堕天使
お久しぶりの更新です。
第百五十部、第五章第十一話『堕天使』です。どうぞ!
堕天使を捉えた。俺と堕天使を大きく囲うように作られた氷のドームは、並大抵の攻撃では壊すことなどできない。
もし、確実に勝つことを狙うのならばこれは必要のないことだろう。ソル達の手を借りるのが一番だから。しかし、俺たちの目的はどちらかというと長時間この堕天使を拘束することにある。こいつが指揮を執っていると思われる以上、こいつがいないだけで天使たちの統率力は下がり、戦力としても大幅に減少するはずだからだ。倒せるならさっさと倒し、無理そうなら時間を稼ぐ。その間に他の天使を仕留めてもらおう、というわけだ。
まあ、実際はさっさとソルやネルに倒してもらったほうが効率はいい。だが、俺たちの活躍が本当になくなってしまうので手柄のために先手を打った、というところである。
「なるほどな。つまり私はお前らの手柄になるための駒だと?」
「捉え方によってはそうなるだろうな。まあ、悪くは思うな」
そして、俺は時間稼ぎもかねて考えていたことを堕天使に話した。この話を聞いて怒ってくれれば戦いやすくなるしな。
「ふっふっふ、私も舐められたものだ。たかが超人程度にここまで言われるとはな。いや? お前が私のような堕天使に対する理解がないだけか」
すでに堕天使に施された司水者による拘束は解かれている。こちらから解いたわけではなく解いても問題ないと判断して緩めていたところを、堕天使が自分で抜け出したのだ。だから彼は勘違いしているのだろう。俺たちの力が大したことない、などと。
他の天使たちとは違い服装は黒、髪の色も金ではなく銀。羽は黒、態度は図々しく上から目線ということもわかっている。
そんなことよりも重要なのは彼のステータスだろう。すべての数字が五桁を超えており、もちろん俺たちよりも強い。それでも、俺たちは勝算があると思って挑んだわけだが。
(この堕天使は確かにステータスが高くスキルも優秀だ。しかし、我の司水者で簡単に拘束された時点で実力が大したことないのは明白だろう。やはり、所詮は生み出されたばかりの赤ん坊ということだ)
これがリルの意見であり、俺も賛同した。さっきの言葉を聞いてもそうだが、この堕天使は力こそあるが知恵も経験もないようだ。俺のことを超人と呼んだり、俺が堕天使を理解していないだなんて言っている。正直に言おう、こいつは相手にならない。もちろん、勝つのは俺たちだ。
「じゃあ、早速戦うか。無駄な戦闘は避けたいが、神に与えられた試練だしな。まじめにやってやるとしよう」
「ほう、大口をたたくものだ。いいだろう、この俺がまずは壁となろうではないか」
笑止千万、とか、リルならいいそうだ。堕天使は得物の弓を構え、高らかに宣言した。
そんな堕天使に向かって一歩、踏み込む。距離はぐんと縮まる。すぐに堕天使の目前だ。懐に潜り込み、剣をふるう。堕天使の目は、見開かれていた。肉を切る、という感覚ではない。確かに実体はあったが、感触としては薄すぎる。しかし、剣が入ったことには変わりないようだ。堕天使はわき腹を押さえて膝をつく。
「嘘、だ。超人がこんな動き、できるわけ……」
顔をしかめ、苦しそうな表情でこちらを見る堕天使。まだ勘違いしているということは、わざわざ教えてやらなくてもいいだろう。しかしステータス差が歴然だ。ダメージはそこまで通っていない。それでもこんな攻撃が何度でも通るのならまず間違いなくこちらが勝つ。今の攻撃がスキルでもなんでもない技術であり、また、体力をさほど消耗しない技だからだ。
まあ、堕天使がいくら素人でも何度か攻撃すれば反応してくるだろう。だから、たまに織り交ぜるくらいにするかな。
「貴様、何をしたッ!」
「攻撃だ。見てわからなかったか? それとも見えなかったか?」
「な、何だとっ!?」
そして、早速怒り出した。見るからに冷静さを失っている。
まあそれでも力ある存在だ。立ち上がり、闘志を固めた瞳でこちらをにらみつける。
堕天使は瞬時にバックステップ、距離を取って弓を引き、すぐさま矢を放つ。手元に矢はなかったはずだが、魔力で生成したのだろう。そして、その矢は五つに分裂した。連続してこちらに向かってくる、が、躱しやすいな。追跡機能でもついているのか正確に俺のいる位置に向かって矢は飛んでくる。それが逆に躱しやすいと奴は分かっていないようだ。
影空間。
俺は空間に空いた穴に入り込み移動を開始する。魔力の塊と思われる矢は俺がいた場所で四散した。魔力感知で改めて確認してみると、どうやら魔術・神聖によって生成されたものらしい。聖気の塊であるため触れたら多少はダメージを負いそうだ。回避に専念すればいいだろう。
堕天使の背後に移動し、飛び出して魔法を発動する。
「《アイシクルメテオ》」
分割思考を活用した、三弾連続発動である。俺が堕天使に向かうのとほぼ同速で迫る。天使は気配に気づいてこちらに振り返り、魔法を見て回避行動をとる。バランスが崩れたところにすかさず飛び込み、連撃を叩き込む。
「《アイシクルアロー》」
(《ダークネスアロー》)
「《ファントムストライク》」
「《アイシクルランス》」
リルと合わせて四連続発動だ。魔術・影も合わせて発動し何がより多くのダメージを与えられるか見る。
至近距離で魔法を発動された堕天使は、バランスが崩れたのもあってすべてをまともに食らう。どうやら魔術・氷のほうがダメージは通るようだ。そんな確認を分割思考の一つを使って瞬時に行い、そのあとで剣術、デュアルスラッシュを使って斬撃を見舞う。
猛攻を仕掛けても全体の一割。回復されることも考えればこのルーティンを二十回は行う必要がある。その間に、堕天使が成長しないことを祈るばかりだ。
近接戦闘では相手が何をしてくるか、まったく情報がないのでいったん距離を取り様子を見る。しかし堕天使は怒りの表情を浮かべるだけで、何か仕掛けてくる様子もない。いや、ただ直情的に矢を連射してはいるが、脅威にはならないというだけか。
「お前は、何があってもこの私が殺す! この私を侮辱した罪、受けるがいいッ!」
どうしてあいつが堕天使となったか、わかったような気がしたのだった。
今回で百五十部目となりましたが、振り返ってみるとかなりの量を書いている気がします。正直この作品は後半分くらいあるんじゃないかなぁ、と思ているので全部かけるか不安ですらあります。どちらにしても二百部は超えるでしょうし、そんなに書けたら達成感がすごいと思うのでこれからも頑張ります!
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