実力差
どうもシファニーです。総合pv53000突破ありがとうございます!
第百五十一部、第五章第十二話『実力差』です。どうぞ!
とてもじゃないが天使とは思えない怒りの表情をあらわにした堕天使。彼の全力を、俺は少し甘く見ていたかもしれない。
超広範囲に展開される魔法、そして放たれる数千発の魔力の矢。弾幕の厚さで言ったら今まで戦った誰よりもすごい。それはそうだろう。魔力が満ちた空間で、それも魔力ステータスが五桁に到達している存在が相手なのだ。数と火力で押し込まれるなど予想できることだろう。しかし、こちらには影空間がある。
(これもあまり多用すると対策される可能性があるが、こちらもこちらで決定打はない。しばらく様子見させてもらおう)
「そうだな。にしても、無茶苦茶だな。まさに弾幕ゲーだ」
(ん? なんだ? それは)
「ああ、弾幕を張って戦う戦闘のことかな」
(司殿は変わった言葉を使うことがあるが、どこの言葉だ?)
「一応故郷かな」
などと雑談をしながら時間をつぶし、堕天使がいい感じに魔力を消費するかこちらに背を向けるのを待ち、隙が生まれたところで攻撃を仕掛ける、というのを繰り返してそろそろ十回目だろうか。回数を重ねるごとに堕天使の反応は早くなっているし、できればさっさと仕留めたいがやはりステータス差がある。削りきるには単純計算であと十倍は必要そうだった。しかし、それでもさほど大変なことではない。時間さえかければ倒せる、なら楽なほうだ。
単純すぎるのもどうかと思い、少しだけからめ手を使うことにする。堕天使がこちらに背を向けた。俺は剣を構えて影空間を抜け出し、握っていた剣を投げた。
「そこかッ! なっ!?」
流石に慣れてきたのだろう、こちらに気付いたらしい堕天使が振り返り魔法を発動しようとして、僅かな詠唱時間に被せるようにして投擲された氷の剣をもろに顔面に食らった。さらにアイサファイヤ・ロングソードの特徴である砕けたら大爆発、による魔力爆発もまともに食らいやがった。
こちらに振り向く際、すぐに反撃できるように攻撃を準備していたのはいいが集中力のほとんどを持っていかれる魔法を使ったのが間違いだったな。躱す判断ができずに食らってしまっている。
アイサファイヤ・ロングソードの爆発を含めたダメージは堕天使の生命力の一割近く。かなりの威力があるようだが、それも当然だろう。リルの司水者はただ魔力を水に変えるだけではなく凝縮することもできるのだから。今回は試しに最大限魔力濃度を濃くした水を媒体に作ったアイサファイヤ・ロングソードだったのでこれくらいの威力も当然だと言える。
そして、爆発に巻き込まれ大きく体勢を崩した堕天使に俺は新しく生み出したアイサファイヤ・ロングソードで斬撃を見舞った。それも、先ほどまでより多く。
ステップを踏んで距離をとる。魔力感知と気配察知に分割思考を使い堕天使の次の行動に備える。だから一応反応できた。ソルに迫るとも思える速度で堕天使が距離を詰めたことに。とっさに俺は陽炎を発動し、堕天使が振りかざしてきたどす黒く光り輝く魔力の塊のような剣を躱した。
「今のは、流石に当てたと思ったんだが……っふ、やられすぎて幻覚を見だしたか。それともお前の能力か。どちらでもいいが、次は外さないぞ」
口元に大きく笑みを浮かべて堕天使は言った。俺は自分の口元が引きつるのが分かった。
「こいつ、成長しすぎだろ……」
(まあ、想定内じゃないか?)
俺が思わずつぶやくと、リルが脳内でそう言ってきた。俺も思う、その通りではある、と。
「死ねぇッ!」
またも一瞬で間合いを詰めてきた堕天使の動きは、非常に読みやすかった。喉めがけて剣を突き付けてくる堕天使に対し、俺は軽く体をそらせて攻撃を躱したうえで、下から蹴り上げてバランスを崩させる。堕天使が宙に浮いたところでリルが司水者を使って堕天使の四肢を拘束。すかさず俺がアイサファイヤ・ロングソードをもう一本作り出し、二刀流で切りかかる。もちろん拘束されている堕天使は動けず、またそう簡単にほどける拘束ではない。
まあ、躱そうと思う暇もなかっただろうけど。
空中に縛られた堕天使に向かって軽く跳躍し、剣を振るう。
「《ダブル・ハードストライク》」
ズンッ――
剣が堕天使の体を切り裂くと同時、重く響きのある音が鳴る。斜めにクロスするように胸元を切り裂かれた堕天使は、思わずといった感じで声を上げた。
「うあああああっ!?」
それはまるで子供のような悲鳴で、情けないと思うと同時にこいつはそういえば生まれて間もないんだったなと思う。ただ、試練用に生み出され、俺たちに攻撃を仕掛けてきたのだからやられるのも許してほしいところだ。
剣を完全に振り切る前に両方を逆手に持ち直し、体が下に落ちる勢いそのまま剣先を堕天使の方に突き立てる。根元までしっかりと突き刺さった剣は貫通したところで先端が割れ、堕天使の背中で歪に砕けた。鋭く枝分かれした氷の剣は僅かに膨張し、光を放つ。
「ま、て……絶対、許さな――ッ!」
掠れたような声でそう言った堕天使。俺は地面に着地したそのまま堕天使に背を向けて歩き出し、すでにそれなりの距離が開いていた。これなら巻き込まれることはないだろう。
右手の親指と中指を合わせ、中指を手のひらに勢いよく当てて音を立てる。それと同時に俺と堕天使を覆っていた氷のドームは砕けた。散り散りになった氷は水に変換され、一点に集結する。それぞれの破片が槍のような形状に変わり、堕天使の体を貫く。そして――
「うああああああああっ!? 死にたく――ッ!?」
――悲壮な叫びと共に、全身を貫かれた堕天使は爆ぜた。俺はリルが空気中の魔力を変換して作った水を凍らせ、その上に着地してその光景を見ていた。
「どうだ、リル。こっちのほうが花火っぽいだろ」
(はははっ、そうだな。しかし、司殿も容赦もなしとは、成長したな)
「まったく誰のせいだか」
以前、かなに言われた言葉を思い出す。
もしかしたら俺は、戦うことに楽しさを見出してしまっているのかもしれない。
皆さんに言わなければいけないことがあります。それでも司君は強くありません()
そんな冗談はさておき恐らくこの作品も後半戦。これからもよろしくお願いします!
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