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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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19 元服式

 祈祷殿に上がったまこちゃんは、水干装束に身を包んでいた。紅長袴に単の衣装。そして、錦包藤巻の太刀を佩び、手に扇を持った。白拍子といったほうが分かりやすいだろう。静御前を連想させる出で立ちだった。男子は直垂装束である。大相撲の行司を思い出させる衣装で、女子と同様に手には扇子を持っていた。


 まこちゃんは終始伏し目がちにしている。何かを悩んでいるのだろうか。先程言っていたように大人になる責任感を考えているのかもしれない。


 元服式は、冠婚葬祭の人生における最初の儀礼である。厳かな気持ちになっているのも理解できた。伝統衣装が余計に気を引き締めている。まこちゃんの緊張した表情が僕にも伝染する。只の行事ではない。人生の節目に当たる大切な儀式を経験しているのだ。


 修祓の儀。

 宮司が一同の前で大幣【おおぬさ】を振るい穢れを祓う。大幣とは白木の棒の先にたくさんの細い白紙を付けた祓串のことで、神社に池はよく見かけるものだ。


その後、祝詞を神に奏上される。神に対する正式な言葉を唱えているので、僕にはその内容が分かり難い。しかし、それを耳にしているだけで神に近付いている感覚がして、僕でさえ身が引き締まる。


 髪上の儀。

 加冠の儀。

 宮司らによって髪が整えられて、男子は侍烏帽子を、女子は高烏帽子を授けられる。これによってここに成人が完成する。もう子供の中学生ではなく、大人の中学生が誕生する。


 神酒拝戴。

 神饌の甘酒には神の力を持っている。それを神酒として体内に取り入れることで、元服をした者たちをお祓いだけでは得られぬ完全なる清らかな状態にして、神のご利益を与えられる。


 その後、祈祷殿から拝殿に渡って、一人一人が拝礼をして神に誓願する。まこちゃんはここで何を誓っているのだろうか。


 男の子の童児が登場し、稚児舞を披露する。そして続けて、女の子の童児が巫女舞が奉納される。小学生の舞いは古式ゆかしい衣装で微笑ましい姿に心が和んだ。


 再び祈祷殿に渡り、古来より伝わる祝い膳の料理が振舞われることになる。ここへは撮影者の僕も近付けないらしい。神の供物を味わい、古に思いを馳せる。そして、新たな門出を個々に考える。そうした場に無粋な見学者は無用だった。


 家族の元に戻ったまこちゃんは全く違う女の子に変わったような雰囲気がした。きりっと結んだ口元は自宅に辿り着くまで崩さなかった。そして、その大人っぽくなった表情は僕が忘れもしない彼女に似ている。今より以上に幼さが無くなればそっくりになる。それは元服式の化粧をまだ落としていないからだろうか。僕は何だか不安になった。


「おじさん、今日はどうもありがとうございました。今夜から入学試験に向けて頑張りますね」


 あと五日しかない。岐阜工業高等専門学校の推薦選抜だ。優秀なまこちゃんにとっては簡単な試験と面接だろう。合格は間違いないと確信していた。しかし、僕はまこちゃんに普通の高校を選ばせない切っ掛けを作ってしまった。中学生に機械の面白さを教えて、ロボコン出場を勧めた。高専に進学するとそこで人生は決まってしまう。専門職に就く覚悟がなければならない。即ちまこちゃんは家業を継ぐ道を選んだことになる。


 人生の選択肢は高校へ行って、じっくりと決めるべきではないのか。自分が何をしたいのか。そんなことを中学生の段階で決めてしまう。生半可な気持ちで出来ることではない筈だ。


「高専に決めてしまうのかい」

「はい、迷いはしません。大学受験の為に普通の高校へは行きたくない。私はロボコンに出たいし、何よりもモノ作りが楽しいと思うから」


 やはりと、僕は頷いた。まこちゃんは抜かりがないしっかり者だ。言われるまでもなく将来のことは熟慮している様子だった。

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