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『第九話』 医学

 

 長かった一日が終わり、次の日が来る。

 昨日は夜も遅く、シラスの診療所の病室に泊まり、そのまま一日を明けて、その日が休みだったのが良かったのか、ミコトは顔を洗い、朝の支度をして、出て行こうとしたところを呼びかけられた。


 「おはようございます」


 ミコトは早朝の挨拶と共に出勤してきた、シラスの助手のミキという若い女性だった。

 白衣を着ており、朝は忙しかったのか少し髪がぼさぼさで、どことなく少し抜けた感じのする女性だった。

 ミコトも一目見て、遅れたのか挨拶をして、その後に声を掛けられた。


 「貴方は先生の患者ですか…?」


 どうやら、ミコトの事をシラスの患者だと思われているらしい。


 「……いいえ、僕は違いますよ。 それよりミキさんは先生の助手なんですよね…… どうですかシラス先生の評判は?」


 ミコトは、本や文献ではシラスの評判などは、警察の資料で見ているが実際に彼と仕事等をしたことがないので、助手に評判を聞いてみることにした。


 「……それは先生はすごいですよ。先生の評判を聞いて、サイボーグ手術やアンドロイドの手術をしてくれだの、もう大反響です‼」


 シラスの助手であるミキは、顔を近づけていかに、彼がすごいのかを自慢した。


 「今日も先生には予約がいっぱい入ってて朝から、大変なんですよ‼」


 「ミキ‼ いつまで油を売っておる!! さっさと今日来る患者の予約を確認して、カルテを整理せんか‼ 患者は待ってくれんぞ!!」


 声高にミキは言い、その話しを聞いてたのかシラスは年寄りとは思えない声を出して、早く仕事をするようにと促した。


 「はーい。すみません」


 ミキは足をバタバタとさせてシラスの方に向かって行った。


 「……僕も帰るか、外でエマさんたちが待っているし」


 ミコトはいつまでもエマを待たせているわけにはいかないと、踵を返して、シラスの診療所から出ようとした。


 「……待たんか、誰が帰っていいと言った」


 首を引っ張られるように、診察室から紳士杖が出てきてミコトの首に引っかかった。


 「…ゲホッ…何するんですか」

 「エマから聞いたが、貴様は今日は暇人じゃそうじゃな。ちょうどええ……ワシの仕事を手伝っていかんか」

 「……何で僕が、貴方の仕事を手伝わなくちゃいけないんですか? それに外でエマさんを待たせてあるんですけど…」

 「ふん。貴様の都合などは知ったことないわ。ワシが手伝えと言ったら手伝わんかい…それにエマには、今日は小僧はワシの手伝いをするから、帰ってこれんと伝えといたわい」


 シラスは窓から、ミコトに外の様子を覗いてみるように首を向けて外の様子を見ると、エマが車の窓から手を振りながら去っていった。


 「…そんな…エマさん」

 ミコトは崩れ落ちるように、うなだれた。


 「……うなだれておる暇はないぞ、小僧……それに小僧もワシの事を探りたかったんじゃろ。丁度いいではないか」


 紳士杖を手にカツカツと待合室の床を叩きながら、ミコトの企みなど見抜いているとシラスは髭を触る。


 「……はあ」

 (……めんどくさいことになったな、せっかくの休みなのに…)


