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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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17 約束

「きららちゃん」


 僕は離れて行く摩唯伽ちゃんを抱き寄せた。


「僕が何もかも変えてしまったから悪いんだ」

「違います。私が自分のことしか考えなかったからです」


 問答をしていても仕方ない。何が良くて何が悪かったなんて、人生ではよくある疑問だ。正解なんてないと思っている。それよりもその選択を間違いにしないほうが大切だ。


「でも、それでも。私は元通りの未来で、元通りの佐藤さんに会いたい」


 見殺しにしてしまったという時から何年も考え抜いての答えなのだろう。悔いはあるが、摩唯伽ちゃんはそれを正解にしたということだ。


「だったら現実にすればいい。東大で化学を専攻しているんだ。まっしぐらに突き進むべきだよ。そして、もう二度と照手神社にだけは行かなければいいんだ」


 照手神社で時間を戻ってしまった。それさえなければ摩唯伽ちゃんは幸せになれる。


「いいえ、もう一度戻って麗香ちゃんを助けます」

「その為に僕に会いに行くのか」


 摩唯伽ちゃんは頷いた。いつからそんな決意をしていたのだろうか。高専に行ってロボコンに夢中になっていた時なのか。機械を教えられて喜んでいた中学生の時なのか。それとも僕が高橋化学工業に就職した小学生の時なのか。


 何時からだったにせよ、僕には承服できない。そんなことをすれば、摩唯伽ちゃんはまた死んでしまう。神社の裏から運び出される担架を僕は思い出していた。


 駄目だ。そうはっきりと言うべきなのだ。しかし、それには理由が必要だ。摩唯伽ちゃんが死んでしまうという理由は、僕には絶対に言えない。そして、何よりも絶対に死なせたくない。


 摩唯伽ちゃんが自己犠牲を厭わないと言ったら、僕はいったいどうすれば良いのか分からない。何年も熟慮してきたであろう摩唯伽ちゃんに対して、僕はたった今考え始めたばかりだ。もっと考えなければならないことなのだ。


「過去に戻るなんて異常な現象がまた起こるなんて考えられない」

「その時はその時じゃないですか。私は出来るだけのことをして、もう悔いを残したくないの」

「きららちゃんが・・・ いや、僕がどうなるのか考えてくれ」


 過去に戻ろうとするなら、あの照手神社に行かなければならない。あそこできららちゃんが死んでしまう。もしも過去に戻らなければ、悲惨な結果で終わってしまうではないか。それを言えないので僕の身を心配してくれと頼むしかない。


「どういうことですか?」

「僕がまた戻れば、また年を取ってしまう」

「えぇっと、それは違いますね。過去に戻る佐藤さんは、今の菩提重工にいる佐藤さんです」

「それならこの僕はいったいどうなる」


 この疑問に答えられる筈がない。それを分かっていて言う僕は卑怯だろう。


「多分、照手神社にいなければそのまま時間が過ぎてくれると思うんです」


 摩唯伽ちゃんはいろいろなシミュレーションをしているのだろう。返事に淀みがない。


「僕はきららちゃんを失うのか」

「そんなことはしません。私はこの佐藤さんが好きなんです」


 あぁ、摩唯伽ちゃんは何と愛おしい女の子なんだろう。ずっと抱き締めていたい。もっとくっついていたい。僕は摩唯伽ちゃんと離れるなんて出来なくなった。しかし、そんなことをしては悔いを解消させてあげられない。


「待っててください。私は必ず佐藤さんの元に戻ってきますから」

「約束だ」

「はい、約束します」


 東京に帰ろう。摩唯伽ちゃんを信じて、そして僕を信じてもらって待つことにしょう。お互いに信用し合っているから、僕たちにはそれが出来る筈だ。摩唯伽ちゃんを信頼して待ってみよう。僕はそう誓った。

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