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「第八話」 人間

 「こら、女の子の寝顔を覗くなんて良くないぞ」


 エマは起きてミコトと目が合うと、起きてからの第一声と共にコツンとミコトの額を叩く。


 「…すみません。ちょっと見とれてしまって」


 額を抑えながら、ミコトハ謝る。


 「……うふふふふ。別にいいよ」


  エマは鈴みたいに笑い、口元に手を当ててから、ベッドから体を起こして起き上がった。


 「ああ、エマさん。まだゆっくりしてた方が―――」


 エマが起き上がり、ミコトはゆっくりさせようとしたがすでに遅かった。


 「うーん、多分大丈夫」


 若干他人事みたいにエマは言い、若干髪を直してから靴を履いて傍で見守っていてた、ミコトの手を握り。


 「それじゃあ、外に散歩に行こ」


 今まで体調が悪くて寝てたとも思えぬ、足取りだった。

 ミコトは言われるがままに、エマに手を繋がれて、病室から抜け出して外に出る。

 ミコトは手を引かれるときに、ちらりと横眼でヒカルを見るも、気持ちよさそうに寝ているようで特に問題はないと判断した。 

 それよりもミコトが気になったのが、彼女の手のひらから伝わってくる女性特有の柔らかい感触だった。

 年甲斐の男という事も考慮してかミコトはそれだけで体温が上昇しそうになった。


 「…あのどこまで行くんですか?」


 ミコトはエマに手を引かれるがままに付いていき、尋ねた。


 「うーん? 海が見えるところまで行こうとか思ってる。あそこから見える海の景色が好きなんだ私」


 エマはミコトに振り返って、微笑むと暗がりの中の水平線を指した。

 そこには何処までも広がる水平線と、雲の間から見える月明りが、幻想的に海を照らしていた。

 

 「……夜の海って幻想的ですね……」


 ミコトも水平線の海に反射している月を見て、呟いてしまった。

 「ふふーん。いいでしょ」


 エマはどうだと言わんばかりに胸を張り、海の近くの砂浜までミコトの手を引いて、歩いていく。


 「…私、落ち込んでるときとか、不安になった時に良くここにくるんだ」

 「…エマさんも、落ち込むんですか?」


 ミコトは手を繋ないでいる、頭の上に向日葵かタンポポでも咲いたような性格をしたエマでも落ち込むような事があるのかと訝し気に、彼女の表情を見る。


 「…なんか、今ちょっと私の事馬鹿にした気がする……」


 ミコトは図星だったのか、それとなく心の中を覗かれてエマとの手を離し。

 「そんなことないですよ……」


 両手を開いて、胸のあたりで交差させて動かし無実を証明していた。

 「ふーん、怪しいな~」


 エマは片方の手を腰に当てて、猜疑に瞳を揺るがせる。


 「まあ、いいか……それよりも月が綺麗だと思わない…知ってる昔の人は愛してるを【月が綺麗ですね】って言ってたんだよ。ロマンチストだよね」


 海辺の砂浜を散歩しながら、金色の髪を靡かせて、彼女は踊る。


 「それなら、僕はこう返した方がいいですかね【月はずっと綺麗でしたよ】って」


 ミコトは軽い文学なら知っているのか、意味合い的には【ずっとあなたが好きでした】という意味になる。


 「ミコト君も知ってるんだね。意外と頭デッカチだと思ってたけど、文学少年だったりして」

 「……エマさんは、僕の事どう思っていたんですか…」


 ミコトは呆れ気味に肩の力を抜いてから、彼女の調子がどうなのか尋ねた。


 「……そういえば、頭の方は大丈夫なんですか?」

 「私が馬鹿みたいに聞こえるんだけど……」

 「そういうわけじゃなくてですね……」


 エマは心配しているミコトに対して、いくら何でも酷いと思ったのか。


 「あははは‼ ごめんごめん。からかったつもりはないんだけどね……それで頭の事だったよね」

 「……どう説明したらいいのかな」


 ミコトはエマが悩んでおり言いづらそうにしているのを感じたのか、彼女を元気づけるように。


 「何か言いたくない事でもあるんですか、でも大丈夫ですよ。これでも上層部には顔が利くんです」


 ミコトは任せてくれと自分の胸を叩く。

 そんなミコトにエマは笑い、上を見て月を眺める。


 「…知ってるミコト君。AIのロボットの感情は太陽の光を反射する月のようだと言われていて人間とあまり変わりないんだって」

 「…それがエマさんに何か関係あるんですか、エマさんは何処からどう見ても、完全な人間だと思いますけど…」


 ミコトは食事も食べるし、サイボーグのような機械っぽさもアンドロイドみたいに拒絶反応もなく完璧な人間にエマは見えたが―――彼女は違うというように首を振り。


 「……ううん。違うの私のはそういうのじゃないの…」


 「…だったら―――『ミコト君…もし明日か明後日かいつ死ぬか分からないって言われたらどうする?』


 ミコトはだったら何かと聞こうとしたが、エマに遮られてしまった。


 「…それはエマさんにも関係する事ですか?」


 ミコトは突然の質問に、彼女の意図が分からなくなり、逆に答えを聞き返した。


 「…うん。関係ある。だから答えてほしい。ミコト君だったらどうするのか?」


 エマの発言に大してミコトは逡巡し答えた。


 「…僕が世話になった人に挨拶をして……その後にやりたいことをしますかね」


 「……ミコト君のやりたい事って?」


 「…僕は体が半分機械で出来ていますけど、一人の人間として後悔のないように笑って生きていきたいと思っています」


 ミコトは嘘偽りなく、本心で答えた。青臭いと言われるかもしれないが、このような生き方しかできないだろう、笑いたければ笑えと思った。


 「……ミコト君は立派だね……それに比べたら私はやりたいことをやって生きていけたらって感じかな」


 エマは自分を卑下するが、ミコトは被りを振って否定した。


 「…それは違いますよ……やりたい事があるだけで立派だと僕は思います。世の中にはやりたい事すら分からずに一生を終える人もいますし、やりたい事を探して一生を終える人もいます。それに比べたら、やりたい事があるのは素敵じゃないですか」


