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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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9 水彩画

 まこちゃんのお陰で就職してから二年になるが、会社はリーマンショックで今や火の車になっていた。そんなことになるなら僕を雇わなかっただろうに、社長は日々の資金の工面に躍起だった。


 よく今まで倒産させずに持ち堪えたものだ。それは単に社長の必死の努力でしかない。しかし、それももう終わりの時に来ていた。僕は仕事のない毎日を送りながら、その時を恐れていた。


「きららちゃん。明日、例の店に行くかい」

「わぁ、ありがとう」


 中学生になったまこちゃんは水彩画をこよなく愛する女の子になっていた。クラブ活動で使用するアクリル絵の具などお気に入りの色を揃える為にその店に行き着いた。しかし、岐阜駅から少し離れた場所だから、まこちゃん一人だけでは出掛けさせてもらえない。そこで忙しい両親に代わって僕の出番になった。


 いい年をしたおっさんが中学生の女の子と毎週のように連れ歩いていた。目的はあるのだが、それは世間体として僕は疑わしい行為をしているのかもしれない。しかし、社長には世話になっているからその恩を返しているつもりでいる。社長は社員たちに給料を払えば、会社に残る金がなくなる。負債を増やすばかりで経営は成り立っていないだろう。


 だからこそ僕は労働の意欲を強く維持している。工場の機械に触れているだけでも楽しいのだ。そして、景気が回復した時に備えて高橋化学工業の新製品開発に邁進していた。


 画材屋の店内はまるで倉庫のように商品が並べられている。僕にとっては見分けの付かない絵の具を握り締めて、まこちゃんは一生懸命にどちらを選ぶべきなのかをずっと迷っていた。


 どちらでも同じじゃないか。


 そのようにことを一言でも言おうものなら、まこちゃんは眉間に皺を寄せて怒り出すだろう。こちらのメーカーがこうで、あちらのメーカーはああだ。微妙な違いが大きな違いだとああだこうだという。そして、僕は成程そういうことかとさも分かったように答えてあげると、まこちゃんは漸く納得するのだった。


 まこちゃんの絵画のテーマは工場に決めている。高橋化学工業の建屋は県道から直角に入る狭い生活道路に面している。事務所側に道路の勾配があるのでコンクリートの階段が六段ある。シャッターのある工場側はなだらかで、トラックの出入りが容易だった。


 赤いトタンの町工場。ここを見渡せる構図がまこちゃんお気に入りの場所になっている。そして、工場内部で働く行員や機械も描く。赤や黒など単一に見える色を多彩色に色分けて描く技巧は、僕をいつも感動させていた。


「だからあのお店の絵の具は大切なんですよ」


 絵の具のお陰だと言うが、それはまこちゃんだから出来る技だと思う。僕にはその素質の片鱗さえもなかった。

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