11 宝くじ
「ふぅん」
「きららちゃんに出来ることをしようよ。神様にお願いして宝くじを買いに行こう」
「えっ、宝くじ?」
今の高橋化学工業を救うには一等を当てることだ。
「まこちゃんが三百円で宝くじを買って、五億円を当てればいいんだよ」
「おーっ、そっか、そっか。私にも出来ることっていろいろあるんだね」
素直にまこちゃんは喜んでくれている。どうせ当たらないだろうが、出来ることは何でもしたいという願いを僕は教えてあげた。そして、僕には叶えてあげられる秘密を持っているのを、まこちゃんは知らない。
日曜日の夜が明けた。僕はまこちゃんが今どうしているのかを知らない。しかし、きっと僕が言ったことをしているだろう。体を清めて神社にお参りしている筈だ。古いしきたりを守る。それがまこちゃんという女の子だ。
午前九時を過ぎて僕は工場から徒歩五分の社長宅を訪れた。宝くじは未成年には販売してくれない店が多いので、まこちゃんを連れて行ってあげる約束をしていた。
「おはよう、おじさん」
真っ白なワンピースを着たまこちゃんがいた。清らかであるのが一目で分かる。落ち着いた様子で僕を待っていたのだろう。
「神様は助けてくれるかな?」
出来ることは何でもしたい。それがまこちゃんの優しさだ。僕はそれをうまく利用している。子供を思い通りに使って、大人の経営危機を回避しようと企んでいる。そんな僕は卑怯だ。
大垣駅にまで行った。宝くじ売り場は駅前にあった。
「分かんないよ。おじさんが書いてよ」
「じゃあ、きららちゃんの好きな色は?」
「緑」
「24と5だな」
「嫌いな色は?」
「茶色」
「15と2」
「今思い付いた色は?」
「白」
「19と13」
「ねぇ、どうしてそんな数字になるの?」
「色には数字が当てはめられているんだよ」
もちろんそんなことは嘘だ。僕はスマホに記録している当選番号を書いただけ。一等の当選金額は二億円。それを奪おうとしていた。
「当たるかな?」
「きっと当たるよ。きららちゃんがお父さんとお母さんを助けるんだ」
うんとまこちゃんは大きく頷いた。奇跡なんてものがある筈もなく、この世には当然のことしか起こらない。まこちゃんが真実を知ったらどう思うだろうか。僕がすることは、この世で起こる当然のことでしかない。奇跡を本当に起こせるのは神だけだ。神ではない僕をまこちゃんは何と思うのか。