 ミコトはエマを元気づけるように言った後に、彼女と目線を合わせてニコっと笑う。


 「…そっかありがとう…ミコト君なら言ってもいいかな……実は私ね、完全な人間じゃないんだ」

 エマはミコトに告白した。


 「……それは、この世界の全ての人々がそうだと思いますよ…僕だって体の半分が機械ですし」


 「…ううん、違うの私はね…脳が機械で出来ているの…正確には人工脳って言うのかな…脳がそれで出来てるんだって、おじいちゃんが言ってた」


 ミコトはエマの言葉を理解するまで、何秒かの時間を要して口を開いた。


 「……そんなことあるはずが…ない…だって人口脳はまだ完成してないんじゃ‼」


 ミコトは声を荒げて聞こえなかったと言いたかった―――だってそれを聞いたら自分は目の前の人を……連れて行かなきゃならない。


 「ミコト君にこれを言ったら、私はどうなるのかなとか考えたんだけどね…でもね私の脳は人口脳で出来ていて、いつ拒絶反応が起きるか分からないの」


 エマもミコトに言えばどうなるか分からないほど愚かではない。

 「…今日倒れたのも、それが原因ですか?」


 ミコトの閉じた口から出たのは、そんな当たり前の問いかけだった。


 「…うん…ここ4~5年の間はないから私も安心してたんだけどね」


 エマは自嘲気味に笑うが、その笑みは儚げで、すぐに消えてしまいそうな気がした。

 「…いつからなんですか?」


  ミコトはいつからエマに人口の脳かと聞いた。


 「赤ちゃんの頃からかな…私ね無脳症の赤子でね本来なら死ぬ運命だったらしいんだけど…それをおじいちゃんが手術して何とかしてくれたらしいんだ」


 無脳症とは脳がなく生まれてくる病名の一種で、生まれた赤ん坊は殆どが死産になるか、生まれたとしても一年、二年ほどで死亡する実例が殆どだ。


 (…あの人ならできるかもしれない…)


 今日の夜に会ったあの人……医者シラスなら死ぬ運命だった赤子を救うことが出来るかもしれない。

  ただ、もしエマに付いている人口脳が世の中、ミスラに知れ渡れば彼女は終わりだろう。

 ロボットの作る社会は非常に合理的な判断によって形成しており、今の社会の流れはロボットが作っており機械によって管理されているからだ。


 すなわち多くのものを生かす為に小を殺すという考えで成り立っていた。


「……取りあえず、このことは誰にも言いません」


 ミコトはもしかしたら、これは自分の手に余るのではないか考えており、保留にしておいた。

 何故ならば、言い逃れもでき、自らの保身もできるからだ。


(……我ながら、自分の考えに嫌気がさすな…)


「うん。ありがとう」

「はあ。全く…僕がいきなりエマさんを拉致ってミスラに連行したらどうするつもりだったんですか?」

 ミコトは深くため息を吐いた。


 「うーん…なんかミコト君なら大丈夫かなって思ったし……それにいつ私の命だっていつ期限が切れるか分からないでしょ?」

 「だからと言って、自分の命を粗末にしていい理由にはならないですよ」


 ミコトは自分でも少し偉そうかなと思いエマに説教をする。


 「あはは。そうだね。ごめんごめんちょっと反省する」


 エマは笑い。


 「……でも、私の願いはもう叶ってるから、いいんだけどね」

 「エマさんの願いって何ですか…?」

 ミコトはエマに問いただす。


 「私はね……死ぬ前にね……家族が欲しかったの…私ねお父さんもお母さんもいないから…」

 「…だから、いつも明るく振舞おうとしていたんですか…」


 ミコトはエマの言葉を聞いて、いつも彼女が明るいのは寂しさを紛らわす為だったのではないかと気づく、本質的に孤独感を感じている人間は何処かで明るく振舞おうとするからだ。


 「それもあるかな…でもおじいちゃんには見透かされてた気がするけどね」


 力なく笑うエマにミコトは何を言えばいいのか分からなく立ちすくみそうになった。

 「エマさんは強いですね」


 力なく立ちすくんだミコトから出た言葉はそれぐらいしか出せなかった。


 「私は……そこまで強くないよ。多分私よりもミコト君の方が強いよ」


 エマは自分よりもミコトの方が強いという身体的な面に関してはそうだろうが、精神面においてはどうだろうか。


 「僕も何か言いたいですけど……そこまで買ってくれるなら、何かあった時は僕が守りますよ」


 せめて、命令が下るまではミコトは何とかしようと思い、エマの期待を裏切るわけにはいかなかった。


 「うん。その時はお願いね…体が機械の男と心が機械の女…私たち二人で人間なのかもね」

 エマはミコトと自分は二人でようやく人間になれるかもと言う。


 「…そうですね。僕たちは二人でようやく一人前かもしれませんね」


 ミコトは意識を切り替えて、いつまでも沈んでいるわけには行かないと、今度は自分でエマの手を取り引っ張っていく。


 「これからもよろしくお願いしますね」

 「うん。私の方こそよろしくね」


 二人は手を取り合い。

 長かった夜が過ぎていく。

 

ようやく、最初が終わったところです。

今回は疲れました。

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