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「第十話」 猫

すみません。

更新遅れました。


 月明りが照らされて、夜道の帰り道でミコトはネコと見つめあう。


 「それで、僕に何の用ですか? というかどうして喋っているんですか?」

 「うむ、父が喋れるのは…どうやら動物を喋れるようにという研究が始まってだな……それで改造手術を受けたら、喋れるようになったというわけだ」

 「……なんですか、それは」


 確かに、動物を人間と喋れるように出来るとはミコトは聞いたことがあるが、だとしても本当にいるとは思わなかった。

 ミコトはそれだけ、知能が高いなら食べるものにも困らないだろうと、無視して車に乗り帰ろうとしていた。


「…どうして、付いてくるんですか?」

「…ついてきてるのではない、父の帰り道に、お前がついてきているだけなのだ」

「その父って言うのやめてもらえませんか? 僕は猫を父に持った覚えはありませんが……」

「やはり、ミコトはいつまで経っても、お子様だな、最近では犬や猫も父親になれるのだぞ」

「それと、私の名前はヒロキだ」

「……いつの時代ですか? それより僕は帰るのでさっさと降りてもらえませんか?」


 ミコトは最早、面倒なのかうんざりした様子で、猫を車内から降ろそうとしていた。


 しかしヒロキはミコトが捕まえようとすると、闘牛士のように軽やかなステップで躱し、ミコトから逃げる。


「ははは!! 愚息の分際で父を捕まえようなどと、できるはずがあるまい」

「この‼」


 いくらミコトが人間より優れているといっても、狭い車内で猫を捕まえられるわけがなかった。


「…これで分かったろう、愚息の分際で父に勝てるわけがなかろう」

「毛づくろいしながら、僕を馬鹿にするのを止めてもらえませんかね」


 ミコトは肩で息をしながら、諦めたのか捕まえるのが馬鹿らしくなったのか、運転シートに座りアクセルを大きく踏み込んで車を急発進させた。


「うお‼」


 車が急発進した勢いで、ヒロキはシートベルトもしてないせいで後方に吹き飛んでいった。

「…危ないではないか」


 ヒロキは何事もなかったように、ミコトの隣に座り話しかけてきた。


「もうあなたを普通の猫と考えるのは止めにしました」

「……当然だ。私はお前の父なのだからな」

「その父って言うのやめてもらえませんかね。僕に父親はいません」

「だったら、なおさら私が父になるべきではないか」


 ヒロキは自分の黒い毛並みをブラッシングしながら、ミコトを見つめる。


「もう好きにしてください」


 ミコトは思考を放棄して、ついに争うのを止めて、車の運転に集中することにした。

 ヒロキに一泡を食わせる為に運転をマニュアルにしたのだが、流石に運転しながら捕まえるのは不可能だと思ったのか、諦めることにした。


 「着きましたよ」

 「最初から、父をそうやって案内すればいいのだ。全く無駄な事をしおって」

 「いちいち一言多いですよ」


  ミコトはいい加減にストレスが溜まってきたのか、カリカリしながら、車を降りて階段を昇っていく。


 「愚息の割には、なかなか良いところに住んでいるではないか。 この父が誉めてやろう」

 「それはどうも」


 ミコトが実際に歩いているところは、エマとヒカルが住んでいるマンションではない。


 「もう二度と会うことはないでしょう」

 「何か言ったか愚息よ」


 ミコトはヒロキが気づく前に、マンションの5階から飛び降りた。


 「やるではないか愚息よ。だが父をハメるにはまだ早かったな」


 ミコトはあのしつこい猫が追ってくる前に、足をしならせて速度をどんどんと上げていく、アンドロイドに出来る限りの最高速を出す。

 高速で動いているミコトの速度に追従するには、野生動物でも最速の生き物でもない限り不可能だった。

 目的地が近づくに連れて、ミコトは徐々に速度を落としていきながら、自分が住んでいる家に近づいてきたことを確認する。

 運動もせずに最高速を出してしまったせいか、ミコトはかなりの汗をかいており、シャツにべっとりと汗が染みこんでいた。


「……流石にここまで来れば…問題ないはず」


 ミコトは周囲を警戒して、ヒロキがいないことを確認して、自宅のベルを鳴らそうとする。


「早く押さんか……」

「うえへ‼」


 ミコトはあまりにも驚いて、すっとんきょうな声を出してしまった。


「……何でいるんですか‼?」

「あの程度で、父をたぶらかそうなどと、甘いにもほどがある」

「もうあなたをただの猫と思うのは止めにしました」


 ミコトは意識を戦闘に切り替えて、ヒロキを捕まえることにする。


 「言っておくが愚息よ。父を捕まえようとしても無駄だぞ。何故ならお前の匂いはもう覚えた」

 「……そして、この父の嗅覚は犬よりも優れている!!」


 ヒロキは自分のサングラスを直し、高いところに立ちミコトを見下ろしていた。


 「流石に、疲れました……もう好きにしてください」


 ミコトはシラスに付き合い、非常に疲れていた。

 これ以上摩訶不思議な生き物に付き合っても、自分の常識が次々と壊れていくのが想像できたからだ。

 呼び鈴を鳴らし、鍵を開けて。

 ミコトが入ろうとする前に猫のヒロキが先を越して堂々と玄関で宣言した。


「貴様ら‼ わが愛しの父が帰ってきたぞ、さあ私を崇め敬うがよい!!」


