#140文字小説:ヴァイオリンの恋人/ネトゲの恋人:愛の形が変わっても/妻の秘密/信号機から君と見上げる月
「ヴァイオリンの恋人」
――私、ヴァイオリンが恋人なの。
そう言って、ヴァイオリンを弾く君に思う。
たとえ、それが浮気だとしても、僕は君のヴァイオリンを弾く姿を見ていたい。
〆
「愛の形が変わっても」
――私、ネトゲが恋人なの
その唐突な告白があまりにも悔しくて、俺は隣の部屋でPCを組み立て始めた
三ヶ月後、夫婦仲はすっかり冷め、いつしか手も握らなくなっていた
突き出された離婚届
「私、付き合ってる人がいるの」
「それ、俺だぞ」
「え?」
「俺はあの日からも変わらずお前を愛してる」
〆
「妻の秘密」
お互いの両親が決めた結婚だった
とても綺麗だった彼女は、俺とは不釣合いに思えた
三十年経っても、ろくに好きともいえず
何よりこわくてずっと聞けなかった
「なぁ……本当に、俺でよかったのか?」
時を経ても、彼女の笑顔は綺麗だった
「ふふ、何言ってんの……本当は私からお願いしたの」
〆
「信号機から君と見上げる月」
月が綺麗ですね
帰り道の信号で、隣に並んだ君が言った
その日までは顔見知り、話した事は一度もなかった
深い意味は無いと、はにかんで言う君が印象的だった
次の月、同じ場所で、同じ言葉を僕が言った
今度の言葉には、深い意味が込められていた
はにかんだ笑顔の君がうなづく
月が綺麗ですね