2.荒くれ2人組
パーティーを追放されてから一夜明けて、俺は大通りをとぼとぼ歩いていた。
「これからどうしようかなぁ……」
パーティーを追放されたといっても冒険者免許は残っているから、また別のパーティーに入ることは出来る。だが今までと同じような境遇になってしまう可能性を考えると、良い選択とは思えない。
でも冒険者は諦めたく無い。
と、なると……
「単独冒険、か……」
普通、冒険者はパーティーを組んで活動する。
それはただ組みたいからではなく、組まないとそもそも活動できないからだ。前衛、中衛、後衛がいて初めて、迷宮ダンジョンの魔物と戦える。
ソロで活動するにはそれらをこなす複数人分の力が必要となるのだ。そしてもちろん、そんな力なんて俺にはない。
「くそっ、俺にもっと力が……。せめてスキルでも有れば……」
スキル無しの無能。最弱職の村人。
パーティーにいた間、散々言われた言葉だ。
あの時はただ笑うだけで気にしないようにしていたがーー今になって怒りが湧いてきた。
決めた。これからの目標は、パーティーのメンバー、特にセインに対して復讐することだ。俺が受けてきた罵倒や酷い扱い、その分の怒りをあいつに味合わせてやる。
その為には強くならないといけない。もっとレベルを上げ、実力を付けなくては。そのためにはまずギルドに行って依頼を受けよう。最初はスライム退治でもいい。そして徐々に依頼の難度を上げていって……
ドンッ!!
そんな音とともに、軽い痛みが腹側に伝わった。
どうやら、前を歩いてきた誰かにぶつかってしまったようだ。
「あ、ごめん」
考えに夢中になりすぎて前が見えていなかった。
謝罪も早々に、ギルドは向かおうと足を早めようとすると。
「おいコラ、てめぇなに逃げようとしてんだ」
前から怒気の篭った声が聞こえた。
視線を上げると、そこには髪を金に染めてイカつい格好をした荒くれ2人組が仁王立ちしていた。
参ったな……どうやら考えに夢中になっていて、いつの間にか裏路地に入ってしまったようだ。
大通りと違ってこういう面倒くさいのが多いから、あまり入らないようにしていたんだが。
「おいテメェ、そっちからぶつかっといて礼だけかよ。慰謝料だ、有り金全部出せ」
「あーーあ、アンタも運が悪いな、にいちゃん。兄貴は今博打に負けて機嫌が悪いんだ。あんま暴れるとよ、分かるだろ?」
2人組で最も派手な格好をしたーー兄貴とか言われてる男が、ポケットに手を入れながらこちらへ向かってくる。
全く、本当に運の悪い……。
「どけ荒くれども。お前らに渡す金なんて一文もない」
「んだとコラァ!?」
こんな奴らに構っている暇などない。
いつも通り相手にせず、そのまま過ぎ去ろうとした、その時。
俺の脇腹に、鋭く熱い痛みが刺した。
「……………え?」
「は、はは、言ったろ、俺は今機嫌が悪い、って」
「あ、アニキ、それ……」
兄貴と呼ばれる男が手にしている短剣。
その柄から先が、俺の腹に深々と突き刺さっていた。
「ご、はっ………っっっ!!」
鉄の味が口一杯に広がり、腹から大量の血が流れ落ちた。震える足が体重を支えきれず、顔面から地面に崩れ落ちる。
「て、テメェが悪いんだぜ。俺の言うことに従わねぇから……」
「アニキ、早く逃げますよ!人が集まってきます!」
「ま、待てよお前、ら……」
這いつくばる格好で必死に手を伸ばすが、荒くれ達には届かない。男たちは短剣を放り投げると、路地の奥へと走って行った。
「くっ、そ……。俺はこんな所で死ぬのかよ……」
裏路地ということもあって、あれだけの騒ぎ声が響いたはずなのに誰も来る気配がない。
応急手当てをしようにも意識が朦朧としてきて、もはや指先すら動かせない状況だ。
このまま俺はーー死んでしまうのか。
生まれてからずっとバカにされ舐められて、挙句荒くれどもに腹を刺されて。
これじゃほんとに……負け犬みたいじゃないか。
「あーー、くっそ……。来世こそは、もっと良い人生を送りたいなぁ……」
絶え絶えの息をなんとか整えて、雲ひとつない青空を仰ぎ見る。
生まれてずっと不幸だった身だ、元から神なんて信じていないが。
もし転生があるのなら、次こそは必ずーーっ!!
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時間魔法≪追憶≫が発動されました。
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ふと、死の間際だろうか、脳内に幻聴のような音が流れた。
だがそこから、何を考えることも出来ず。
俺の意識はそこで終了した。