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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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13 意外な行方

 ローカル鉄道の終着駅にまで来てしまった。ここでは摩唯伽ちゃんが小学生の時に、一緒に武鎧家の葬儀に参列した。僕が知っているこの場所と摩唯伽ちゃんとの関連はそれだけしかない。武鎧家の一人娘の麗香が交通事故で死亡した。その葬儀で摩唯伽ちゃんが友達だと言って号泣したのである。


 それは演技だと思っていた。あの時、僕は亡くなった麗香が友達なのかと尋ねたが、摩唯伽ちゃんは答えてくれていない。


「ここに来ているなんて確証はない」


 電車を降りないで泣いている姿は只事ではなかったし、ここへ来るにしても泣く理由ではないと思われる。墓参りがしたいと言われれば、僕が不思議に思う筈がない。本当に友達だったのだと信じるだけなのだ。


「確かこの辺りの墓地は小学校の北側の山の中にあった筈」


 そこは春になると向かいの山麓の有名な桜が一望できる絶景スポットになる。死者を弔うには良い場所だった。


「摩唯伽ちゃんがいるんだろうか」


 僕は複雑な心境で歩みを進めた。この世界の摩唯伽ちゃんは武鎧家とは関係がない筈なのに、その時のことが切っ掛けになっていたのだろうか。


 狭い山道を登って行く。杉の木が立ち並んで真っ直ぐに伸びている。太い幹を覆っている茶色い樹皮が縦に細かく裂けていた。日本で最も多く植林されている木だそうだ。縄文時代から日本人の暮らしには使われているとされている。まさに日本文化を築いた木だ。


 山道の向こうに石段が見えた。階段が作られていて、その奥は整地された墓地になっている。そこに近付くにつれて、僕の心臓は痛いほどに鼓動した。


 一歩一歩階段を昇る。墓地の全容が見えてきて、その一番奥に人影があった。


「摩唯伽ちゃん」


 声を掛けた僕を見ても、摩唯伽ちゃんは驚く様子がない。否、それよりも僕が現れて当然なんだという表情をしている。


「ごめん。摩唯伽ちゃんが心配だったから探してしまった」


 うん、と小さく頷いた。それ以外に摩唯伽ちゃんの表情に変化はない。


「佐藤さんは、ずっとそうだったんですものね」

「ん?」


 摩唯伽ちゃんは景色を眺めて、僕との視線を合わせようとしなかった。しかし、少しは落ち着いたようで、電車で見せた涙の表情は和らいでいる。


「墓参りなのかい」


 誰のとは聞けなかった。普通に考えて、それは有り得ない。


「うん。武鎧家のお墓に来てた」

「武鎧家? へぇ、ぶがいと読むんだね」

「知ってるくせに。前に教えてくれたじゃない」

「そうだったかなぁ」

「武鎧麗香ちゃん。前にお葬式に来たでしょう」

「うーん、そうだね」

「そうだよ」

「摩唯伽ちゃんは、友達だったって言ってたよね」

「・・・さぁ、東京に帰りましょうか」

「えっ、実家に帰るんじゃなかったの」

「私、岐阜に行くって言ったんです」


 そういえば一言も実家に帰るとは言っていないような気がする。僕の勝手な思い込みだ。摩唯伽ちゃんは話を逸らしたまま駅に向かった。言いたくなければ構わないが、まだ昼を過ぎたばかりで帰ってしまうには早過ぎる気がした。

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