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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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8 東京大学工学部化学システム工学科

「出ましょうか。ここは落ち着かない」


 食事もあらかた済んでいるので、僕はさっさと席を立つことにした。


「佐藤さん」


 いきなり背後から僕を呼ぶ声を聞いた。振り返ると、あの女子学生が追い掛けて来ている。


「声が―――」


 その声を忘れる筈がない。その声の主は、僕が絶対に間違える筈がない人だ。奇跡的な出会いだ。こんなに嬉しいことはない。神様、どうもありがとうございます。僕は心の底でそう叫んでいた。


 しかし、同時に絶対にここで会ってはいけない人でもあったのだ。


「摩唯伽ちゃんなのか?」


 僕が知っている大人になった彼女は、菩提重工にいた時の田舎の高校生のような女の子だ。決して女性誌のモデルのような彼女ではなかった。


「お久し振りです、佐藤さん」

「どうして、ここに?」

「あぁ。私、高専から編入したんですよ。折角佐藤さんに工場を助けて貰ったので、家業を継ごうと一生懸命勉強しました」

「でも、ここに?」

「はい。東京大学工学部化学システム工学科です」


 神は無慈悲にも僕を奈落の底に突き落とした。高専から大学三年生に編入。そして化学を専攻。これが神の冷酷無比な力だ。何もかも前の世界と変わっていない。二年後に東大を卒業して、菩提重工に入社する。そこで待ち受けているのは、この世界の僕だ。新入社員の教育者として出会い、親しくなった後、岐阜の照手神社で―――


「どうして化学なんだ?」

「だから今言ったじゃないですか。私の家は化学工場ですからね」

「家業を継ぐって」

「はい。でも、その前に何処かの企業に入って修業はするつもりです」

「何処かの・・・」

「まだ決めていませんが、もっと勉強をして実力を付けられるようにしたい。そうですね、何処かの重工業とかがいいと思います」


 再会を嬉しそうにする摩唯伽ちゃんとは対照的に、僕は眩暈を起こしているようだった。あの悲劇をまた繰り返すのか。この世界の僕はまた過去に飛ばされてしまうのか。


 そして、摩唯伽ちゃんは神社から運び出される担架の上で―――


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