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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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12 電車

 ピュイィィーーッ!


 発車の笛の音がした。ドアが閉まるのを背後で感じる。


 ?


 摩唯伽ちゃんは? 僕は気になって振り返った。


「!」


 閉じられたドアの内側に摩唯伽ちゃんはいた。どういうことなのだ。僕の後ろをついて来ていた筈なのに、いつ離れてしまったのだ。何故だ。何故、摩唯伽ちゃんは電車に乗ったままなのだ。何故、摩唯伽ちゃんは電車から降りていないのだ。


「摩唯伽ちゃん!」


 僕の叫び声が聞こえている筈だ。それなのに摩唯伽ちゃんはずっと下を向いている。そして、大粒の涙を流して泣いていた。


「摩唯伽ちゃん!」


 電車が速度を上げていく。追い掛けている僕の足ではだんだんと追い付けなくなっていく。小さな駅ではホームも短くて、僕は端まで来て足を止めた。線路に飛び降りようとも思ったが、もはや電車は到底追い付ける速度ではなくなっていた。


「一人で何処に行くつもりなんだ」


 こうすることを初めから決めていたのだろうか。嫌ならば僕の同行を拒絶すれば良かったのではないのか。しかし、摩唯伽ちゃんがそんなことをする筈がない。途中で気が変わったとしか考えられなかった。ローカル鉄道の地元に帰ってから様子が普通ではなくなった。あの時、僕がもっと気を使ってあげなければいけなかったのかもしれない。変な気を起こして思い詰めなければ良いのだが。


 摩唯伽ちゃんの携帯電話に発信してみた。しかし、電源を切っているようだった。急いで駅を出てタクシーを探すが、こんな場所にそんなものが都合良くいる筈がない。電車から降りた乗客は僕以外にいないひなびた住宅地の中で行き場を失った。


「くそっ」


 毒づいたのは二度目の経験だったからだ。この世界に来る前に、この場所で彼女の行方を追っていた。発狂してしまいそうになる不安で僕は潰されそうだったのだ。あんな経験は二度と御免だ。


 タクシー会社に電話をして配車依頼すると、現在案内できるタクシーがないと言われた。街道に出て探してみるが、そんなに都合良くいくものではない。


「絶望している場合ではないぞ」


 自分に奮起させて、僕は考える。次の電車はあと三十分後だった。ここで当てもなくタクシーを待つか、駅に戻るか。


「何処かの駅か周辺にいるかもしれない」


 電車のほうが街道を走るタクシーよりも見付ける可能性が高いと判断した。そして、五十分の間隔をあけて到着した電車に僕は乗り込んだ。


「頼むから見付けられるところにいてくれよ」


 藁に縋る思いで僕は電車の先頭に立って、運転席越しに周辺を隈なく探す。途中のショッピングモールのある駅では窓に貼り付いて摩唯伽ちゃんの姿を追った。他の乗客には異様に見られるだろうが、そんなことに構っている余裕はない。僕は必死だったのだ。


 神も仏もないではないか。中間の比較的大きな駅に到着しても、摩唯伽ちゃんは見付からなかった。この電車はここで乗り換えになる。次は四十分待ちだ。初めに乗っていた電車は直通だから、遅れること一時間半だ。もう摩唯伽ちゃんは見付けられないかもしれない。

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