 ミコトは心の中で、10回ほどのため息を吐いてから、意識を切り替えて、シラスの仕事を手伝うことにした。


 「……それと先生一応聞きますが、医者の免許がない人が、医療行為をしたら犯罪だって知ってますよね」

 「…ああ知っておるとも、だからなんじゃ、貴様が豚箱にぶち込まれたら、ぶち込まれたで、孫娘に群がる、悪い虫がいなくなったぐらいにしか思わんが」


 「…くそジジイが…」


 ミコトは、誰にも聞こえないように呟くと、聞いてたのかシラスは側頭部に杖の一撃を食らって少し悶絶していた。


 「…聞こえておるぞ、小僧が」


 頭を押さえながらミコトは、シラスを睨み。


 「分かりましたよ。手伝えばいいんでしょ、手伝えば……」


  ミコト、もう諦めのたのか少し投げやり気味だった。


 「…うじうじと五月蠅い、小僧じゃな、グチグチいっとらんでさっさと手伝わんか」


  傍若無人の態度でミコトは、杖で押されながら診察室まで案内された。

 今までのやり取りを見ていたのか、シラスの助手のミキはミコトを哀れと思ったのか、笑いながら彼の肩を叩いた。


 「…散々でしたね。ミコトさん、先生はいつもあんな感じですから、今のうちになれといた方がいいですよ」

 ミキは慣れているのか、カルテをまとめていた。


「…僕は慣れそうにないですよ」


 シラスとミコトとミキのやり取りをしている間にも、時間は過ぎていき、いつの間にか診療所が開く時間になっていた。


 「…はい。お薬とカードのお返しになりますね」

 「ありがとう。お兄ちゃん」


 ミコトは手を振りながら、外来に来た子連れの患者が帰っていくのを見ていると。


 「先生‼ 俺にもサイボーグの体をくれー‼」


 「…またか」


 ミコトは今日何回目になるか分からない、診療所のドアを開けてイノシシの様に突進してくる屈強な男に心底嫌そうな顔をすると。


 「ご用件はなんでしょうか?」

 「おう、機械の体が欲しいんだ。何が起こっても壊れないような機械の体をな‼」

 「あいにくと、当院は、健康な方にはサイボーグ手術、アンドロイド手術は一切行なっていませんのでお引き取りをお願いします」

 「うるせえ‼ 手前には聞いてねえんだよガキ‼ 俺はシラス先生に用があってきたんだよ」


 もう何度したか分からないやり取りをミコトはして、自身の顔面に唾が飛ぶのを他人事の様に第三者の目で見ていた。


 「手前に言っても、拉致があかねえ‼ このまま奥まで入らせてもらうぜ」


 筋肉質の男はミコトの静止を無視して、奥の診察室まで入って行こうとするのだが、ミコトに手を握られて止められていた。


 「テメエ‼ 離しやがれ‼」

 「すみませんが、ここは病院ですので、健康な方はお帰り願います」


 ミコトは屈強な男の首を子猫の様に持ち上げると、外に放り出した。


 「このガキ‼ 何しやがる!! 俺は先生に機械の体にしてもらいに―――」


 放り出した男は十秒も経たないうちに戻ってきて何かを言おうとしたが、男が何かを言う前に、ミコトは男の鳩尾に一撃をかました。


 「…ふう」


 ミコトは首根っこを掴んで帰ってくれない人には、これで帰ってもらうことにしていた。

 外に置いてある男を連れてきたであろう車の元まで行き。


 「この人を、ここから一番遠い場所までお願いします」


 ミコトはこれでもう戻ってこれないだろうと、腹黒いと言われようが、こうしないとまた来たりするのだから、たまったのもではない。


 「……ミコトさん、さっきのゴリラはどうなりましたか?」


 昼の部の最後の診察が終わったのか、ミキが出てきて、ミコトに様子を伺った。


 「……病院を間違えたのか、どこか遠くまで行きましたよ」

 「はあ、良かった。普段は私と先生で、ああいう輩を追い返さないといけないんですよね…」


 普段から、彼女も相当苦労しているのだろうか、ミキから出るため息には哀愁が漂っていた。


 「それよりも、ミコトさんは、その年齢で警察官なんですってね立派ですね!!」

 「ありがとうございます」

 「これ、いつまでも油を売っておる小僧……さっさと昼飯の支度をせんか」

 「ご飯の支度も僕の仕事なんですね」

 「……ミコトさん、あんまり自虐にならないでください。私も手伝いますから」

 「ありがとうございます」

 「飯を食べたら、夕方から次の患者が来るからな、覚悟しておくがいいわい」


 シラスの容赦のない言葉を聞いて、ミコトはまた、あの屈強な男たちを追い返さないといけないのかと2~3時間前の記憶を思い返す。


 「……1日であの人たちは何人ぐらい来るんですか?」

 「ふむ、数えたことはないが、100いくかいかないくらいじゃないかのう」

 「100‼ こんな【小さい診療所】になんでそんなに来るんですか‼」


 パカッ!!

