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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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16 プリンとハイボール

「おじさん、お酒が足りないだって」


 まこちゃんが僕に耳打ちしてきた。聞けば、元日なので近所の酒屋が閉まっている。何処かで調達して欲しいとのことだった。


「きららちゃんは、この辺りに詳しいの?」


 田舎だから商店は軒並み正月休みだろう。見当を付けて出掛けないととんでもないことになりそうだ。


「おばあちゃんが国道を車で行けば、お店があったかなぁって」


 随分と曖昧な助言だった。だが、仕方がない。ここでまだ飲酒していない大人は僕くらいだった。ハイボールがないから今まで遠慮していた。そうでなければ真っ先に飲んでいる。信心がないからオコナイさんをお祀りする感情が理解できない。理解できないから、飲まなければやっていられない。


 まこちゃんを連れて、軽トラを運転した。当然のようにマニュアル車だったのでシフトチェンジに手こずってしまう。


「あははは」


 半クラッチの操作が下手で、軽トラがエンストを起こしそうになる。その度にまこちゃんが笑っていた。乗り心地が悪い車内でわざと転げ回っている。何とも悪ふざけが好きな女の子だった。


 家を出て暫くは県道を走った。道路標識の形が違うので分かる。僕は国道を逆三角形、県道を六角形と記憶している。


「あっ! おじさん、あそこっ」


 ふざけ調子だったまこちゃんが急に指を差した。


「あそこ、コンビニがある」

「まだ国道に出てないぞ」


 僕は少しドライブをするつもりでいたので、コンビニの存在は了解しかねた。


「お酒も売っているみたい。すぐに見付かって良かったぁ」


 コンビニの看板の下に酒の文字もあった。安堵の表情のまこちゃんに僕の苦い表情を見られないようにする。これで僕の休憩時間は終わったのだ。


 店内にパック入りの日本酒と焼酎があった。瓶入りがないは残念だが、既に酔っ払った相手には味の違いなんて分からないだろうと思って買うことにした。


「これも欲しい!」


 驚いたことにまこちゃんが巨大な器を小脇に抱えている。


「何それ?」

「分かってるくせに」

「特大サイズのプリン」

「うん。一緒に買っていい?」

「どうぞ」


 支払いをするのはまこちゃんだ。社長から財布を預かって来ている。僕は運転手兼荷物運び役でしかない。


 ゆっくりする暇もなく僕たちは酒宴の場に戻った。買って来たばかり日本酒を徳利に移して燗をする。それを吞兵衛たちに素知らぬ顔で出したが、案の定文句は言われなかった。安いパック酒でも量さえあれば十分な人達なのだろう。


 少し唐揚げなどを分けてもらおう。少し小腹が空いてきた。僕は小皿に食べ物を盛って、奥の部屋へと退散する。人気を避けたくなったからだ。深く溜息を吐いて、こっそりとコンビニのレジ篭に忍ばせて購入したハイボール缶を取り出した。角ウイスキーの濃い目だ。


「うまい」


 胃の腑に沁み渡る。もうこれでお使いは無理だ。社長には申し訳ないが、僕は十分に働いたと思う。これは自分へのご褒美のつもりだった。


 四畳半の部屋には何の家具もない。この家にはそのような部屋が幾つもあった。僕は窓を開けて景色を眺める。一月の寒気が部屋を襲ってくるが、視界いっぱいの深い山に見惚れていた。


「これが本来の人の生活の場なんだろうなぁ」


 何故だか感慨深げになっている。アルコールが回って火照り出した頬が、寒気に晒されて気持ち良いからだろうなんて理由付けを考えた。そんなことをしても無意味なのに、僕は一人で何をしているのだろうか。


「あっ、いたいた」


 まこちゃんが部屋の襖を開けて、顔だけを突き出した。

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