本当の大切
もう前書きのネタが尽きました。どうもシファニーです。これをネタにし始めたらいよいよ本当にやばい、と思いながらもこの場を切り抜けるための苦肉の策として使ってしまいます。……次回からどうしようか。
第百十三部、第四章第十三話『本当の大切』です。どうぞ!
なんでだろう。俺はかなに感動させられている。別に、かなにそんな技術があるわけがない、なんて話ではない。冷徹者を抱える俺は、感動で涙を流すなんてことはできないと、勝手に決めつけていたから。かなに言われて、確かに思考の片隅に自分がどうなってもいいって想いがあることに気づいた。
それを俺が抱えることでかなが心配に襲われて、悲しい思いをして、苦しんで涙さえ流すというのなら俺のこの努力の方向性は間違っていたことになる。それを否定したい思いもある。かなも大切だが、リリアのために身をなげうつ決心を曲げるわけにはいかない。何を大切にしていいのかわからない今の俺は、本当の冷徹者になれているのだろうか。
否、ただただ優柔不断だ一般人でしかない。〝本当に大切"なもののために何を投げだしてでもそれのために行動するはずの冷徹者だ。俺はそんな人間であるはず、いや、なれたはずだった。なりたいはずだった。〝本当の大切"に気づけなかった俺はそれにならなければいけないはずなんだ。なのに、どうして――
「どうして俺は、泣いているんだろうな」
思わず笑みが零れる。冷笑的で、滑稽で、惨めな。そんな存在に向ける笑み。自分をあざ笑うが如く歪んだ顔は、涙のせいでただただ悲しい表情に変わっていた。本当は笑いたいのに笑えない、そんな悲しい少年のような表情に。
そんな張り付いた苦し紛れの笑みが、かなにどう捕らえられたのは分からないけれど。ゆっくりと近づいてきたその小さい体に抱き着かれて、脱力した。思わず膝から崩れ落ちた俺は、頭ごと抱えられるようにかなに抱きしめられた。その小さいながらも柔らかく、甘い匂いのする体に包まれるうちに涙は堪えられないものになっていた。崩壊したダムのように、ぼろぼろと零れ落ちる涙は荒れ果てた土にあっと言う間に吸われていくけれど、一考に収まる気配はなかった。
(司はきっと、自分に厳しくなっちゃったの。自分を抑えつけるほどに。だから自分が苦しいことにも気づけなかった。しょうがない、仕方がないことだから……。でも、司も誰かのために頑張りたいんだもんね。きっと、それも仕方のないことだから。今だけは甘えていいよ、泣いていいよ。かなは司のためになりたいから、司に頼ってもらいたいから。辛かったら助けるし、協力するって約束するから。かなとも約束して、無理はしないって。また、大切な人が死ぬなんて耐えられないよ。考えないようにしてたはずなのに、泣いちゃったもん。仕方のないことなんだっていくら言われても、自分を抑え込もうとしても、かなは司が傷ついたら悲しい。ちょっとだけ我慢してたけど、我慢できたのはちょっとだけだった。司がかなを大切にしてくれるなら、もうちょっと自分に優しくなって)
かな史上最も長文だったのではないだろうか。それだけ、強く大きな想いが籠っているのだろう。それが全部、俺のことを想った言葉だと考えるとそれだけで喜びが溢れそうだった。きっと、かなにとっての大切は昔っから俺、それともう一人。だから、かなにとって今一番大切なのは俺なんだ。だから俺以上に俺の体を大切に思ってくれていて、心配してくれていて。
自然と零れた言葉は――
(かな、ありがとうな)
(いいよ。かなは、司のすべてを受け入れる)
優しい抱擁と言葉に挟まれて、俺の心は苦しい位に幸せで満たされていた。ここ最近、感じられていなかった、愛情というやつだろう。向けられていたとしても気付けなかった、冷徹者としては不要な感情。俺に今、最も必要なものだった。
俺は今、完全に猫耳少女に絆されていた。面倒を見なくてはいけないと思っていたちび猫が、今じゃあ俺を慰める側だ。世の中、何が起こるか分かったものじゃないな。世間は狭い、とでもいうのだろうか。それがどうしようもなく嬉しく感じたのもまた、おかしなことなのだろうか。
いや、この感情は間違っていない。おかしくなんてない、素直な気持ちだ。冷徹者に惑わされない、俺だけの、俺の感情。忘れてはいけない、大切なものだ。
(これからもよろしくな、かな)
(うん。……ずっとかなを頼ってね、司)
それからしばらくの間、かなに包まれていた。至福の時間は、誰に邪魔をされることもなく、二人だけの空間にいるかのように、続いていた。
後書きのネタもありません。誰か助けてください。助けてくださいと言えば、近頃私の住んでいる地域で小説家による、小説書くための講座的なものが開かれるらしいのですが、どうやら学園祭と日程が被っているらしく、応募できませんでした。張り紙出してたの、学校なのにね。クソ☆
行きたかったというのに、私の純情をもてあそぶなんて酷い!
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