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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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6 葬儀

 電車が終着駅に着いた。一両編成の車両で僕たちは後部の扉から降車する。空色のボディーには赤と白のラインが鮮やかだ。それを目で追いながら改札口へと向かった。


 ―――まだ小学生なのに、可哀そうだこと。


 ふと黒衣の老人たちの会話が耳に入った。僕は何だろうと訝しむ。自分たちのことを言われたような気がしたからだ。小学生のまこちゃんを連れている僕を、老人たちは変に目で見ているのだろうか。確かに親子にも、兄妹にも見えない。中途半端な年の差だった。


 駅前の電柱に指差しの絵が描かれた黒枠の紙が貼られている。僕はその前に立って指差しの方向に視線をやると、すべての電柱に同じ貼り紙がしてあった。


「お葬式かなぁ」


 まこちゃんが表情もなく言った。


「これって、何て読むのかなぁ。たけ・・・、それとも、ぶ・・・」


 難しい漢字が貼り紙には書かれている。


「・・・ぶがい、だよ」


 武鎧家。葬儀の道案内の貼り紙には、そう書かれていた。


 ―――まだ小学生なのに、可哀そうだこと。

 僕の胸は呼吸が出来ないほどに締め付けられていた。武鎧家の葬儀。そして、小学生。


「きらら―――」


 この場所でまこちゃんをきららちゃんとは呼べなかった。本物のきららちゃんの近くで、それは出来ないことだ。僕の不安がまこちゃんの手を握らせる。


 そう言えば彼女には誤魔化されたが、両親は亡くなったと聞かされたことがある。生魚を食べられなくなった理由としていたが、結局彼女は冗談だと言って笑っていた。本当にそうなのか。それが事実ならば両親が亡くなったので、残された子供が可哀そうだと言うのは不思議ではない。


「すみません」


 黒衣の老人たちに声を掛けた。どうしても確かめなければならない。


「すみません。武鎧家のどなたがお亡くなりになられたのですか」


 胡散臭そうに僕を見る老婆。普段着姿の僕とまこちゃんを見比べている。やはり小学生のまこちゃんを連れている僕を不審に思っている。


「まだ小学生の一人娘さんなんだよ。可哀そうに交通事故なんてね、突然過ぎて御両親もさぞかし気を落とされているでしょうね」


 僕は膝の力が抜けて倒れてしまいそうになった。まこちゃんの手を握っていなかったら僕は確実にそうなっていただろう。


 誰が亡くなったのか。その名前を聞くのが怖い。摩唯伽と言われたら、僕の心臓は止まってしまう。


「まこちゃん、帰ろう」


 もうここにはいられない。僕は崩壊していく自分の姿が見えるようだった。


「えっ、いいの。おじさんの大好きな人ではないの?」


 じっと僕を見詰めるまこちゃんは後悔しないのかと問うている。ここで最期の別れをしないのは間違っていると諭している。


「少し落ち着きたい」


 道案内の貼り紙が指し示す方向から逸れて、僕たちは河原に出た。その向こうには彼女が通っていた小学校が見えている。ここで僕は彼女を見付けたのだ。


「大丈夫?」


 河原のへりに腰を下ろしていると、まこちゃんが心配してくれる。またあの時と同じだ。照手神社で倒れている僕を救ってくれた。


「お水、飲む?」


 辺りを見回してコンビニか自販機を探しているようだ。近くの酒屋の前に自販機が数台に並んでいるのが見えた。お金を渡して何かを買って来てもらうことにした。


「ごめんね、おじさん。お水はなかったよ。お茶でもいいよね。それとも、お酒屋さんだから、ハイボールのほうが良かったのかなぁ」


 ちろりと舌を出してお道化ている。


「いや、お茶でいいよ」


 ハイボールなんて酒を知っているんだなと僕は内心で驚いていた。しかし何故、僕の好みを知っているのだろう。それとも偶然なのだろうか。まこちゃんの前で僕は酒を飲んだ覚えがないのに。


「僕の彼女は日本酒が好きだったんだ。そのせいでいつもこっそりと飲まされていた」


 横に座ってまこちゃんは葡萄ジュースを飲んでいる。濃い紫色の液体が瓶の中で揺れている。


「なぁんだ、大人の女の人なんだ。そっか、それはそうだよね、おじさんの恋人なんだもん」


 まこちゃんは相手が小学生だと勘違いしている。ここまでの話の展開では当然だが、詳細を伝えられないもどかしさを呪った。


「行こう」


 大人である自負心。まこちゃんはそれをくすぐってくる。僕が愛するのは大人の女性なんだと。

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