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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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27 残酷

「考え直すのなら、今しかないよ」

「考え直す?」


 摩唯伽は何をという顔をした。過去に戻るのは諦める気はないらしい。武鎧麗香を助けるのは使命になっているみたいだ。


「あの時―――」


 僕は言い出すのを躊躇っている。何故ならそれは想像でしかないからだ。摩唯伽が死んでどうなったのか。摩唯伽がいなくなった世界がどうなったのか。僕も過去に戻ってしまったから真実を知ることは出来なかった。


「僕が摩唯伽を探して照手神社に行った時、―――摩唯伽は死んでいたんだ。警察が来ていて担架に乗せられていた。僕はそれを見ていたんだ」

「私が、死んだ!」


 僕は声を出せられずに頷くだけだった。


「でも、次の瞬間、僕はそこで小学生の摩唯伽と出会った」

「うん、それは覚えてる。でも、本当なの、私が死んだって」

「多分僕は体ごと戻されたけど、摩唯伽は心だけだったんだと思う。心だけが戻されて小さい頃の摩唯伽の体に入った」


 仮説でしかない。別の心が入って上書きされるものなのだろうか。


「納得できる話だね。私は内緒にしていただけで、武鎧摩唯伽でいた時の記憶があったもの」

「そうだったのかい」

「うん。―――そうかぁ。私、死んじゃったのかぁ」

「僕の想像での話なんだけれど」


 僕は落ち着いた声で話すように努めた。これから僕が言うことは良い話ではないが、ちゃんと伝えなければならない。


「摩唯伽が死んで御両親はどうされたのか。友達は何を感じたのか。摩唯伽は考えるべきだよ。愛する娘の死。親しい仲間の死。それが前の世界には残ったんだ」


 摩唯伽は息が止まったようにじっとしている。僕は残酷だ。今更どうにもならないことを持ち出してきている。そして、使命と考えているのに、それを果たすにはまた繰り返してしまうと言っている。本当に僕は残酷だった。


「私は世界は一つしかないって考えているわ。何故かって、過去に戻っても同じことが起きている。未来を知っている私たちが変えなければ同じことが起こるのよ。だから時間を戻して、より良い世界に変えるように、私は麗香ちゃんを助けに行くわ」


 考え方の相違なのだろうが、どちらが正解なのか分からないので、この議論は無意味だ。ただ摩唯伽の考えのほうが未来に希望を持てる。


「でも、その為に今していることは本当に必要なの? 前の私とは違う私なのに、無理に好きになってもらおうとしているわ。それが見えてしまうから、私は辛いの」

「あちらの僕が摩唯伽を嫌っていると思っているのかい」

「違うの。私の気持ちなの。以前した会話を繰り返して台本通りに演技をしている私なの」


 二人もいる僕への思いが摩唯伽の中でぶつかり合っているのだろうか。一途にしか愛せない摩唯伽の気持ちが僕には分かり難い。台本通りと言っているが、以前と同じ会話をしてもあちらの僕にとっては新鮮な会話でしかない。上手くやり過ごせば良いのではないかと思ってしまう。


「結局、摩唯伽はどうしたいの?」

「バレンタインデーには佐藤さんを人形浄瑠璃に誘うわ。本当のことを話して、それだけは必ずする。でも、行くか行かないかは佐藤さんに任せたい。過去に戻るには私だけがあそこに行けば良いと思っているから」

「本当のことを話すのか。あちらの僕がそれを信じると思っているのか」


 それを聞いて僕は確信した。摩唯伽はあちらの僕を過去に戻らせたくないのだ。僕をそうしてしまったから二度と過ちを繰り返さないと誓っている。


「信じる筈がないよ。僕自身がそう言うのだから間違いない」


 現実的な考えで僕は行動する。それは僕自身であるあちらの僕も同じ筈だ。しかし、それが摩唯伽の言葉なら完全に否定はしない。それが僕という人間だ。


「でも、―――」


 摩唯伽が信じて欲しいなんて思っていないのは分かっている。ただ真実をあちらの僕に知って欲しいだけなのだ。


「でも、嫌いになったりはしないと思うよ」

「―――、博基」


 さん付けでは呼ばずに摩唯伽は僕に抱き付いてきた。そして、ひたすら謝っている。ごめんねと何度も繰り返して泣いていた。

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