 ミキは鋭い音がした方を振り向くと、頭を押さえていたそうにしているミコトを見て笑いをこらえていた。。


 「小さいは余計じゃ、なんでかと……そうじゃな。ワシがサイボーグやアンドロイドの手術を無許可で老人や子供に施したからじゃろうな」


 「…それをどこかで知ったのか分からんが、噂を聞いたハイエナどもが、嗅ぎ付けてきたというわけじゃな」

 シラスは髭を触りながら、事の顛末を語った。


 「……先生が原因じゃないですか」


 ミコトは呆れた。


 「……ふん、ワシはミスラのやり方が気に食わなかっただけじゃ……本来サイボーグやアンドロイドは障害者や機能不全に陥った子供を普通の暮らしが出来るように始まったのものじゃ」

 「……それが今じゃ、サイボーグやアンドロイドと如何に優れた人種を作るかに変わっておる……そして、優生思想になりかわり新しい人種差別になり替わっておる」

 「……更に不憫な事に、そのおかげで本来救助が必要な障碍者や機能不全の子供には全く行き届いていないのが現状じゃ…何故ならば―――」


 「……アンドロイドやサイボーグの手術は殆どミスラが独占していて、莫大な金がかかり、一部の特権階級のみにしか行き渡っていないからですよね」


 シラスが伝えたかったのを、ミキが引き継いだ。


 「なんじゃ…ミキ。ワシの言葉を遮りおって…」

 「それだけ、毎日、聞かされれば覚えますよ、私がここにきて何年経っていると思っているんですか」


 もう聞き飽きましたとミキはミコトの方に歩み寄る。


 「それでは、ミコトさん。年寄りは放っておいて私と一緒にご飯を作りましょう」

 「……全く、医学の医の字も知らん小娘が、立派になったもんじゃ」

 「これでも、先生に揉まれましたからね」

 「3年経っても、立派に並んでいたら、さすがのワシも匙を投げておったわい」

 これがいつものシラスとミキのやり取りなのだろう、お互いに手慣れた感じだった。

 「それでは、ミコトさん夜もお願いしますね。私は先生のお世話をしなきゃいけませんから」

 「こりゃ‼ 聞こえておるぞミキ‼」


 ミコトはミキと一緒に楽しく昼飯を食べた後も、夜に来た男たちにお帰りを願っていて、全ての診察を終えてようやく解放された。

 ―――

 ――――――

 「……はあ、疲れたなあ…何で僕、休みの日も働いているんだろう」

 夜道を歩きながらの帰り道でミコトは、ブツブツと自分に言い聞かせていると。


 「…それはお前が坊―――『ちょっそのセリフはまずいです』」


 ミコトは得体のしれない悪寒に襲われて、何処からか聞こえた言葉を遮り辺りを見渡すが、誰もいなく、また人の気配もしなかった。


 (…何処だ…何処にいる…光学迷彩かそれとも…)

 「…何処を見ている、目の前におるではないか」


 ミコトは周囲を見渡すが、人はいなく代わりに一匹の猫がいるだけだった。


 「……変わった猫だな」


 ミコトと目があった猫は、首輪の代わりに小さいネクタイをしており、グラサンをしていた―――どうやら疲れているのだろう、見間違いのような気がした。


 (…こき使われすぎたのかな…何か変なものが見える)


 目をゴシゴシとこすり、目の前の猫が喋他ような気がして、もう一度見直す。

 「……ミコトよ、父の顔を忘れたのか?」

 「…猫が喋ったあ!!?」

 どれだけ疲れていても、ミコトの夜は終わらなかった…

 今度はグラサンとネクタイをした猫だった。

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