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黒江

 お久しぶりです。総合PVが76000を超えました、どうもシファニーです。ありがたい限りですね。

 更新する度にちょっと増えていくPVが、より一層創作意欲を掻き立ててくれます。これからも目を通してくれるだけでもいいので、この作品を見守ってくれると嬉しく思います。


 第百七十九部、第六章第十八話『黒江』です。どうぞ!

 ダンジョン攻略の翌日。昨日は結局滞りなく依頼完了の報告だけして報酬をもらい、再びそれぞれの宿に散らばった。と言うわけで妹との目覚めとなる。


「おはよう、お兄ちゃん」

「ああ、おはよう……かなもな」

「ん……はよ……」


 勢いよくカーテンを開けた黒江と、ベッドに腰掛ける俺と、まだ眠そうに目を擦って布団にくるまっているかなと。


 夫婦とかそう言うのとは違う、家族の風景だと思う。


 別にセンチメンタルになっているとかではないと思うが、久しぶりに妹と迎えた朝は二日目になろうともまだ感慨深いものがある。そこにずっと家族になりたかったかなが加わっているのだから、尚の事。まあ、言ってしまえば。


 これまでの殺伐とした雰囲気で疲れ切っていた心が休める場所を見つけた。だからこんなに安心できるんだろう。


「そうだお兄ちゃん。今日はどこか出かける? 私は特に予定もないけど」

「俺たちもフリーだ。と言うより、俺たちがここに来た理由は特にないからな。やりたいこともない」

「そっか……じゃあ、今日は三人でのんびりしようよ。他のみんなには、もともと今日は自由行動って言ってあったし」

「だな。何より、しばらくは戦いはこりごりだ」

「……うん、私もだよ」


 俺も黒江も元は平和な世界で暮らしていたただの一般人だった。

 突然異世界に送られ、その後の展開は色々違えど俺たちは触れてこなかった殺し合いの世界に足を踏み入れた。それこそ最初は生きるためとか、必死だったからとか、そんなことから始った。それに慣れ、当たり前と感じるようになって、半年近く。

 俺は数多の命をこの手で奪ってきたし、何なら、敵は殺して当たり前とまで思っている。


 やっぱり、センチメンタルになっているかもしれない。俺、寝起き弱かったかな。


 以前かなに言われた。無理をするなと。

 無理って言うのは自分じゃあしてるかどうかがわからないから怖い。自分で大丈夫大丈夫と思っていても、いつの間にか心が疲弊している。

 勢いだけで格好づけるために命を奪う俺も、食料だ何だ言って命を奪う俺も、自分を守るために、そして誰かを守るために命を奪う俺も。きっとわかってなかった。


 後悔? 自己否定? そんなんじゃない。


 自分の命に乗っかっていく、奪った数だけの重みが、どれだけ苦しいかを。


「……なあ、黒はこっちに来て、どんな風に暮らしてきたんだ?」

「そうだなぁ……こっちに来てすぐ、右も左も分からない、人気のない草原に自分がいることに気付いて。不安で不安で仕方なくて。無我夢中で走り回って。やっと人の声が聞こえたと思ったら、目の前の誰かが大きな怪物に襲われてて。……無我夢中で突撃して、気付いたら私が、いつ取り出したかもわからない光の剣でそいつを切ってた。襲われた人は感謝してくれて、ここに案内してくれて……」


 かなはまだ眠っている。出来ればこんなしんみりした空気は吸わせたくないので、そのままでいいだろう。だって、あの黒江ですら、泣きそうなほどに苦しい表情を浮かべているのだから。


「それからテトに出会って、リウスに出会って。一緒に色々な依頼を受けて。自分の力が誰かを守るために使えるって気付いてから。ううん、お金を稼げて、生きるために使えるって気づいた時からずっと、私は剣を振るい続けた。……でもね、でもねお兄ちゃん。私は、自分でもわからないんだけど、こんな自分は、なんだか違うって思えるの」

「……」

「慣れないことをしてるとか、自分らしくないとか。何だか、そんなものですらない、変な感覚。自分じゃない自分、変えられた自分。変わってしまった自分。……不安、焦り、怒り、悲しみ。色んな感情が渦巻いていたし、渦巻いてる。今こうしてお兄ちゃんに会えているけど……いつまた、離れ離れになるかなんて、わからない……っ!」


 バッ、と勢いよく顔を上げた黒江。その瞳に映る滴は、黒く淀んでいた。


「ねえ、お兄ちゃん。私って子どもかな。やっとお兄ちゃんに会えたのに、また離れ離れになることを考えちゃって……いつか、本当のお別れをしちゃんじゃないかって、怖いのっ」


 溢れ出した感情は、俺の胸元を濡らす。

 黒江は俺の胸に顔を預けて、尚も紡ぐ。


「ずっと分からなかった。引っかかったような、取り除けないような。喉に詰まった骨とか、そんな小さなものじゃない、体を縛り付ける何か……でも、今ならわかるよ。私は、無くしちゃってた……」

「……何を?」


 言葉を区切り、呼吸を整える黒江に、俺は問う。

 ゆっくりと顔を上げて、もう何年も見せてない、美しいまでに歪な泣き顔で、黒江は言う。


「家族を。自分のことに必死になりすぎて、夢中になりすぎて。家族を、お兄ちゃんを、かなちゃんを、無くしちゃってた。心配に思っても、いつものことだって、そう振り払っていたけど。私は、そんなに強くなかった……」

「黒……」

「お兄ちゃん、これからは……一緒にいてね」


 背中に回された腕、見上げる瞳。密着した体を通して伝わる鼓動や、僅かに聞こえる息遣い。

 今まで見たことないほどに愛らしい愛妹は、本当に久しぶりに、我が儘を言ってきた。


 俺はそっと、黒江を包み込むように体を寄せて、頭を静かに撫でてやる。

 少しずつ収まっていく荒い息、苦しみの滴。


 俺は今度こそ、守るべきものを見つけた。

 そう言えばスニーカー大賞の受賞作品を色々見てみたんですけど、やっぱり受賞されるような作品は、自分のものと比べると作り込みも文章力も桁違いで、自分が仮にも目指している目標としてみると、どうにも気後れしてしまったり。

 小説を書くものとしていつか書店で自分が書いた本を読んでみたいなんて思っていますが、まだまだ遠い未来になりそうだと、そう思った次第です。


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