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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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18 不忍池

 青や赤、それに紫に白ってのもある。不忍池でお弁当を食べながら満開の紫陽花を目出ていた。


「お茶をどうぞ」

「うん、ありがとう」

「今日はわざわざお呼びして済みません。大学の近くまで来てもらえるなんて嬉しいです」

「きららちゃんの手作りのお弁当を頂けるとなると、僕は何処へでも行くよ」


 笑うと頬肉がぷっくりと膨れて幼い表情に変わる。そこがとても可愛らしい。丸い顔の輪郭と目が丸くて黒目が大きい雰囲気が柔らかい和やかさで僕を包んでくれた。


「実は佐藤さんにお知らせすることがあったんです。遂に内々定を貰いました」

「菩提重工のだね。いよいよ僕に会いに行くんだ」

「はい。私は忠実にあの時と同じことを繰り返そうと思っています。だから心配しないでください」

「心配してないさ。でも、あの時の僕はちょっと失礼な奴だから、僕が代わりに謝っておくよ」


 摩唯伽ちゃんに頭を下げて、あの時僕が感じていた思いを詫びた。詰まり田舎っぽい高校生にしか見ていなかった。そんな外見しか見れない男だったのだ。


「私を田舎者の女の子と見ていたことですか。大丈夫ですよ。私、気にしていませんでしたから」


 ばれていた。隠していたのにどうして分かったのだろうか。


「ごめん」


 今度は自分がしたことに謝った。知られていたとは思っていなかったので、僕はばつが悪くなった。


「女の子なら誰だってそんなのには敏感なんですよ。でも、特別だと思う男の人だと許せるんです」


 あははは、と楽しそうに笑う。あの時の僕を思い出しているからに違いない。


「でも、複雑な気分だ。僕に会いに行くのに、この僕じゃないなんて不思議な感覚がする」

「私もです。あの約束、守れるかなぁ」

「おいおい、今更何を言い出すんだよ」

「冗談ですよ。ちゃんと別人だと心得ています。そんなに心配なんですか」

「当り前だ。僕はあの時、二度ときららちゃんを誰にも渡さないと誓ったんだ」


 恥ずかしい台詞なのに、僕は平然と言えた。それは僕たち二人がいる世界が異常だからだろう。こんな経験をしているのは僕たちしかいない。そんな絆が強く働いていた。


「あの時って?」

「決まってるじゃないか。きららちゃんを松本に取られそうになった」

「あれは佐藤さんの早とちりです」

「うん。でも、それで僕の心は決まったんだ」

「うふ、いいですねぇ。こんなにも私を思ってくれる人がいるなんて、私は幸せ者です」


 不忍池にいるたくさんのカップルを摩唯伽ちゃんが見詰める。そして、僕に視線を戻して言う。


「私たちの人生って、風変りだけど素敵だね。お互いの存在が惹き付け合ってる。どんなに引き裂こうとされても絶対にそうならない」


 摩唯伽ちゃんの純真な感情だった。あの時と一つも変わっていない。若い姿のままでいるからそれを維持し続けているのだろう。だから僕は安心して摩唯伽ちゃんを送り出せる。まだ純粋な僕は菩提重工にいるのだ。

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