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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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15 元旦の伝統行事

 年を二つ越して、二〇一二年になった。


 高橋化学工業は無事に経営危機を脱し、更にベンチャー企業への株式投資で大幅黒字化した。しかし、この年の三月に東北地方で大震災が起きる。それに備えて事業転換と株式投資を撤退しなければならない。債権をすべて現金化して、貸し倒れの損失をなくすのだ。


 社長の実家では元旦の伝統行事が行われることになった。工場に近い自宅とは違って、隣接市の山麓にあった。古い家屋で江戸時代の建築らしい。毎年正月を一人で過ごしている僕を見兼ねて、社長が誘ってくれた。しかし、そういうのは建前で、今年は社長の当番で祈願祭が行われる。それを手伝う役目を仰せ付かった。


 オコナイさんをお祀りして五穀豊穣を祈る。この地方の神仏に餅をついて供えるのだ。そして、祈願寺や仏堂にも餅や供物を供えて回る。儀礼は親戚一同が集まって祈祷した後に盃事が行われる。


「お仕事じゃないのに、おじさんも大変だね。これもサラリーマンの辛いトコなの?」

「おっ、言ってくれるね、きららちゃん。でも、これは受験生のきららちゃんの為だよ」

「えっ、私の! でも、推薦選抜だから大丈夫なの」

「自信ありだね。きららちゃんは優等生だからね」

「おじさんのお陰だよ。機械のことをたくさん教えてもらったから、普通の高校へは行けなくなっちゃった。私はロボコンに出てみたい」

「うん、あそこはいい学校だよ。家からも近いしね」


 徒歩で二十分も掛からない。その近くにも高校が二つもあるが、偏差値としては一番高かった。


「おじさんが言うのなら間違いないね」


 まこちゃんは目的をもって入学を決めている。高専ロボコンは魅力的なアイデア対決だ。発想力と独創力で戦い、全国大会出場を競い合う。


「入学試験まであと半月だね。体調管理をしっかりとするんだよ」

「うん、大丈夫。オコナイさんにもお願いしているの」

「きららちゃんは奥ゆかしい日本古来のしきたりの中で育ってきたんだね。そういうものがたくさん合わさってきららちゃんに性格になっている。だからこれからもそれを大切にして欲しいと思うよ」


 少し首を傾げてまこちゃんは不思議そうな表情をした。大切にするのが当たり前なのだろう。言われるまでもないことだったのかもしれない。


 高橋家一同が盃で酒を酌み交わした。辺り空気が一変した。何故なのか僕にはそう感じた。否、肌が総毛だった。だから、信心というものが欠けている僕でも神妙になってしまう。今ここに神様が存在している。そう信じた。


 酒宴になり、僕の仕事量は上限に達している。単なるお手伝いのつもりで気軽に来ていた僕は、あまりの忙しさに目を回していた。


「済まないね、佐藤君」


 社長から一声だけ労われたが、当番となっているので僕以上に忙しい様子だった。これならば菩提重工で経験した忘年会の幹事のほうが余程楽だろう。ゆっくりと食事をしている隙などありはしない。勿論手伝いだからと決め込めば手を抜ける。しかし、傍らでまこちゃんが懸命に接待をしていれば、僕だけがそんなことは出来なかった。

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