3.追憶、そして覚醒
「ーーーーはっ!!」
荒くれに刺され、死んだはずの俺の体が不意に動いた。
二度と開くことは無いと思っていた目が、次第に開かれていく。
「う、ぐ……」
重い瞼を開けると、先ほどと変わらない景色が目に映った。
俺が倒れていた裏路地だ。
「天国……じゃないよな。俺は助かった、のか……?」
痺れの残る体をなんとか動かし、脇腹の刺された箇所を恐る恐る触ってみる。
ーーが。そこにはなんの傷もなかった。
「えっ、あれ?嘘だろ、確か俺は腹を刺されて……!」
何度も触ってみるが確かに何も無い。
漫画のように頬をつねってみても痛いだけで、実は夢でした、なんてオチでもないのが分かる。
ふと地面を見ると夥しい量の血痕がこびりついていた。
少し湿っているのを見るに、この血が流れたのは数時間ほど前だろう。
つまり俺が刺された時間と一致する。
やっぱり俺は刺されていたのか……。
となると、刺し傷が一切無いのは何でだ……?
ーー心当たりが無いわけじゃない。気絶する直前に聞いた謎の声だ。
<時間魔法≪追憶レマニス≫が発動しました>
時間魔法や追憶の魔法なんて聞いたことがない。
ただの幻聴だと思っていたが、もしかして……。
「ステータスオープン」
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ウラル=ライサス Lv.18
HP 120 防御力 82
魔力 234 智力 147
攻撃力 49 俊敏力 50
ユニークスキル 【賢者の追憶】
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ステータスは一切変わっていない。Lv18にしては低すぎるいつものステータスだ。
だが今までなかったスキルーーそれもその人物固有のものであるユニークスキルが追加されている。
賢者の追憶、だと……?
ステータス表示の文字に触ることで、そのスキルの詳細を知ることができる。
俺が自分のユニークスキルの詳細を見ようとすると、
「うおっ、なんだ、これーーっ!!」
眼前が光に包まれたかと思うと、周りの景色が次第におかしくなっていく。
突如、俺の脳内に大量の記憶が流れ込んできたのだ。
知らない景色や知らない人物が、溢れんばかりに頭を巡る。その光景は目まぐるしく変わっているはずなのに、不思議なほど臨場感がある。
ーーいや、これは知らない景色じゃない。
確かに俺は知っているーー違う、知・っ・て・い・た・ん・だ・。
それから数秒後、全ての記憶が流れ込んだのか、次第に光が薄れ元の景色が現れてくる。
経験した事の無い記憶が頭に入ってくる、なんて妄言のような体験をした俺は、何故か異様なほどに冴えていた。
まるで、この現象が起きるのを分かっていたように。
「ーーこの記憶は、前世、か」
今の俺を誰かが見れば、そいつは俺のことを変なやつだと思うだろう。それもそうだ、いきなり頭を抱えて混乱し出したかと思うと、急に前世を思い出したなんて呟いているのだから。
だが俺には直感に似た何かがあった。
10秒にも満たない間に経験したあの光景や人物は、確かに実在したものだと。
そしてそれを経験したのは誰でもない、前世のーー転生する前の俺自身なのだと。
俺が生まれ変わる前の、その人物の名前は。
「大賢者ーーヴルサス=レイロード」
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ユニークスキル 賢者の追憶
説明 : 転生後の自分に前世の記憶や
ステータスを継承することが出来る。ただし
全てを継承させる為には、前世の記憶と深い関係を
持つ景色や物を見る必要がある。
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そう呟く俺のステータス欄には、ユニークスキル『賢者の追憶』の詳細が載っていた。