それは遥か昔の物語Ⅱ
というわけで更新ですが、今回のお話は少し短くなっています。それでも楽しんでいただければ幸いです!
第百十六部、第四章第十六話『それは遥か昔の物語Ⅱ』です。どうぞ!
「エルダードラゴンが出現しました」
「ついに来た、か。仕方がないかの。ネル、あとどれくらい必要かの?」
「なりふり構わなくていいのなら、あと三日です。ソルの体調はどうですか?」
「問題ないわ。あと三日くらい私とルナで抑えて見せるわよ」
「そういうことかの。では、持ち場に移動するかの」
「うん」
「お願いします」
ユグドラシルの木の上で、三人の少女が真剣な表情で話をしていた。
銀髪犬耳少女、黒髪猫耳少女、金髪狐耳少女の三人だ。しかし漂わせる雰囲気はいつになく重々しい。エルダードラゴン、彼女たちがあいつと揶揄しているその存在に原因があった。
エルダードラゴンとは始祖竜のことだ。この世界に召喚された原初の七魔獣は三人が魔獣、三人が竜、そしてもう一匹がドラゴンである、とされているが実際はそうではない。そもそもエルダードラゴンと呼ばれる始祖竜は、その名の通り竜なのだ。それがなぜドラゴンと呼ばれるようになったのか。その話をすると長くなるのでこの場では省略するが、そもそもは他の三体の竜と変わらぬほどの実力しかもっていなかったのだ。それが突如として巨大な力を持ち、突然変異を起こしてドラゴンへと変化した、というのが正しい。
そんなエルダードラゴンがここ数年間にわたる彼女たちの悩みの種であり、諸悪の根源であった。突然力を手に入れ、他の原初の七魔獣たちを追い回すようになった厄介な存在。力に支配された、残虐の死竜である。
「まったく、情けない話よね。同僚が悪魔に殺されて死せる化け物になり果てたことも、私たちがそれに勝てずにいることも。原初の七魔獣が聞いて呆れるわ」
「その通りかの。まあ、それも仕方のないことかの。悪魔の大群、デモンパレードの波に抑えられ、飛ぶことすらままならず蹂躙され。その負の感情に当てられて死せる竜として再び活動を開始しした。自分で仇は取れたらしいとは言え、怒りは消えなかったようかの。世界中を回って強者という強者を襲って回っている現状かの」
「始祖竜としての本当に恐ろしい能力はすべての能力に適性があるということ。敵を倒したら倒した分だけどんどんと強くなるし、純粋にレベルも上がる。スキルも潤沢、素のステータスが圧倒的に高く狡猾。もう文句の付け所がない強さですからね」
「「「……はぁ……」」」
三人分のため息が重なり、ユグドラシルから零れ落ちる。
「まあ、色々言っても仕方ないわ。で? あいつはどこに出たの?」
「世界樹南の大草原です。あそこにあった亜人の集落はほとんど壊滅状態でした。……私が、助けてあげられれば良かったのですが」
「そう気を落とすことはないかの。あいつ相手に何かを守りながら戦うなど到底不可能かの。亜人たちだって自分の身を守れなかったことを悔いこそすれど、ネルを恨むことなどまずありえないかの」
「そうね。亜人の集落はまだ残っている。それに、あっちの集落の長は確かクイーンエルフよ? 私たちに匹敵するくらいの長命個体である彼女ならば何の問題もなく子孫を繫栄させられるでしょう?」
「それもそうですね。私も今は私のために頑張ります」
「妾も自身のために」
「もちろん私もよ。じゃ、始めましょうか」
「「はい!(うむ)」」
金髪狐耳少女の言葉を皮切りに、三人は散り散りになりそれぞれの持ち場に向かう。全ては自分たちのために。そして、これから世界で起こる出来事を見守るために。
原初の七魔獣が生み出された本当の理由は、この世界の管理だった。七体の拮抗した力を持つ魔獣たちがそれぞれ世界のバランスを調整するために派遣されたのだ。その均衡を最初に破ったのが始祖竜エルダードラゴン。そして、次に崩壊への一歩を進めたのは間違いなくこの少女。
「よし、頑張っちゃうわよ!」
少女は高らかに宣言すると、腕を天高く掲げた。
遥か昔の物語はもう少し続きます。
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