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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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19 摩唯伽の下宿

「さてと、お腹もいっぱいになったし、何処かに行こうか?」

「私ね、お買い物に行きたいんだけどいいかな」

「構わないよ。無職の僕には時間がたっぷりある」

「無職じゃないでしょ。投資家として成功してますよ」


 絶対に失敗しない投資家。僕は未来を知っているから当然だ。


 大型のショッピングモールへ行った。摩唯伽ちゃんは近場の店から順に渡り歩く。僕はその後を只々ついて回った。どうやら鞄を探しているようだ。肩にも担げる手提げの帆布製のもの。摩唯伽ちゃんはいろいろと物色しているが、僕にはどれも同じような鞄に見えた。


 だからと言って、ここでどれでも同じでしょうなんて口が裂けても言っては駄目だ。デザインや色や大きさが微妙に違う。結局十軒近く巡って、一番初めの店に戻った。そこで目星を付けていた極めてシンプルな藍色の鞄を買った。


「お疲れさま」


 思わず僕は皮肉を言ってしまう。しかし、それでも摩唯伽ちゃんは上機嫌でにこにこしていた。


「良かったぁ。もうこの鞄はここら辺がヤバかったのぉ」


 持っていた鞄のチャックを指している。確かに糸が擦り切れて補修した跡があった。


「何だか荷物がいっぱいになってるね」


 いつの間に買い込んだのか、摩唯伽ちゃんの古い鞄は膨れ上がっていた。さっき食べた弁当箱も入っている。これ以上に詰め込むのは無理だろう。


「んんー、帰りましょうか。お茶くらいなら御馳走しますよ」


 僕は摩唯伽ちゃんの下宿先を知らない。学生アパートで一人暮らしをしているらしいが、詳しいことはまだ教えてもらっていなかった。


「大学まで徒歩通学ですし、地下鉄に乗ればすぐです」


 東京メトロの駅はショッピングモールの目の前にあった。僕の東京での移動はタクシーか鉄道だ。この世界に来てからは車を買っていない。住む場所の環境次第でそのほうが便利だった。


 駅から徒歩八分。白いバルコニーが印象的な十階建て。それが摩唯伽ちゃんの下宿先だった。管理人は常駐していないが、防犯カメラ完備とオートロックシステムで、女の子でも安心して暮らせる設備だった。


「どうぞ」


 狭い玄関だ。二人で入るといっぱいになった。主に学生向けの物件なので当然かな。靴を脱ぐと短い廊下の右側に流し台がある。冷蔵庫と電子レンジが置かれているだけで綺麗に片付いている。左側はトイレと風呂場だろうか、扉が二つあった。


 いよいよ廊下の正面の部屋に入った。フローリングの一間があった。バルコニーのガラス戸に向かって机が置かれていて、勉強途中の本とノートが出されたままだ。その横の壁側の本棚には見たこともない難しそうな専門書がぎっしりと詰め込まれていた。その他はテレビがあるだけで、至ってシンプルな部屋だった。


「まるで学生さんみたいな部屋だね」

「えーっ、学生なんですけど」


 フローリングの中央にだけ丸いカーペットが敷かれている。摩唯伽ちゃんは、そこに座ってくださいとクッションを置いた。そもそも座布団なんて必要ないのだろう。気を使う訪問者が来ないと想定していることが窺える。

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