 ミコトは頭を抱えて、逃げ出したくなったが、目の前には少し青筋を浮かべながら笑っていたエマがいた。


「…ミコト君…これは何?」

「…ええと、実は勝手に付いてきてしまってですね…僕も困ってるんです」


 ミコトは正直に言った、自分ではどうにもできないからエマに何とかしてほしいぐらいだった。


「…全くネコを拾ってくるなら、一言いってほしかったな。足が泥だらけじゃない。このサングラスとネクタイ可愛いわね。ミコト君のセンスなの?」

「いえ、僕ではなくて、最初から付けていました…」

「…さすがはわが娘だな。このサングラスとネクタイのセンスが分かるとは」


 黒い毛並みを強調して、ヒロキは鼻を鳴らす。


「はいはい。分かったから足を拭きましょうね」


 エマは意に関せず、ヒロキの足を拭いて汚れを取っており、彼女に抱かれながらゴロゴロしているヒロキはミコトの方を見てニヤリと笑った。


(……こいつ‼)


 憎しみを込めて、握りこぶしを握り、手を洗いに洗面所へと向かった。


「……はあ、嫉妬というんでしょうか? この感情は」


 今までは自分が帰ってきたら、エマさんやヒカルが迎えてくれた。

 それを突然やってきた猫に取られた感じだった。


「うわー‼ 猫さんだ‼」


 ヒカルの喜んだ声が聞こえてくる。

 今日の主役はネコに譲るかと思いリビングに歩いていく。


 「…はあ。疲れたなあ」


 ミコトハゆっくりと畳の上に座りくつろぎ、辺りを見渡す。

 落ち着いた広間で部屋の真ん中にはちゃぶ台があり、部屋の中央には壁に貼り付けられた液晶のモニターがあり、画像からは取るに足らないニュースが流れていた。

 そしてテーブルの上にちょこんとヒロキがサングラスを掛けたまま、ミコトの目の前に現れる。


「何をくつろいでおるか…父に飯でも作らんか」

「ネコさん待ってー」

「ネコさんではない、父の名前はヒロキだ。この偉大なる名前を覚えておくがいい」

「わーい、ネコさんのグラサン」

「ぬ。父の話を聞けー」


 自らのトレードマークでもあるサングラスをヒカルに取られて、ヒロキはヒカルを追いかけに奥の部屋に去っていた。


「……何だったんですかね。今のは」


 遠くの部屋からドタバタと喧騒が聞こえるが、収まったのか少し静かになった。


「疲れたのは、僕の方なんですけどね」


 ミコトはお茶をすすりながら、体に水分を補給させる。


 「そうだよね……休みなのに朝からおじいちゃんの手伝いしてたら、疲れるよね」


 ミコトの後ろから、エマが抱き着き、彼の肩をほぐす。


 「エマさん、ありがとうございます…ですがそこまでしてもらうのは…

 ミコトは顔を赤らめ。


 「…まさかしゃべる猫まで連れてくるとは思わなかったけどね…」

 「すみません」

 「いいよ。私もヒカルちゃんに最近は寂しい思いをさせてたかもしれないし、意思疎通ができるんなら心配もなさそうだし、ありがとうね」


 ミコトはまさか感謝されるかと思わなかったのか、そのままエマに肩を揉まれながらされるがままにしていると、首から手を回された。


 「……エマさん」


 ミコトは後ろを振り向くと眼前にエマの顔があり、ミコトは離れようとしたが、首筋に手を回されているためにそれもできなかった。

 エマとミコトはお互いの顔をそのまま近づけて、口づけをしようとしていた。


 「いい身分じゃな、若造」


 耳を立てて尻尾を逆立てて、前足をおり後ろ足を立たせて、いつでも飛びかかれる体制になっているヒロキがちゃぶ台の上にいた。


 「…おじいちゃん‼」


 いつものヒロキの声ではなく、ヒロキが付けているネクタイから、エマの祖父であるシラスの声が聞こえてきた。


 「随分と仲が良いようじゃが、儂の目が黒い内は、孫に手を出した瞬間に貴様の下に付いている物が食いちぎれると―――『おじいちゃん‼』


 シラスが言いきる前にエマの激しい怒声が部屋に響いた。


 「なんじゃエマ、儂はお前の為に…」


 余りの迫力に、いつも偉そうにしているシラスがたじろいでいた。


 「しゃべる猫なんておかしいと思ってたら、おじいちゃんの仕業だったのね。どうせミコト君の事が信用できなくて、送ってきたんでしょ」


 「人の家庭の事を覗くなんて、最低……」


 「しかし、その小僧がお前に何かしたらと思うと……」


 ミコトはあのいつも傲岸不遜で偉そうにしている、シラスがタジタジになっているのを見て少し笑ってしまった。


 「何を笑っておるか‼」


 ミコトの様子が目に入ったのかシラスは怒りの声を発した。


 「おじいちゃん‼ 今は私と話しているんだよ!! こっちを見てね」

 「…うむ」

 「いい意思疎通のある猫を送ってくれたのは、感謝するけど、覗きなんてダメだからね!!」

 「今度やったら、おじいちゃんの事嫌いになるから…」


 エマはひとしきり怒りを吐き出した後に、ヒロキのネクタイを取るとゴミ箱に捨てた。


 「ネコさんには新しいネクタイを買ってあげようねミコト君」

 「……はい」


 ミコトはエマさんは起こらせないようにしようと誓ったのであった。

 そしてゴミ箱に投下された、猫のネクタイからはうおーんと老人の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。


お待たせしました。

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