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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第三章 高橋 摩唯伽
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7 東京大学駒場地区キャンパス

 菩提樹重工業株式会社の株主になった僕は、宇宙開発事業を連携して共同研究している東京大学の生産技術研究所にも投資している。寄付金に巨額を投じているが、見返りは一切ない。それをしているのは、以前の世界でその分野の仕事をしていただけでしかない。只の道楽にはなるが、僕の財産は元々あぶく銭だ。惜しい気持ちなど微塵もない。


 東京大学駒場地区キャンパスは僕のような学生以外の一般人も快く迎え入れてくれた。緑が豊かな小径にひっそりと佇む白い建物が、昭和初期の洋館を懐かしく感じる気持ちにさせてくれる。勿論そんな時代には生きていないが、心の奥深くの刷り込まれているのだろう。日本人の日本人たる本性と言える。


 清潔で落ち着きのある店内は外観と同じく昭和レトロ調で、僕はここが大学内であることを忘れてしまう。そして、スタッフに案内されて、僕は一つのテーブルに通された。


 笑顔で待っていた相手は、さっそく握手を求めてきて、僕に友好的であることを主張する。


「ここのコース料理は旨いですよ。わざわざお越しいただいたのです。是非どうですか」


 前菜にメインとデザートが付いたコースを勧めてくれる。しかし、僕はいささか胸焼け気味で、昨夜の酒気が抜け切っていなかった。


「折角ですが、少々ここがね」


 腹周りを摩りながらダイエットをしていると装った。


「岸田教授。宜しければ、こちらのサラダビュッフェ付きランチをお願いしたい」

「そうですか。あなたがそう仰るなら、どうぞお召し上がりください」


 残念そうに言うのは、料金が半分になって豪華さが無くなるからだ。僕を接待してくれているので、岸田教授は気を使っているのだろう。


 ビュッフェコーナーで生野菜とフォカッチャを取って来る。ドリンクはフリーなので、コーヒーを迷わずに選択した。


「へぇ、サラダのドレッシングはライムですね。これは美味しい」


 少し珍しい気がする。酸味が少なく野菜の味を引き立てている。


「メインの若鶏のもも肉煮込みもなかなかいけますよ」


 岸田教授はシーザーサラダを口に運んでいた。お好みで粉チーズをにたっぷり振り掛けてあるので、見ているだけで僕は少し胃にきてしまった。


「いや、気を使わないでください。僕も宇宙開発には興味があるんです。研究室を見学させていただければ、すぐに退散いたします」

「まぁ、そう仰らずにゆっくりして行ってください。是非とも最新技術の進化を堪能して頂きたい」


 岸田教授はJAXAメンバーであるから、その職務の内容について語り出した。重力天体への着陸探査の研究リーダーとして活躍しているらしい。しかし、僕にとっては過去の研究だ。2020年の未来を僕は知っている。


 熱い語り口が続く中、店は三人の女子学生たちが入ったところで満席になった。向かいの席に通されて、二人が僕に背を向けて座り、一人だけがその容貌を確認できた。現代の女子大生らしく女性誌の表紙のような美人顔を作り上げている。


 見詰められている?


 僕が最初に盗み見たせいなのか、その女子学生はずっと僕を見ている。しかし、いかがわしい視線を送った訳でもないのに、何故そんなことをされているのか分からない。だから出来るだけ目を合わさないように無視することにした。


 視線が痛い。物理的に感じるのではない。そのような感覚を僕は知った。


「どうかされましたか?」


 僕の異常に岸田教授は気付いた。


「いいえ。ただ、あそこにいる女の子がね」


 僕は目の動きで方向を示した。岸田教授は大胆に顔を向けて、その女子学生を確認する。


「お知り合いで?」

「それが心当たりがない」

「うちの学生ですかね。随分と興味を持たれているようですな」


 女に好かれて羨ましいとでも言いたいのだろうか。しかし、僕は本当に相手に覚えがなかった。

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