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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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30 拝殿前

 しかし、痛覚がない。突き抜けた部分にも怪我はないようだ。光は物質ではないのだから、ただ単に体を通り抜けただけなのだろう。


 死なないと分かって少しの余裕を持てた。その時、僕は暗黒の中に浮いているのに気付いた。


「光が――― 光の竜がいなくなった」


 辺りを見渡すと、真っ暗な闇の先に摩唯伽のゼリービーンズが艶々と輝いていた。そこは僕の部屋だ。


「ここは何処だ?」


 部屋がこんな場所に繋がっている筈がない。明らかな異次元空間に僕は浮いている。真っ暗闇なのでここが広いのか狭いのかも分からない。叫んでも何も反響して返って来ないことから、広い場所なのだろう。何も音がしないことがこんなにも恐怖に感じるとは思わなかった。


 手足をばたつかせて泳ぐように進もうとしたが、上手くいかない。否、進んでいるのかどうか分からない。暗過ぎて位置感覚が掴めないのだ。


「何だと!」


 僕が部屋にいる。ゼリービーンズが入った小瓶を手にしている僕が闇の先にいた。


「僕は―――、僕は死んだのか。死んで魂が抜け出たのか」


 体を確認しようにも闇の中では見えない。手で探れば確かに体の感触がある。他の感覚にも何も変わったところはなかった。それならば死んではいないのではないのか。


 しかし、死んだことがないから断言はできない。とにかく部屋に戻るしかないが、移動する術がなかった。下手に動けば体が回転するだけで、宇宙飛行士が無重力空間で遊んでいる映像にあるような状態だった。


「どうする。これでは埒が明かない」


 深刻に悩んでしまう。永遠にこのままでは本当に死んでしまう。何としてでも脱出方法を考えるしかないのだ。


 ぐるぐると体が回転している。それは僕の部屋が動いているから、相対的に考えればそういうことになる。僕が地球で、部屋が太陽か月という訳だ。


「そんなことをのんびりと考えている暇はないぞ」


 自分を叱咤していると、何かが視界の端で捉えた。


「星?」


 それは小さな光の点だった。遠い遠い彼方で輝くもの。まさしく星でしかないのに、赤、白、青、緑、橙、紫と光の色が変化して瞬く。


「摩唯伽」


 摩唯伽が作ったゼリービーンズがすべて輝いている。小さな光を見ただけなのに何故かそう思った。そして、僕は導かれるようにその光の方向へと移動して行った。


 ゼリービーンズが投じられている。近付いていくと、きらきらと輝くゼリービーンズがばら撒かれて放物線を描いて落ちて行くのが見えた。


「そこに摩唯伽がいるのか?」


 僕の魂は岐阜に来ているのだろうか。ばら撒かれたゼリービーンズは、遠い以前に照手神社の拝殿前に落ちていたものとまるで同じだった。僕はその時の摩唯伽がどうしていたのか知らない。物部神社の人形浄瑠璃の席からいなくなって探し回っていた。


「いた!」


 摩唯伽が拝殿で祈りながら、ゼリービーンズを天高く投げ上げている。唱えられるおまじないに呼応して地面に舞い落ちたゼリービーンズが輝いている。


「摩唯伽、摩唯伽」


 僕は必死になって摩唯伽を呼んだ。闇の中からの声が現実世界に届くかは分からない。それでもやらずにはいられなかった。何度も何度も繰り返す僕は、次第に摩唯伽に近付いていて、すぐそばで叫んでいた。


「違う。おまじないを言っているんじゃない」


 僕はとんでもない勘違いをしていた。神社だから、拝殿で手を合わせていたから、囁いでいたから。

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