。ただ、書けるかどうかは案が出るかどうかなので、運次第ですね。
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