5 おしゃまな女の子
「おじさん、まこも同じものが欲しい」
「きららちゃんにはまだ早いと思うよ。これは大人になってからだ」
「大丈夫だよ。まこはもうすぐ中学生になるんだよ」
「あぁ、そうだね。じゃあ、コーヒーを頼んでいいよ」
嬉しそうにするまこちゃんはメニューを広げて注文をする。
「チキンサイドとカルボナーラのセットをコーヒーでお願いします。おじさんも同じでいい?」
「うん」
「それじゃあ、二つで」
注文の品がくると、まこちゃんは大きな口を開けて美味しそうに頬張った。
僕は今この町で一年余りを暮らしている。
高橋化学工業。
それが僕の就職先になった。ローカル鉄道を途中下車して、彼女の足跡を逆に追って行こうとしていたところでまこちゃんに再会した。社長の一人娘のまこちゃんは照手神社で倒れている僕を助けてくれて以来、どういう訳か僕を気に入ってくれていて親しくなっていた。
「今日はこの後、電車で終点まで出掛けるんだけど、きららちゃんはどうする?」
「大垣? それなら連れて行って欲しいな」
「残念、逆方向だ」
「えーっ、そんなところに行ったって、何もないよぉ」
詰まらないという表情をまこちゃんはした。それはそうだろう。ここから北に向かって行っても山しかない。栄えた町からそんな場所に行っても、まこちゃんには退屈なだけだった。
「でも、まこは暇だから行ってもいいかも」
「無理しなくてもいいぞ」
ぶーっと膨れるまこちゃんは面白い。小学生を相手にしているのに、僕はとても癒される感情を抱いていた。僕の半分にも満たないまこちゃんの年齢なのに、しっかりと僕と対等に振舞った。
おしゃまな女の子。この年頃では普通なのだろうか。ぼんやりと子供時代を過ごしてきた僕には測りようもない。
「おじさんは何をしに行くの?」
電車に乗ると、まこちゃんは膝を揃えて大人しく座席に座っている。休日の昼下がりに乗客も少なく、黒の礼服を着た老人が三人いるだけだった。
「うーん、大好きだった人が元気にしてくれているかを確かめたくてね」
「恋人なの?」
小学生を相手にして僕は何を言っているのかと後悔したが、まこちゃんはしっかりとそれに食いついてしまった。
「おじさん、振られたの? それなのに会いに行くの?」
僕が過去形で言ったから当然の反応だ。まこちゃんは、げげっという表情をした。
「違うよ。振られてなんかいないよ。僕をまだ知らないだけ―――」
変な誤解をされては堪らないから説明をしようとしたが、十二年の時を越えて来たとまともに話す訳にもいかない。
「えーっ、それって変な話。あー、そっか。片思いだったんだぁ」
まこちゃんのノリがヤバい。彼女がまだ小学生だと知ったら、どう思うだろうか。しかもまこちゃんと同学年になるではないか。これは非常に醜い展開になってしまう。
「そっか、そっか。じゃあ、これから告白するのね」
「それも違うよ。見守りたいんだよ」
納得出来ずに、ふーんと言うまこちゃんだった。




