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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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9 とんかつ定食

 東京駅八重洲口に帆を模した大屋根のランドマークがある。カフェやレストランが集まるこの空間は人々で常に賑わっていた。その数知れずの大勢の中でも一際輝いて魅力を持つ女性がいる。清楚なワンピースの出で立ちと凛とした表情が近寄り難い雰囲気を漂わせていた。


 擦れ違う男性たちの目を惹き付けて放さないが、誰も声を掛けられない臆病者ばかりである。しかし、それさえも気にしないのが、この女性の勇ましさだった。


「待たせたね」


 相手より遅れてしまったのは、タクシーが渋滞で停まってしまったからだった。思いも掛けない事故で通行止めを食らっていた。だからタクシーを乗り捨てて駆け付けたが、結局は間に合わなかった。


「いいえ、まだ待ち合わせの五分前です」


 肘の辺りまである髪が美しく輝いている。真っ直ぐな黒髪はよく手入れされていて、風にふわっとなびくとさらさらと流れた。


「約束したからなんだけど、そこでいいのかい?」

「勿論ですよ、佐藤さん。楽しみにしていたんです」


 そう言いながら、ぐっと僕に近付いて来ると、周囲の男たちの視線が僕に集中する。この女性とどのような関係なんだと思われているのだろうか。確かに美女だ。僕がその人の知る限りで一番の魅力的な女性に変わっていた。


「味噌カツが食べたいなんて、本当に摩唯伽ちゃんらしいね」


 うふふっと笑って、口元を手で隠した。


「何処で暮らしていても、私は私です」

「いや、見た目は随分と変わったよ」

「可愛くなった?」

「そうだね」

「佐藤さん好みでしょ」

「うっ、おじさんをからかうなよ」


 元々僕は彼女の四つ年上だった。そして、十二年の過去に戻っている。だから十六歳の差だ。二十歳の摩唯伽ちゃんと、三十六歳の僕だった。


「わらじとんかつ定食、二つね」


 店に入るなり摩唯伽ちゃんはさっさと注文している。僕の了解もなくメニューを決定していた。


「相変わらずだね」

「ねぇ、アスパラ巻きも頼もうか。あとね、金鯱ていう愛知の地酒も」

「おいおい、大丈夫なのかい。わらじだけでも十分な量だろう」

「えへへへ、お腹空いてるの。それに私はもう大人だから堂々とお酒も飲めるのよ」


 摩唯伽ちゃんは彼女とは別人の女の子だが、基本的に同一人物なのだ。だから同じ行動をして当たり前だ。僕はそんな摩唯伽ちゃんを見ていて幸せな気分になった。

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