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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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32 窓辺

 窓を開け放つと切り裂くように冷え切った空気が部屋に飛び込んできた。一年の内で最も寒い時期なのに、こんな無謀なことをしていても僕は落ち着いた気分でいる。それよりもむしろここから見上げる東の空に思いを馳せて高揚感に包まれていた。


 父親の車が止めている駐車場を挟んで隣の家がある。赤ん坊の泣き声が聞こえて来て、僕は現実世界に気分を引き戻された。その途端に階下の居間からテレビの音が微かに聞こえてくる。母が夕食の支度をしながら視聴しているのだろう。今夜はカレーかな。香辛料の美味しい香りが漂って来ていた。


 家の前を自転車に乗った女子高生が通り過ぎて行く。大きなギターケースを背負っているので華奢な体がより一層に小さく見えた。あの制服は僕が間もなく受験する高校のものだと思って、その後姿を何気なく追い掛けていた。


 窓辺の学習机には数学の参考書が開いたままで置かれている。因数分解の公式にはラインマーカーの枠で囲まれていた。懐かしい文字の並びだ。この頃に習う数学なんて公式さえ知っていれば一瞬で解けてしまう問題ばかりだったんだと今になって気付く。


 机の古い傷に手を触れて、小学生の時の思い出に浸る。真新しい机に不注意にも傷を付けてしまったことに心を痛めた。折角両親に買ってもらった大きな机なのに、幼い自分にはどうして良いのか分からなかったのだった。


「博基、御飯が出来たわよーっ」


 階段の下から母の呼ぶ声がした。


 今頃、摩唯伽は何をしているのだろうか。二度目の過去に僕たちは二人とも体を元の世界に残して、魂だけが過去に戻った。その世界にいる自分自身になって僕たちはそれぞれに役目を果たしていく。


 そして、来るべき未来を待ち望んだ。

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