弱者が強者に勝つために
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第百五十四話、第五章第十五話『弱者が強者に勝つために』です。どうぞ!
青い氷は巨神目掛けて霰のように降り注ぐ。しかし無数の氷は巨神がその場で振るった腕によって生み出された風圧にはじかれ、粉々に砕ける。数千、数万に分裂した氷たちは巨神の肌をたたくがダメージにはなりえない。続いて巨神は魔力を込めた拳をその場で振るった。どす黒く、また重々しい気配を纏った魔力は形を持ってそのまま放たれた。
巨神の拳、その直径は3メートル程度。と言ったが俺の身長の約二倍。その速度は――
「ちょっと風を置き去りにしてませんかね!?」
俺は叫びつつ影空間に潜った。だというのにどうしたことだろうか、影空間にまで魔力が侵入してきたではないか。
「リル、司水者っ!」
(《司水者》)
魔力を水に変換し、その勢いを抑え何とか堪えた。が、俺ははじかれ影空間で数メートルほど吹き飛ばされた。そのまま地面を数回転がり、最後に大きく跳ねた後で俺は止まった。
「い、痛い……」
(無事か? いや、無事だろうな。この程度で死ぬお前ではなかろう)
「おいついに敬称すらなくなったか」
お前とか言われ始めたら俺とリルの関係は本当にわからなくなるじゃないか。
(しかし、空間の僅かな穴を通ってきた魔力だけでお前がここまで飛ばされるとは。やはり、凄まじい威力だな)
「なあ、親しみを込めて言ってるんだよな? 下に見てるわけじゃないんだろう?」
(お前、今度こそ死ぬかもしれないな。ここは精霊とのつながりが一切ない空間だ。精霊空間に行けない以上、蘇生はほぼ不可能だぞ?)
「なあ、いいか? 俺は仮にも主だぞ? なあ、わかってるんだろうな?」
(最悪の場合は我が影武者を発動して何とかするが、できるだけ自身の力で逃げるんだな)
「あ、そうところはしっかりやってくれるのね」
リルのペースに乗せられすぎてはいるが、こいつ自身は俺のことを悪くするつもりはないらしいので心配することはないだろう。
「というか分割思考の使い過ぎで頭が痛いんだが」
(あれだけのことをやったんだ。当然だろう。本来脳が負うべき負担のほとんどを分割思考に割いたとは言え、その分割思考の媒体はお前自身だ。痛みもあるだろうし苦しいだろうな)
「もう少しいたわってくれてもよくないか?」
やはりこいつ、俺のことを何とも思ってないんじゃないんだろうか。
「そ、そんなことは今はいいか。で? 外はどうなってる?」
(ん? 問題ないだろう。ネル嬢が指揮を執り、統率のとれた状態で巨神をいい感じに牽制している。かな嬢も精霊を召喚したようだな)
拳の精霊デストロイヤーと盾の精霊ウォーリアーのことだろうか。確かに巨神を相手にするのなら数が多いほうがいいだろうな。戦線を維持し、戦いを長期化させて数の有利を押し付ける。こちら側は火力で言えば本来十分なのだ。しかし、削りきるにしてもまずは相手の魔力を減らさないと回復されてしまう。そして、それを確実にするためにも各々が節約しながら戦うことでこちらの消費を最低限にしつつ、相手の消耗を待つ持久戦。恐らく、ネルは長年の経験と国を従えるその立場からこの場で最も効率の良い方法を即座に実行したのだろう。
(と、言うわけはだ。我らは当初の計画通りいこうではないか。我が味わった屈辱、あやつで晴らしてやるわ)
なんだろう。リルの顔は見えないのにすごくいやらしい笑みを浮かべている気がする。おかしいな、あいつ狼なのに頭の中だと擬人化されている気がする。
「で、となればだ。リル、もちろん支度はできてるんだろうな」
(もちろんだ。グフフ、ふははははっ)
「え? お前そこまで根に持ってたのか?」
(馬鹿が。強者が弱者に負ける屈辱、お前ごときにわかるか?)
「なあ、お前本当に俺の従者何だろうな!?」
本当に信じられなくなってきた。もしかすると俺を背後から刺そうとしてないだろうな? まあ、そんなことはないだろうとして、リルのほうは支度は終わっているようだ。
「じゃあ行くとするか。分割思考、二十はいけるぞ」
(我の影分身、五十はいけるな。それに、眷属どもは我のスキルをある程度継承させていく。お前の言う何とか調整をどうこうすることもできるだろう。恐らく三百はプラスできるな)
「よし、素晴らしい。リル、今度こそ大きな手柄上げるぞ」
(この雪辱、大いに全力を出して晴らしてやる。クックック)
「やっぱお前悪だな……」
そこそこ長い付き合いになるがリルの情緒は本当によくわからない。
「さて、最初からクライマックスだ」
(神に教えてやろう。試練とは我らが乗り越えるものじゃない。こちらがお前に尽くすに値するか試す者なのだとな)
そんな意気込みと共に、俺は影空間を飛び出した。
「《影空間・改:ファントムワールド》」
リルが影空間を飛び出すと同時に魔法を発動し、天候が曇り空に変わった。日光を遮り、辺りが闇に包まれる。
「司? 何をするつもり?」
俺たちを見つけたソルが駆け寄ってきた。何を、とはつまり雲を生み出したことを言っているのだろう。
「まあ、任せておけって。ソル達は今まで通り持久戦を保っていてくれ。俺たちは別にやりたいことがある」
「ま、あんたがそういうならいいわよ。ネル、聞いたわね」
「はい、なんだかおもしろそうなものが見れそうですし、好きにしていいですよ。それに、ルナの配下を従わせるのは抵抗がありますし」
「ええ。じゃあ、頑張りなさいよ、司」
「おう」
ルナに背中を押された俺は、当初の計画通り作戦を進める。
「大きい奴はその分攻撃を食らいやすくなり、そして小さいやつに対する攻撃は相手が早ければ早いほど当てづらくなる。ならばこそ、数の優位を保ちやすくなり弱くともたくさんの攻撃を行うことができる。そして、何度も攻撃することで得られる絶対的アドバンテージが、俺にはある。それこそ――」
リルに勝った奇跡の一撃。
《起死回生》である。
というわけで、今回こそは司君が活躍してくれるでしょう。
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