14 水風船
たじたじの態で僕はその場から後退すると、皆もヨーヨー釣りを始めたけれど、その視線の端に僕を捉えて放さない。親子とまではいかないが、こんなに年齢が離れていては彼氏として有り得ない。僕は中学生たちの敵になっていた。
まこちゃんと並んでヨーヨー釣りをする六人。何の話をしているのかは聞こえない。でも、それは楽しい内容であることは、まこちゃんを見ていて分かる。クラスの女子といると疲れるとか言っていたが、満更そうでもない様子だった。僕と話をしている時よりも良い表情をている。やはり気が置けない仲間なのだろう。
「お待たせ、おじさん」
ヨーヨーの水風船を一つ携えて、まこちゃんが戻って来た。
「友達と一緒に行かないでいいのかい」
「いいの。だっておじさんがいるもの」
喜んでしまうには気が引ける。しかし、拒絶する気にはなれない。それは僕がまこちゃんといることを楽しんでいるからだった。だが間違っても恋愛感情などはない。僕は今でも彼女一筋だ。それだけは断言できた。
「ゼリービーンズ!」
ゼリービーンズ売りの屋台で、まこちゃんが赤く艶々と輝くゼリービーンズを指先に摘まんでいる。赤、白、青、緑、橙、紫とたくさんの色が売られていた。
「そういえば、おじさんも持っていたよね」
何故知っているのだろう。この世界に来て初めて会ったのがまこちゃんだった。しかし、別れた後で僕がゼリービーンズを握っているのに気付いた。
「知っていたのか?」
「・・・、うん」
返事に一瞬の間があったのを僕は聞き逃さない。
「おじさんが目を覚ます前に手の中にあったのを見たよ」
有り得ることだ。それを見られていても不思議ではなかったのかもしれない。
「僕の彼女がくれたんだよ。手作りのゼリービーンズというのはね、本当に大好きな人に、一生に一度だけあげるものなんだよ」
まこちゃんは指に摘まんでいるゼリービーンズをしげしげと見詰めた。屋台の電球に光って輝いている。不思議な魅力を感じてくれているだろうか。
「そっか、作り方覚えなきゃあ」
「そうだね。好きな男の子にあげようね」
うんっと言って、まこちゃんは急に僕の腕に抱き付いて来た。柔らかい体の感触が伝わる。それはまこちゃんの胸の膨らみかと僕は焦った。しかし、意外な程に冷たい感覚だ。
水風船!
まこちゃんは口を尖らせて笑っていた。女子中学生に翻弄される僕だった。
ドォーーーン!
周りにいる誰もが夜空を見上げる。そこには大きな花が咲いている。花弁の中心が金色で徐々に緑がかり、続いて紅の大輪となって咲き誇る。見事な菊花火が打ち上がっていた。
「綺麗」
まこちゃんが感嘆の声を漏らした。腕を組んで眺めている僕の目は何故か潤んでしまう。幾つもの条件が揃っている状況がもたらしている。それは夏祭り、花火、女の子、組んだ腕。それなのにたった一つだけ揃っていないものがある。彼女だ。彼女がいない。
「きららちゃん」
僕は彼女を呼んだ。その横でまこちゃんが自分を呼ばれたと思って頷いていた。
どうして?
まこちゃんが泣いている。僕にはその理由が分からなかった。




