7 れいか
「葬儀を見に行こう」
彼女が亡くなっていたのならば、僕にはしなければならないことがある筈だ。道案内の貼り紙の前に戻って、一つ深呼吸をした。その指し示す方向をしっかりと確認した。武家屋敷を思わせる門構えに続く分厚い石垣があった。その屋敷に髪の長い女の子がいた筈だ。しかし、僕が最後に見た元気に登校して行く女の子はもういない。
「凄いお屋敷だね。どうして田舎って大きなおうちが多いんだろう」
まこちゃんが僕の後を付いて来る。もう手を繋いでいないので、置いて行かれないように懸命だ。
「ここが彼女の家だ」
「ひゃー、お金持ちぃ」
工場を経営しているまこちゃんの高橋家だが、その生活は庶民的で質素な暮らしだった。
門前飾りの提灯と樒が見える。そして、故人の名前を書かれた看板が立てられている。
「怖いな」
近付く程に名前の文字がはっきりと見えてくる。僕は足を止めそうになるのを必死で堪えていた。
故 武鎧―――
名前を見る勇気がない。僕は俯いて目を閉じてしまっていた。
「武鎧―――、れいかだって」
まこちゃんが代わりに読んでいた。
「れいか?」
故 武鎧麗香 葬儀式場。僕はその文字を確認した。
「きららちゃんじゃない?」
「きららちゃんだよ」
まこちゃんが自分を指差して言った。僕は彼女を呼んだのだが、それを知らないまこちゃんには当然な反応だった。
武鎧摩唯伽ではなかった。しかし、このローカル線の終着駅の土地で暮らしていたと彼女は言っていた。ここで武鎧家は一軒しかない。その一人娘が小学生の武鎧麗香。それでは一体彼女は何処に行ったのか。これでは存在していないことになってしまう。
彼女が亡くなっていないと簡単に安堵できなくなった。むしろこのほうが最悪ではないのか。存在していないなんて有り得ない。彼女は菩提重工の新入社員で、僕が教育していたのだ。この時代に彼女が生きていなければ、あの時の彼女も存在しなくなるではないか。
「訳が分からない」
「ぶーっ、おじさんの意地悪」
からかわれていると勘違いしている。しかし、この時の僕には全く思考に余裕なんてなかった。すぐに取り繕うべきなのだが、まこちゃんを怒らせたままにした。たかが小学生の女の子なのだから大したことではない。そう僕は勝手に決めていた。
「まこちゃん、少し黙ってくれないか」
泣いている? 突然、瞳から溢れ出る涙を僕は見た。
「もう帰る!」
ぷいっとそっぽを向いて離れて行くまこちゃんに僕は面食らった。




