17 半分こ
「探したよ、おじさん」
にこにこしていて、その手には四角い木の盆を持っていた。
「寒くないの?」
「ちょうどいいくらいだ」
僕は空になったハイボール缶を振った。
「酔っているから?」
「うん」
「じゃあ、これ」
まこちゃんがカップを差し出した。湯気が立ち上っていて、良い香りがする。
「コーヒー」
「そっ、一緒に飲もうと思って、まこが淹れたの」
「ありがとう」
「それとね」
あの特大サイズのプリンが盆に乗っている。ぱんっと手を合わせて、まこちゃんは慎重に開封する。わぁ、と声に出さない感嘆を漏らした。バニラホイップが渦を巻いてプリンの上に乗っている。そして、カラメルソースが惜しげもなく掛けられていた。
「はい、おじさん」
まこちゃんがポケットからコンビニで貰ったスプーンを二つ取り出した。その一つを僕に差し出している。
「だって、こんなに大きいのは、まこ一人じゃ無理だもん」
一つのプリンを一緒に食べる。僕は彼女と以前に同じことをしたのを思い出した。実験センターに行く途中で、昼食に寄った鯨飲馬食という店でだった。僕と半分こだと言って、鯨サイズのプリンを知らぬ間に注文して、彼女は美味しそうに食べていた。
今もう懐かしい思い出でしかない。僕がまこちゃんをきららちゃんと呼んでいても、最初の頃は彼女を呼んでいる気がしていたが、その違和感も無くなっている。月日が僕の心から彼女を消し去ってしまった。もういなくなった彼女だから、それは仕方がないと諦めるしかない。
「きららちゃんはプリンが好き?」
「うん」
スプーンにすくって口に頬張った。美味しそうな表情を見れば好物なのは明白だ。
「僕の知っている人も、こうして一緒に食べてた」
「おじさんの恋人なの?」
「さあ、どうかな。コーヒーが大好きなんだ」
「まこと同じだね。まこはおじさんにコーヒーを大好きにしてもらった」
まこちゃんはどう感じているのだろう。中学生の女の子が青年から中年に差し掛かる男をどう見ているのか分からない。しかし、きっと父親的な感情を抱いてくれているのだろう。
僕がちょうど半分を食べるようにペースを調整してしている。まこちゃんが好きなのだから自分で買ったのに、僕に遠慮して呉れている。それは年上を相手にしているからなのか、それとも何なのか。
窓を開けたままで体が冷えてきた。流石に防寒着を着込んでまで景色を眺め続けている訳にもいかない。それでもまこちゃんは平気な顔をしている。若さなのだろうか。それとも僕の酒気が早くも醒めてきた体温が下がってきたのかもしれない。
「美味しいコーヒーだったよ」
カップを返すと、まこちゃんは満足そうに頷いた。
「また御馳走しますね」
ぱんっと手を合わせて、僕の食べ終えたものを片付けて出て行った。襖が閉じられと静寂が僕の身を包み込む。忘れていた訳ではないが、彼女を思い出して僕は心が痛む。このままで年を取っていくのだろうか。いつの日か彼女のことを思い出さなくなってしまうのだろうか。




